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【西湘海岸事業を追う#2】外海の猛威に挑む 大林組が切り開く西湘海岸の新たな施工技術

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四国の犬
公開日:2025.05.12
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岩盤型潜水突堤

岩盤型潜水突堤

目次
  1. 過去の港湾工事とは全く異なる挑戦だった
  2. 自然の猛威と向き合いながら、西湘バイパスにも配慮する
  3. 高波シーズンに備え、波が穏やかな時期に集中作業する
  4. 3Dプリンターの革命で施工の常識を覆す
  5. ICT活用で働きやすさも確保
  6. 発注者との信頼 挑戦を支えるパートナーシップ
  7. 新しいチャレンジだらけの現場で、波や海に関する知識を深める
  8. 新しい技術の成功を支えた発注者との信頼関係

2007年、猛烈な台風が神奈川県大磯町から二宮町の西湘海岸を襲い、砂浜を根こそぎ奪った。西湘バイパスの通行止め、地元住民の喪失感――この壊滅的な被害を機に、国土交通省は2014年から総事業費320億円、28年間にわたる「海岸保全施設整備事業」を始動した。世界初の岩盤型潜水突堤や36万立方メートルの養浜事業を柱に、自然と共生する砂浜再生を目指す日本最大級のプロジェクトだ。

本稿は、「西湘海岸事業を追う」シリーズの2回目に当たる。現場の最前線で、世界初の潜水突堤施工を担う大林組の玉井礼子氏、星原和輝氏に取材を行い、外海の予測不能な波、未踏の技術的挑戦、そして地域との調和――、初尽くしの現場の舞台裏を聞いた。波との戦い、3Dプリンターによる革命、ICT活用の効率化、そして若手技術者の成長。西湘海岸の未来を切り開く彼らの物語に光を当てる。

※取材は2025年1月下旬

玉井 礼子氏

玉井 礼子氏

星原 和輝氏

星原 和輝氏

過去の港湾工事とは全く異なる挑戦だった

西湘海岸の工事は、大林組にとって未踏の領域だった。「河川事務所が発注する海岸工事は初めて。外海に面した環境は、過去の港湾工事とは全く異なる挑戦だった」と玉井氏は振り返る。羽田空港や東京湾、福岡での港湾工事の実績はあったが、外海の荒々しい波は想像を超える難敵だった。「社内に海岸工事の経験者はいたが、こうした環境は未知。波の影響を肌で感じた」(玉井氏)と語る。

入社2年目の若手技術者として現場に配属された星原氏は、管理業務を担当。写真撮影、工程管理、品質チェックと、大学の授業で学んだ知識を初めて実践する機会だった。「慣れない作業に緊張したが、先輩や作業員に支えられ、現場の感覚をつかんでいった」と振り返る。未知の環境での施工は、リスクと興奮が交錯する「初めて尽くし」の経験だった。

「新しいことに挑戦できるのはワクワクしたが、工程が読めない不安が大きかった」(星原氏)。波の影響で稼働率が予測できず、会社として大きなリスクを背負う。「でも、若手にとって貴重な機会。建設業界の可能性を感じる現場だった」と笑顔を見せる。初めての海岸工事は、技術者としての成長の第一歩だった。

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自然の猛威と向き合いながら、西湘バイパスにも配慮する

外海での工事最大の敵は、波だ。「波の高さが一定以上になると作業ができない。資材を西湘バイパスのヤードに持ち上げる必要がある」(玉井氏)。過去6年分の海象データを京浜河川事務所から取得し、年間の稼働率を分析したが、当初の工程に収まらない懸念が浮上。「台風シーズンは毎日天気予報とにらめっこ。作業員と『今日はどうなるかな』と話す日々だった」と苦笑する。

自然の猛威に立ち向かうため、発注者との協議を重ねた。「自然には絶対に勝てない。作業員の命を最優先に、工期が伸びる可能性を正直に説明した」(玉井氏)。9月や10月の台風状況に応じた柔軟な対応を求め、発注者の理解を得た。「『状況を見て判断させてほしい』とお願いしたら、快く応じてくれた。本当に助かった」(同)と感謝を口にする。この信頼関係が、現場を前進させた。

現場は西湘バイパスに隣接し、一般道のすぐ横での作業が求められた。「車が猛スピードで走る中、工事車両の出入りに細心の注意を払った」(玉井氏)。警察と協議し、朝8時から19時まで1車線を確保。トレーラーや生コン車のスケジュールを調整し、周辺の渋滞を防ぐ。「ドライバーに迷惑をかけないよう、現場周辺の清掃も徹底した」と、細やかな配慮を欠かさなかった。地元住民への説明会も開催し、「工事の騒音や渋滞を最小限に」との声に応えた。

高波シーズンに備え、波が穏やかな時期に集中作業する

波の影響を管理するのは、想像以上に過酷だった。「海ギリギリで作業する場面も多く、波の状況を肌で感じながら判断した」(玉井氏)。作業中止基準を設け、予報より強い波が来れば即座に中断。「ある日、予報では穏やかだったのに急に波が強くなり、慌てて資材を撤収したことも」(同)と振り返る。作業員の安全が最優先ゆえ、判断に迷いは許されない。

資材の移動も一筋縄ではいかない。「資材を3日かけて持ち上げるが、予報が出てからでは遅い。4日前に判断する必要がある」と技術者。過去5年分のデータで稼働率を予測したが、天候の不確実性は拭えない。「判断を誤れば資材が波にさらわれる。安全第一で慎重に進めた」と語る。作業員から「早めに決めてくれて助かった」と言われた時は、ホッとした瞬間だった。

スケジュール調整も工夫の連続。週休2日制で28.5%の休工が求められたが、波で作業が止まる週中は土曜出勤で補填。「波が穏やかな時期に集中作業し、高波シーズンに備えた」と技術者。作業員の疲労を考慮し、柔軟に工程を組み替えた。「大変だったが、チームワークで乗り切れた」と胸を張る。台風シーズンの緊張感は、技術者としての責任感を育てた。

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基本的には従順ですが、たまに噛みつきます。
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コメント(1)

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  • - 2025/05/12 18:25

    3Dプリンターで実際に出力している写真を掲載して欲しかったですね

    返信する 通報する

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