施工管理の満足度を上げ、会社を永続させる
地域工務店にとっては新型コロナが流行したこの2年間は苦難の時期であった。さらに、ウッドショックなどをはじめ建材の高騰も加わり、経営環境も悪化したところもあった。東京商工リサーチは、建設業の「新型コロナ関連破たん」はジワリと増加していると分析している。
しかし、このような中、株式会社楓工務店はかねてからのテレワークの実績もあり、ユーザーとの対応ではいち早くオンライン化を展開、現場も止めず大いに協力会社や職人から感謝されたという。最近では現場から出た余った木材を無償提供する「残材BANK」にも取組み、SDGs(持続可能な開発目標)や地域貢献の分野にも強化している。
通常、離職率が高い施工管理だが、楓工務店では施工管理の満足度も高い。強さの源泉は現場力にあるといってもいいだろう。楓工務店ではコロナ禍という苦境にあってもなぜ売上高や利益を確保できたのか。田尻 忠義社長にその秘訣をいくつかうかがった。
地域工務店を永続させるには、施工管理者の働きがいを上げるべき
――この2年間、新型コロナウイルスが流行し、現場も大変でした。コロナ時代の地域工務店のあるべき姿をどのように考えていますか?
田尻社長 地域工務店の存在意義は、家守です。住宅会社とお客様との関係性は一過性になりがちです。そして、住宅を引き渡した時点で工務店とお客様の相互の価値が最大になる。ですから、中には次から次へと住宅を建築し、焼き畑農業のようにその瞬間だけの関係を築く住宅会社もあります。
しかし、お客様の視点に立ってみれば、ただ住宅を建築することだけが目的なのではなく、住宅を通して豊かで幸せな生活を実現することが目的なわけです。お客様も数十年間ものローンも組むんですから、地域工務店もお客様の要望にいつでも対応できるよう、永続できる会社を目指さなければなりません。
そして、会社を永続していくことを考えれば、おうちを建てたお客様に喜んでもらうことは絶対に必要ですし、そこで働いている従業員も見通しをもって働いてもらうことで、働きがいも高まります。自分がやっている仕事が誰かの幸せにつながり、自分たちの精神的や経済的な豊かさにつながっているという実感がないと会社は永続していくことは難しい。
ですが、注文住宅はクレームが発生しやすいから、従業員とお客様満足度の双方が低い。特に施工管理者は離職率も激しいし、中途採用の募集単価は設計や営業よりも高い。ですから、施工管理は働きがいを維持することが会社を維持するうえでとても大切なことなんです。
施工管理の満足度を上げる秘訣
――施工管理の満足度を上げる方法はありますか?
田尻社長 よく施工管理は育成が難しいといわれていますが、一番簡単だと考えています。なぜなら、建築する場所と図面が変わるだけで、実際に現場でやることは大きく変わらないからです。ただ、そのフローの可視化ができていないことが課題です。現実的には、見習いの時点で先輩の横に配置し、意地と根性とガッツで覚えさせるという乱暴な育成方法がまかり通っています。そんな育成方法だから、施工管理者は育たず、離職率も高いのです。
ですから、まずは施工管理者がやるべきことを明確にすること。そして、それを現場ごとに管理し、生産性を向上させるためにどの部分を短縮したら自分たちの働く時間が短くなるのかまで計測させないと働きがいは生まれません。
さらに言えば、施工管理の課題は川上の図面にあります。施工管理は職人さんに図面を通訳させる役割を持っていますが、その際に齟齬があると、お客様などのご指摘により、工事をやり替えなければならない場面が出てきます。
一回は仕方がないにしても、そのミスを繰り返さないために、当社では「再発防止報告書」を作成しています。それに基づいて起きたエラーの発生金額を毎年合計していますが、年々減少傾向にあります。発生原因を川上にあげ、設計者と再発しない仕組みの構築を徹底しているからです。こうした取組みにより、当社では施工管理者の働きがいが強く、離職率も低く推移しています。
――地域工務店の中には、コロナに加えて、建材関係の値上がりの影響もあり、一時的ではありますが給料を減額したケースもあるようですが。
田尻社長 構造材関係は倍近く値上がりしましたが、弊社では給料については1円も減額していません。会社が厳しい状況におかれても、もし従業員の生活に響くレベルまで減額すれば、会社と社員との信頼関係にひびが入ると判断しました。一時期、持ち出しになった時もありましたが、また巻き返せばいいですしね。支給額が下がるとモチベーションも下がります。私はそれだけは絶対に防ぎたかった。「経営の神様」である松下幸之助の言葉である、「2年間、何があっても従業員の給料を守れるようなお金をつくれ」というのは現代でも通じる名言だと思います。
――コロナによって、施工面で大きく変わった点はありますか?
