阪神高速リニューアルプロジェクトに迫る 「喜連瓜破付近橋梁大規模更新工事」

阪神高速リニューアルプロジェクトに迫る 「喜連瓜破付近橋梁大規模更新工事」

20cm以上垂れ下がったPC橋を空中で鋼橋に架け替える

阪神高速道路株式会社が「リニューアルプロジェクト(大規模更新・修繕事業)」の一環として進めている「喜連瓜破付近橋梁大規模更新工事」の現場を再び取材する機会を得た。

この工事は、大阪市平野区の瓜破交差点上空に架かる阪神高速14号松原線のPC橋(喜連瓜破高架橋)を撤去し、鋼橋に架け替えるもの。喜連瓜破高架橋は、径間中央にヒンジ部を有する橋梁形式を採用していたが、ヒンジ部を中心に桁の垂れ下がりが発生。ケーブルなどによる補強を施したが、根本的な解決には至らなかったことから、架け替えに踏み切った。

この工事がユニークなのは、既設橋梁の撤去を空中で行うことだ。施工者は大成・富士ピーエス・MMB(エム・エム・ブリッジ)異工種JVだが、既設橋梁の撤去は大成建設と富士ピーエスが、新設橋梁の架設はMMBが担当するという、乙型異工種JVのカタチをとっている。

前回取材したのは昨年の9月下旬で、既設橋梁の撤去に用いる仮設桁を架設中で、撤去作業はまだ始まっていなかったが、今回は撤去作業真っ最中の現場を取材することができた。

中田 諒さん 阪神高速道路株式会社 管理本部 大阪保全部 改築・更新事業課 主任

森 謙吾さん 阪神高速道路株式会社 管理本部 大阪保全部 改築・更新事業課

藤本 大輔さん 大成・富士ピーエス・MMB異工種JV 喜連瓜破橋大規模更新工事作業所 課長(監理技術者)

ヒンジ部が24cmも垂れ下がってしまう

垂れ下がった部分に設置された排水ます

阪神高速14号松原線は、1980年に供用開始した路線。喜連瓜破高架橋が架かる瓜破交差点付近は、国道309号、479号、長居公園通りが交わる交通量の多い区間に当たる。

張り出し工法で架設されたこの高架橋は、全長154mで、径間中央にヒンジ部を有するPC3径間連続ラーメン箱桁橋。ヒンジ部は凹凸形状の沓で接しており、固定(剛結)されていない。この橋梁形式は、コンピュータ解析技術が発展途上であった当時、全国的に採用されたものだったが、結果的には、想定を上回る垂れ下がりが生じてしまった。

供用開始5年後には、ヒンジ部を中心に桁の垂れ下りが顕在化し、これに伴い路面も沈下した。垂れ下がり量は、設計当初の想定を上回るもので、最大で約24cmに達した。橋が垂れ下がったからと言って、通行できないことはないが、路面に段差が生じるので、走行性に支障をきたすほか、なにより構造物として健全とは言いがたい。

外ケーブルで緊張するも、根本的な解決に至らず

そこで、阪神高速は一計を案じる。対策として桁下に外ケーブルを張り、その張力で垂れ下りを抑えようと試みたのだ。

2003年に実施されたこの補強工事は一定の効果を発揮し、垂れ下り量を数cm改善するとともに、とりあえず、その進行を食い止めることに成功した。

しかし、沈下を「解消」することはできなかった。問題の根本的な解決には至らなかったが、維持管理を行いつつ、10年以上もの間なんとか供用を続けた。

阪高を約3年間通行止めにして、メタルの高架橋に架け替えるという決断

喜連瓜破高架橋の架け替えが決まったのは2015年。工事手法の検討段階では、松原線の通行止めを避けるため、う回路を設置する案もあったが、う回路のための用地取得が困難であり、工期も10年以上に上ることから、選定作業は難航。

