低炭素化に挑戦する「EeTAFCON研究会」
(一財)電力中央研究所や中川ヒューム管工業株式会社らは、CO2排出量を約70%削減可能な次世代コンクリート・EeTAFCON(イータフコン)の普及を目的に、「EeTAFCON研究会」を2022年に設立している。
特別会員には株式会社淺沼組、株式会社熊谷組、東亜建設工業株式会社、戸田建設株式会社、東洋建設株式会社などのゼネコンも参加しており、普及に弾みがついている。電力中央研究所と中川ヒューム管工業がこれまで蓄積してきたEeTAFCONの製造に関するノウハウを他のコンクリート製品会社に水平展開し、新たな製品開発や普及を加速していく方針だと語る、同研究会の人見隆幹事長(中川ヒューム管工業)に話を聞いた。
CO2排出量 約70%も削減でコンクリの長寿命化も
左から、EeTAFCON研究会の人見隆幹事長と中川喜夫幹事
――次世代コンクリート・EeTAFCON(イータフコン)の概要からお願いします。
人見隆氏(以下、人見幹事長) EeTAFCONは、ポルトランドセメントを使わず、石炭灰や高炉スラグ微粉末といった産業副産物、アルカリ性水溶液、および砂・砂利を混ぜて製造するコンクリートであり、電力中央研究所がその基本製造技術を開発しました。従来のセメントコンクリート製品と同等もしくはそれ以上の性能の製品を製造することができます。
また、学術的な分類で言うとEeTAFCONは”アルカリ活性材料”や”ジオポリマー”と呼ばれるコンクリート(以下、アルカリ活性型コンクリート)に該当します。従来からアルカリ活性型コンクリートの開発は国内外で行われていますが、それら従来技術の多くはコストと製造性に問題を抱えていました。これは、高価かつ粘性が高い「水ガラス」を原材料に用いているためです。そこで、電力中央研究所では、従来技術のコストや製造性の問題を低減するため、「水ガラス」を使用しないアルカリ活性型コンクリートEeTAFCONの製造技術開発に取り組んでいました。
2018~2020年には環境省委託事業において、中川ヒューム管工業、電力中央研究所、(一財)石炭フロンティア機構の3社で、工場での製品量産化技術の確立や構造設計手法の構築、試験施工による性能検証といった実証的研究を実施し、工場での製品製造に関するノウハウや実用性を証明するデータを蓄積いたしました。
その結果、従来のアルカリ活性型コンクリートよりも低コストかつ製造しやすいEeTAFCONの開発を果たし、中川ヒューム管工業・郡山工場での製品量産化が可能な段階に進んでいます。
図:研究開発のロードマップ
――従来製品とは、どのような違いがあるのでしょうか?
人見幹事長 よく話題になるCO2の排出量は、一般の従来コンクリートと比較して約70%減となります。さらに、従来コンクリートに比べ耐久性が高く、コンクリート製品の長寿命化も可能ですので、脱炭素社会やインフラ構造物のライフサイクルを大幅に伸ばすことに寄与できると考えています。また、原材料粉体の90%以上が産業副産物すなわちリサイクル品ですので、循環型社会の形成にも貢献できます。
図:EeTAFCONの原材料とCO2排出量
国も低CO2コンクリの開発・普及を後押し
――研究会の設立の狙いは?
