猛暑の社長を心配すると――「おばちゃんたちが心配だったとね」
この夏、天気予報のたびに心配になった。何度か取材させてもらったゼン技研の坂井貞義社長は本社が太宰府。連日猛暑日が続き、記録をどんどん延伸していた。熱中症は大丈夫だろうか――。不安は募った。
記者は一昨年、軽い熱中症になった。普通に外回りをしたのち、夜に帰宅すると、視界にチラチラとした光の楕円のような輪郭が現れ、目を閉じても消えない。しかもクラクラと目が回り、横になっても目を閉じても治まらない。吐き気もするのに、CCレモンを身体が求め、たまたまファミペイアプリでもらったペットボトルが2本あり、氷を入れて急いで飲んだ。落ち着くまで結構かかった。熱中症だと自覚はなく、あとでその怖さを知った。
電話してみると思いのほか社長は元気で、スタッフの心配をしていた。本社や近くの工場では近隣の女性たちが働く。「おばちゃんたちが心配だったとね。うちは彼女たちで成り立っとる、それで仕事がまわっとるけんね」。
そうそう、この人はこういう人だった。転勤族だった社長は、いくつかの任地を経て福岡に着任、とても気に入った。任地替えの時期が迫ると退職し、ゼン技研を起業。
セカンドキャリアでは「現場の大変さを知っている」×「発明」で、「現場作業がラクになる、シンプルで、建設の安全と省力化、工期短縮に役立つ製品」の開発に邁進。開発から製品化、営業まで率先垂範で飛び回って会社を引っ張り、東京と名古屋にも拠点を開設、スタッフ50人規模の組織に育てた。バックオフィスを支えてきたおばちゃんたちへの感謝はふとした折に口をつく。
ゼスロックやプロテックPコンなどをはじめロングセラー商品が多く、近年の暑さも、需要の伸びを後押ししているという。「作業をラクに早くできるようにすること、施工品質を良好に保てること、この2つを満足させるために資材の構造をシンプルで分かりやすくする工夫に注力してきた。暑さ対策は念頭にはなかったけれど、結果的に作業は時短になるから、助かっていると聞くと、開発者として嬉しかね」。創業31年目に入ったと聞き、その流れで取材させてもらった。
現場作業がラクになり、安全になり、工期が短くなる資材の開発を
――創業31年目で、特許・実用新案権などで計66件、出願中64件ですと、四半期に1件出願しているスピード感です。プレートアンカー、ゼスナーボルト、プロテックPコンとか、発明協会賞を受けている資材もあります。どのように着想していますか?
坂井社長 現場作業がラクになる、シンプルで、建設の安全と省力化、工期短縮に役立つ製品を販売するために作った会社やけん、自分の経験と、現場でリアルな声を聞かせてもらうのと、既存製品を改めて勉強するのと、そういうところからやね。展示会は国内だけでなくアメリカやヨーロッパなどの海外にも行きます。ヒントがあるけんね。
大企業がコストメリットの観点で難しいニッチな課題に取り組むのが私たちの役割だと考えていて、お客さま目線の資材開発を徹底しています。
――具体例としてはどんなですか?
坂井社長 代表的な商品「ゼスロック(無溶接鉄筋結束金具)」も、このニッチな課題に応えようと開発しました。旧来鉄筋かごの組み立てでは溶接が使われていましたが、安全性の観点で国土交通省により溶接による組み立てが禁止されました。
これに対応して、ボルト締めによる組み立て手法を考案し、その際に鉄筋をネジで組み立て結合する金具がゼスロックです。今では多くの建設現場で欠かせないものとして重宝いただいています。
――ゼスロックみたいにロングセラーが多いですよね。
坂井社長 副資材は、お客様が効果を実感してご支持くだされば普及が速いですし、リピートもしていただけます。私たちはこの副資材の訴求力に乗って、施工品質を良好に保ちながら、現場作業がラクになり、安全になり、工期が短くなることを目指していますから、製品開発においては一切の妥協をしていません。
着想だけでは、長くご愛用いただけるような資材にまでは至らないです。地道な工夫を積み重ね、試験を繰り返した結果、ようやくお客さまのニーズに応えられる品質の製品にたどりつきます。
現場で無溶接鉄筋かごを吊った場合、ゼスロックでない資材を使用して歪みが出てしまっていたものが、ゼスロックを使用すると歪まずまっすぐ保たれる。お客さまは、こうした現場経験から、私たちの品質追及へのシビアさをご理解くださり、資材へのご支持をくださいます。それがまた私たちの精進の励みになり、いくつものロングセラーにつながっているのです。
開発のヒントを求め、アメリカやヨーロッパなど海外にも
――直近で行かれたアメリカとトルコはどんな感じでしたか?
坂井社長 コロナの規制が明け海外に行けるようになって、昨年の6月に国際橋梁会議(IBC:International Bridge Conference)を見にアメリカに行きました。IBCは橋梁に関する最新の情報交換を目的としてアメリカ国内で開かれている会議・展示会です。昨年は第40回目のIBCで6月12~14日にワシントンでありました。橋梁関係の功労者の表彰や研究発表をはじめ、新工法や資材、工具、材料などの展示や情報交換があって、各国から関係者が集まります。
10年ぶりくらいに参加しました。最初に行ったのは2003年で、その後ちょくちょく通っていたころはペンシルベニア州のピッツバーグで開かれていて、ピッツバーグといえばカナダ国境のナイヤガラの滝にも近い、大河と鉄鋼の町です。
コロナを経て、どんな感じかなとは思って出発したのですが、世界各国から人が集まっていてとても活気がありました。私どもは土木・建築分野の副資材を主に扱うメーカーなので、海外の商材の傾向やその背景にどうしても目が向きますので、そういう視点で参加してきました。久しぶりに行ってみてよかったです。
今年はトルコに行きました。ここでもいろいろ見てきましたが、見聞の成果を整理しているところです。日本が協力して架けた吊り橋が目立っていました。
新商品はプレキャストPC床版の間詰資材。「早く・安く・確実に」
――直近で発売した新商品「ZSポッキリ」についても教えてください。
坂井社長 プレキャストPC床版のかぶりを活用するZSインサートで、間詰生コンの反力をサポートする取り付け治具です。1回ポッキリな用具(治具)なので、「ポッキリ」と命名しました。
確実な作業が手早くできて、旧来工事に比べて材工で安くできるように開発しました。床版のプレキャスト化の流れに対応する治具です。長く現場で重宝いただける資材に育って欲しいです。
――40代でのセカンドキャリアで起業し31年です。
坂井社長 今風の言葉でいえば、人生100年時代のセカンドキャリアとか、そういうことになるのかもしれませんが、私としては建設用副資材・金具の研究開発から製造販売に至るまでメーキングすることを使命として、ただひたすらに励んできました。スタッフ、お客さま、恩師、周りに恵まれ感謝しています。
「九州のエジソン」を目指し、「発明を企業化する(いくら発明しても、社会の役に立たないのでは意味がない)」と会社のモットーを定め、製品に対して真摯に向き合うスタッフたちと、独自のアイデアで建設用副資材・金具を次々と生み出してきました。開発製品の多くは特許を取得しています。
これからも、お客さまに安心して使っていただき、喜んでいただける製品開発に取り組んでいきたいです。
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