最終的に、松原線の広域う回路となる大和川線が2020年3月に全線開通したことが決め手となり、比較案の中で最も工期の短い松原線を終日通行止めした上での架け替えに決まった。通行止め期間は約3年間。

ピンとこない読者もいるかもしれないので蛇足を加えるが、都市高速事業者にとって、通行止めにすることはタブー視されている。それを踏まえると、今回の決断がどれだけ異例なことなのか想像がつく。

“転職を考えている方” まずはご相談ください【施工管理求人ナビ】

基本的に作業は空中。カギとなるのが仮設桁と移動作業車

喜連瓜破現場の空撮写真(阪神高速道路写真提供)

工事の受注者は、大成・富士ピーエス・MMB異工種JV。発注方式はECI(施工者が設計段階から関与する方式)をとった。

「大規模更新工事はその規模からも技術的難度が高く、限られた工期や多くの制約条件の下で、発注者だけで最適な工法を選定することが困難なケースがあります。社会的影響を最小限としつつ、確実に工事を完了させるために、初期段階から施工者の技術提案を募ることが最適という判断でした」(中田さん)と振り返る。

主な施工フローは、既設橋梁の撤去を行う移動作業車(4基)を取り付けるための仮設桁の設置→移動作業車の設置→既設橋梁(橋桁部分:中央径間、側径間)の撤去→仮設桁などの設備解体→既設橋梁(梁部分)の撤去→鋼製梁の架設→鋼製橋桁の架設となる。

冒頭にも触れたように、既設橋梁の撤去と新設橋梁の架設はJV構成者のなかで分担されており、前者は大成建設と富士ピーエスが、後者はMMBがそれぞれ施工する。なお、現場ではまだ撤去作業中だが、新設橋梁(鋼製)の工場製作はすでに始まっている。

この現場最大のポイントは、平時から交通量の多い一般道路への交通影響を最小限に抑えるため、昼間は車線を占有する交通規制を一切行わずに、基本的にすべての作業を空中で行うことだ。そのカギとなるのが、移動作業車(架設桁)の存在だ。

作業移動車は既設橋梁上に構築された全長165mの仮設桁(レール)上に設置され、橋軸方向に移動することができる。1.75m間隔でダイヤモンドワイヤーソーによる切断撤去を行うたび、作業車は次の位置まで移動する。

切断したコンクリートブロックは、クレーンで仮設桁の上に吊り上げられ、台車に載せてバックヤードまで運ぶ。1つ4~8トンに切り出されたコンクリートブロックを吊り上げるクレーン設備の能力は、安全率を考慮し最大16トンで設計されている。仮設桁と移動作業車などから成る設備類が完成したのは2022年末だった。

切断後、吊り上げられるコンクリート

最初に切り出すときがヤマ場だった

既設コンクリートの断面

今回撤去するコンクリート重量(橋桁部分)は約5000トン。全体を84ブロック(橋軸方向)に分け、さらに1ブロックを16分割で切断する。総個数は1300個程度。切断したコンクリートブロックは、粉塵の飛散を防止するため、ブルーシートで包む。

切断の順番は、大成建設本社の設計セクションが主体となり、形状や重量などを考慮しながら、あらかじめすべて決めている。撤去したコンクリートブロックについては、圧縮強度や物性などの調査も行っている。

コンクリートブロックは10トンダンプで運び出している。撤去のペースは1ブロック当たり3〜4日程度。切断作業よりも、移動作業車の移動ごとに生じる足場の組み立てや周りの養生などに時間がかかることがあるらしい。

「最初に切り出すときがヤマ場でしたね。弊社にとっても初めての作業だったからです。あらゆる作業ステップを事前に解析し、初期切断のような重要な工程はさらに詳細な検討を行い、想定外がないように準備して臨みました」(藤本さん)と振り返る。

養生後、搬出されるコンクリート

「騒音に関するご意見はいただいておりません」

いかにも頑丈そうな鋼板で覆われた移動台車

作業移動車の下部は、防水加工が施された鋼板で覆われているため、万が一コンクリートブロックの破片などの重量物が落下したとしても、一般道路の通行に影響を与えるリスクは極めて小さくて済む。「(一般道路の通行には)ご迷惑をおかけしないよう作業を進めています」(藤本さん)と話す。