田尻社長 現在、デジタル化に重点を置いた他社の工務店支援を実施しています。ITを導入することで、仕事の範囲が拡大します。工務店もITについては二極化しています。ですからITにうとい工務店は業務の負担が大きく、離職率も高くなっていきます。しかし、ITによる効率化を進めることで、工期の短縮も実現していきます。
工務店は長時間労働が常態化している業界ですから、効率化から目を背けてはいけません。これまで北は福島から南は宮崎まで、約20社の工務店の効率化について支援してきました。
また、営業面についても、集客は鈍りましたが、売上高は上がりました。早い段階でオンラインでの対応に切り替えたこともありますが、感染症が流行する以前からテレワークを進め、必ずしも出社することなく生産性を向上させる体制を整えてきたことが大きな財産でした。
同時に、以前からオンラインでの打ち合わせにも注力していました。お客様と2回しかお会いせず、ほかはオンラインですべて対応し、おうちの引き渡しを行ったケースもあります。そのお客様曰く、「1ミリの不安もなかった」とのことでした。
「マスク配布」「残材BANK」で地域貢献
――ほかに、地域工務店が意識するべき点はありますか?
田尻社長 地域工務店や建設会社は、積極的に地域貢献を行うべきです。特に我々は地域の皆さんのおうちづくりや、リフォームや不動産売買で生計を立てています。自社の経営に支障をきたさない範囲であれば、地域貢献にお金を使うということはとても大切なことだと思います。
楓工務店は、「笑顔を創造する」を企業理念としているので、地域貢献は会社の姿勢を地域の皆さんにアピールするいいチャンスでもありました。本社の地元の祭りに寄付し、参加することもしていましたが、これは限定的です。
ですので、OBの数千世帯のお客様に、「もしお知り合いの中でおうちを建てることや不動産物件を探され、リフォームをご希望される方がいらっしゃればご一報ください」という手紙を添えて、マスクを配りました。
その後、感謝の電話もいただき、スタッフにとっても励みになりました。自分たちの取り組みが誰かにいい影響を与えているという実感を社員が得られる機会になりました。
その他にも、コロナ禍やおうち時間の過ごし方として自宅でDIYをする人が増えている今、建設現場で余った残材を無償提供する「残材BANK」の取り組みを始めました。本来捨てられるはずものを必要な人のもとへ届け、建材の廃棄ロスにつなげたいと考えています。今後は月1回のペースで本格的に運用していく予定です。
具体的には、建設現場で残材が出た場合、資材の画像、サイズや種類、本数などを専用インスタグラムに投稿して、希望者にはインスタグラム内の専用フォームから応募していただき、本社事務所(高の原本店)で引き渡しを行っています。
本来捨てられてしまうはずの残材を必要な人のもとへ届けるこの取り組みは、建設現場での建材の廃棄ロス問題を解決し、SDGsの「陸の豊かさも守ろう」に通ずるものです。また、お子さんと一緒に何かつくることにあたり、残材がお役に立てばそれは本当にありがたいことで、思い出の仲介人としての役割を果たすことにもつながります。それは当社が掲げる「笑顔の創造」という理念に一致する地域貢献活動であるとも言えます。
――これから工務店業界は超高齢化社会の中で競争が激化していきます。
田尻社長 お客様もインターネットが整備されたとはいえ、おうちづくりという世界ではまだまだ情報弱者です。住宅という大きな買い物をするにあたっては、工務店や人を信頼することに重点が置かれることになります。その信頼を裏切るようなおうちづくりをすることはあってはならないことです。
ですからお客様にもっと喜んでもらうおうちづくりを進めるためには、働く環境をよりホワイトにしていき、現場でのエラーが出ないような取組みを継続していかなくてはなりません。それは経営層だけではなく、現場の施工管理、設計士、営業マンから改善の声をあげて工務店業界を一丸となって改善できればいいですね。
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