第一の疑惑…真上の部屋をリフォームした会社Dの責任では?
近年は、雨漏りの裁判が増えています。雨漏りは日々の生活を脅かす大きな問題です。その責任はどこにあって、修理の請求はどこにすればいいのでしょうか?
東京都内のRC造5階建てマンション203号室のAさんの寝室で繰り返し雨漏りが発生しました。このマンションは1990年に竣工し、区分所有権が分譲されました。雨漏りが起こったのは2013年10月、築23年目のことでした。Aさんは上階のリフォームが原因ではないかと推測しました。
5年前の2008年、築18年の時点で、203号室の真上の302号室でリフォーム会社Dにより内装と設備機器を一新するリフォーム工事が行われました。Aさんは管理組合Cに依頼してこの工事の点検を求めました。リフォーム時に交換したベランダ側壁面の給湯器を点検した結果、給湯管が通る壁貫通部付近が湿っていることが確認されました。管理組合は貫通部のシーリング工事を実施しました。しかし、雨漏りは止まりませんでした。
その後、管理組合は外壁側コンセントボックス、給湯器背面の壁面にも補修を実施しましたが、雨漏りは止まりません。4度目の補修で、給湯器背面の外壁に防水材を塗り、また給湯器を庇で覆ったらようやく雨漏りが止まりました。2015年8月、約2年後のことでした。
203号室の資産価値下落は30%
Aさん、Bさん、管理組合Cの三者の話合いは調わず、4年後の2019年5月、Aさんは302号室のBさんと管理組合Cに対して工作物責任(民法717条)に基づき損害賠償の訴えを提起しました。度重なる雨漏りについては売却時に重要事項説明をせざるを得ず、区分所有権の価値は30%相当下落したとし、これに寝室が使えなかった期間の家賃相当額を加えて約1400万円を請求しました。
民法第717条
- 土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。(後略)
- (略)
- 前二項の場合において、損害の原因について他にその責任を負う者があるときは、占有者又は所有者は、その者に対して求償権を行使することができる。
Aさんが訴えた相手は302号室のBさんと管理組合Cです。リフォーム会社Dではありません。しかし、仮に302号室のリフォームが原因として損害賠償が認容された場合、次は302号室のBさんと管理組合Cが、民法第717条3項に基づいてリフォーム会社Dに求償権を行使することになると思われます。
管理組合に「工作物責任」はあるか?
302号室のリフォーム関連の補修では雨漏りは止まらず、外壁に防水材を塗り、給湯器を庇で覆ったら止まりました。一審は雨漏りの原因について、302号室ベランダ側の外壁コンクリートに隙間もしくは亀裂があったためと認定しました。
これにより、リフォーム工事は雨漏りとは無関係で、リフォーム会社Dには民法第717条3項による責任はないと判明しました。マンションの共有部に問題があり、管理組合に工作物責任があると認定、1010万円の支払いを命じました(2022年12月27日 東京地裁)。
次の問題は、マンションの共有部分について管理組合に「工作物責任」があるかどうかです。一審判決では、民法第717条1項にいう責任を負うべき「共有部分の工作物の占有者」は管理組合Cであり、損害賠償責任があるとしました。管理規約に「管理組合が共有部分を管理し、その修繕を管理組合の負担において行う旨の定め」があるという理由です。
しかし、管理組合Cは納得できず控訴しました。そして2審では逆転判決となりました。
2審では「管理規約から当然に損害賠償債務の履行を引き受ける義務を負うと認めるのは困難」とし、1審判決は否定されました(2023年9月27日 東京高裁)。
原告Aさんの賠償請求については302号室のBさんへの40万円だけを認めました。Aさんはこの判決を不服として上告し、最高裁判所で係争中です。管理組合に工作物責任がないとなると、Aさんにとっては雨漏り被害1400万円の責任追及の道が絶たれることになりかねない状況です。