撤去作業では、落下物だけでなく騒音のリスクもある。現場近隣にはマンションが立地しており、階層によっては真横で切断作業が繰り広げられることになる。切断は低騒音型のコンクリート撤去工法であるダイヤモンドワイヤーソーで行っており、周りを防音資材で囲う対策も施している。

しかし、「われわれとしては、半年にわたり続く作業ということもあり、周辺地域の方々には作業に関する丁寧な説明を行い、少しでも不安を取り除くことが大切だと考えていました」(中田さん)と言う。

そこで、阪神高速は既設橋梁の撤去作業が始まる直前の昨年12月、周辺地域の住民を対象に、切断作業の実演を含めた説明会を開催。つまり、先手を打ったわけだ。これが功を奏したのか、「切断の作業音に関する(お叱りの)ご意見はいただいておりません」(中田さん)とのこと。昼夜問わず切断作業を行っている現場としては、にわかには信じがたい現象だ。

【PR】施工管理技士の平均年収を年齢や資格で比較

2023年度末、いよいよ新設橋梁の現場作業が本格化

既設橋梁の橋桁部分の撤去は6月上旬に完了。工事全体の進捗率は39.0%(2023年5月末時点)となっている。今年秋ごろから梁部分の撤去作業に入る予定。

MMBが主体となって進める鋼製梁や鋼製橋桁といった新設橋梁の現場作業が本格的に始まるのは、2023年度末ごろの見通し。梁は近くの施工ヤードで地組し、多軸台車で運搬。既存のPC橋脚と接合させるカタチで架設する。

橋桁の側径間は、やはり隣接橋梁上で地組し、多軸台車で送り出し架設する。中央径間は梁同様に施工ヤードで地組し、やはり多軸台車を用いて架設する。交差点中央で一括吊り上げ架設が予定されている。「(鋼橋の架設は)われわれにとっては得意としている工事のひとつ。(既設橋梁の撤去に比べれば)安心しています」(中田さん)と自信を見せる。

無事故無災害、周辺環境に配慮しながら完成を迎えたい

現場近くにあるマンション

とは言え、まちなかで、しかも交通量の多い交差点の直上で作業するというキビしい現場条件に変わりはない。

「工種がどんどん変わっていく現場ですが、一般道路や周辺環境への影響を抑え、騒音などでご迷惑をお掛けしないようにするという点は、最後まで変わりません。切断作業ではご意見をいただくことなく進めてこられましたが、慢心せず、引き続き注意しながら作業を進めていきたいです」(中田さん)

「騒音対策など地域の負担を抑える対策をしっかり講じながらも、今後100年持つような、良い橋をつくりたいです。本体構造以外の箇所についても、本線を通行止めしているこの機会に、直せるものはどんどん手を入れていきたいです」(森さん)

「撤去作業はある程度先が見えてきましたが、われわれのパートとしてはまだ8ヶ月ほど工期が残っています。これまでの1年間、無事故無災害でやってこれたので、今後もこの状態を続けていきたいというのが、一番の思いです」(藤本さん)

完成に向け、各者各様に気を引き締める。

この記事のコメントを見る

この記事をSNSでシェア

こちらも合わせてどうぞ!
「空中で勝負する」 喜連瓜破高架橋架け替え工事の現場監督員に話を聞いてきた
“全国でも類を見ない工事現場” 喜連瓜破高架橋架け替え工事の監理技術者に話を聞いてきた
BIMを活用したいけれど、どうすればいい? アウトソーシングや人材派遣で解決しよう
2022年度「土木学会賞」が決定。112件が受賞、田中賞作品部門は”気仙沼湾横断橋”など4件
基本的には従順ですが、たまに噛みつきます。
モバイルバージョンを終了