3Dプリンターの革命で施工の常識を覆す

岩盤型潜水突堤の模型
潜水突堤の施工で最大の課題は、先端ブロックの設置だった。当初は300ミリのコンクリートパネルをトレーラーで運び、海辺で連結する計画。「だが、高波でバラす必要があり、潜水士の安全に懸念があった」と技術者。シミュレーションで不安定さが露呈し、潜水士からも「このままでは危ない」との声が上がった。計画の見直しを迫られた瞬間だった。
そこで大林組が提案したのが、3Dプリンターによるブロック製作だ。「1台ずつトレーラーで運び、ポンと置くだけで済む形に変更。工期短縮と安全性向上を実現した」と技術者。京浜河川事務所の承認を得て導入し、施工効率が劇的に改善。「作業員からも『これなら安心』と好評だった」と笑う。この革新は、現場の常識を覆した。
製作には建設用3Dプリンターを使用。専用のモルタルをノズルから噴射し、型枠なしで複雑な形状を形成。「縦3対1、横6対1の傾斜を持たせた設計を、3Dプリンターで精密に再現した」と技術者。コンクリートを充填し、トレーラーで運べる重量に3分割。「製作過程を見た時は技術の進化に感動。作業員も『初めて見た』と驚いていた」と語る。台風リスクの高い8月・9月でも施工を進められたのは、この技術の賜物だ。
このアイデアは大林組独自のもの。「3Dデータで形状を検討し、分割方法に意味を持たせた」と技術者。発注者からも「おもしろい」と高評価を受け、インフラDXアワードの優秀賞に輝いた。「国内初の試みを応援してくれた発注者に感謝」と胸を張る。3Dプリンターは、建設業界の未来を垣間見せる革新だった。
ICT活用で働きやすさも確保
ICTの活用も現場の特徴だ。「社内チャットで遠隔やりとりを効率化。3Dデータで施工方法を検討し、リアルタイムで情報共有した」と技術者。単純作業は外注し、書類整理や写真整理も締め切りを設けてアウトソーシング。「現場の負担を減らし、効率を最大化した」と語る。情報の遅れがなくなり、意思決定が迅速に。「事務所と現場がシームレスにつながった」と効果を実感する。
残業規制にも対応。「令和5年度から社内ルールを強化。忙しい時は残業もあったが、ゆとりある時期にバランスを取った」と技術者。若手として残業を覚悟していたが、「先輩から『ムリしないで』と声をかけられ、想像以上に働きやすかった」と笑う。ICTのおかげで、働き方改革も進んだ。「データ共有のスピードが、現場のストレスを減らした」と評価する。
発注者との信頼 挑戦を支えるパートナーシップ
京浜河川事務所との関係は、成功のカギだった。「3Dプリンターの提案時、国内初の試みにもかかわらず『やってみよう』と後押ししてくれた」と技術者。柔軟な対応と新しい挑戦への理解が、現場を前進させた。「立ち会い時間の調整や水中カメラでの品質説明にも協力してくれて、信頼関係を築けた」と語る。
水中作業の品質管理は難題だった。「見えにくい部分は写真や水中カメラで丁寧に説明。問題がないことをしっかり伝えた」と技術者。ある時、水中カメラの映像を見せながら説明すると、発注者が「こんな風に見えるんだ」と驚いた。「信頼を深める良い機会だった」と振り返る。発注者の協力が、技術革新を現実に変えた。
新しいチャレンジだらけの現場で、波や海に関する知識を深める
星原氏にとって、入社2年目の現場配属は、技術者として大きな成長の場となった。「新しいチャレンジだらけで、考えることが多くて大変。でも、初めての経験が楽しく、成長を実感した」と語る。完成までの不安は大きかったが、「無事に終わった時の達成感は忘れられない。天候とチームワークに助けられた」と笑う。
波の管理や海の知識は、現場で深まった。「業者と話しながら海の常識を学んだ。今の施工管理の基礎になっている」と技術者。現在4年目の別の現場でも、西湘での経験が活きる。「やりがいのある現場で、建設業界の可能性を感じた」と胸を張る。
新しい技術の成功を支えた発注者との信頼関係
西湘海岸の工事は、大林組にとって大きな挑戦だった。外海の波と戦い、3Dプリンターで常識を覆し、ICTで効率を極める。京浜河川事務所との信頼関係が、新しい技術の成功を支えた。
「大変だったけど楽しかった。完成の喜びは格別」と技術者は語る。西湘海岸の砂浜が再生する日、技術者たちの挑戦は地域の誇りとなり、日本の海岸保全の新たなモデルとなることが期待される。
人材採用・企業PR・販促等を強力サポート!
「施工の神様」に取材してほしい企業・個人の方は、
こちらからお気軽にお問い合わせください。
3Dプリンターで実際に出力している写真を掲載して欲しかったですね