中川喜夫氏(以下、中川幹事) 低炭素社会や循環型社会の実現に向けてEeTAFCONの普及を加速していくためには、全国各地のコンクリート製品会社と協力し、その供給網を拡大することが必要です。また、品質評価法の確立やコストの低減、さらには酸劣化抵抗の高さといった特長を活かした市場競争力の高い商品開発を行っていかなければなりません。
このような背景から、コンクリート製品会社に加えて、学識経験者、サプライチェーンを構成するゼネコンや電力会社などを会員とする「EeTAFCON研究会」を設立しました。これまで蓄積してきたEeTAFCONの製造に関するノウハウを他のコンクリート製品会社に水平展開し、新たな製品開発および普及を加速していくことが研究会設立の主な狙いです。また、研究会を通じて今後はコンクリート製品に限らない技術の幅広い普及展開も目指していきます。
――次世代コンクリート普及には、追い風が吹いているように思います。
中川幹事 ええ。もとよりセメント・コンクリート業界のCO2排出量は問題視されてきました。内閣府の「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」では、コンクリート分野に言及され、 国交省の「国土交通グリーンチャレンジ」でも省CO2コンクリートの普及に向け「新技術に関する品質・コスト面等の評価を行いつつ、公共調達による低炭素材料や工法の活用促進を図る」と宣言されています。環境省でも、炭素排出に価格付けを行う仕組みである「カーボンプライシング」の議論が進められています。
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ゼネコンなどと協業し、サプライチェーンを構築
――これまでの現場施工では、どのような知見が得られているのでしょうか。
人見幹事長 これまで下水道資材、道路用側溝蓋、U字溝、道路用L型側溝などを施工し、その実用性を確かめてまいりました。
その結果、いずれの用途としても実用に耐えることが分かっており、特に福島県・三春町における道路用側溝蓋としての施工では、“EeTAFCONは黒ずみにくい”という長所を見出すことができています。
また、秋田県・仙北市の乳頭温泉郷妙乃湯では、セメントコンクリートやCO2低排出型コンクリート製試験体を、温泉水に曝露し、経時的強度変化を評価しました。セメントのほうは強度が崩れて色が落ち、骨材露出もありました。しかし、EeTAFCONは骨材が露出せずに元の形を保っており、強度の違いも出ました。
これまでの実証実験はほぼ土木分野の事例ですが、今後建築への採用も視野に入る手ごたえを感じました。こうした取組みを繰り返し行い、今後はNETIS(新技術情報提供システム)へ技術認証の申請をする考えです。
福島県三春町に施工したU字溝蓋
――今後、研究会ではどのような活動をされていく?
中川幹事 研究会を通じて中川ヒューム管工業以外のメーカーにもEeTAFCON製造技術を展開するとともに、現場導入をゼネコンなどに働きかけサプライチェーンを構築することを目指しています。また、新しいコンクリートであるEeTAFCONを皆さんに知ってもらうため、PRにも積極的に注力していきます。
研究会の構成ですが、2022年10月時点で40社が研究会に加盟しており、コンクリート関連の会社が18社、材料メーカーが3社、ゼネコン・電力会社・学識経験者も参加しています。そして、研究会には3つの委員会を設置しています。
一つ目は、主にコンクリート製品会社で構成する「技術委員会」です。この委員会では、各コンクリート製品会社においてEeTAFCONの製造性や実用性に関する検証を図り、技術評価を取得していく考えでいます。
二つ目は、材料化学や構造工学に関する学識経験者にご参加いただいている「学術委員会」です。本委員会では技術委員会において取得した試験データの分析や、研究開発方針の議論を図ってまいります。
三つ目は、ゼネコン、橋梁メーカー、および電気事業者等で構成する社会実装委員会です。ゼネコンおよび橋梁メーカーとは、土木構造物や建築物へEeTAFCONを導入していくため、製品開発の方向性などを共に議論いたします。具体的には、土木ではトンネル・港湾構造物・橋梁、建築ではEeTAFCONが黒ずみにくいという特性を活かしたバルコニーなどを提案したいと考えています。
また、同委員会にはEeTAFCONの主原材料であるフライアッシュのサプライヤーである電気事業者にも参画いただいております。このため研究会では、原材料供給を担う電気事業者、製造を担うコンクリート製品メーカー、そして施工を担うゼネコンと一体となり、サプライチェーンの構築を目指し活動いたします。
施工・モニタリングで実用性を実証
――最後に、今後の普及に向けて、一言お願いします。
人見幹事長 EeTAFCONを世に広めるため、本格的な実用化に向けては環境省や国土交通省の後押しにも期待しています。現在議論されている「カーボンプライシング」が進展すれば、EeTAFCONに更なる付加価値がついていくと期待しています。
また、EeTAFCONの材料はほぼ産業副産物であることから、従来コンクリートとの価格差は今後さらに詰まっていくと考えています。あとはサプライチェーンの構築とともに、更なる技術発展を図ることで、将来的な需要が増していくと考えています。