【熊本発】アネシス×九州大学　古くて新しい技術「MILJØ（ミリヨ）」が切り開くネイチャーポジティブな住まい

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公開日：2025.06.17

熊本市北区飛田でオープンしたMILJØのモデル住宅

MILJØ（ミリヨ）発表会資料より

MILJØの第一弾として、熊本市北区飛田にモデル住宅が完成している。敷地内に木の杭や石を使った浸透層と雨庭を分散配置し、自然素材の外構デザインを採用。コンクリートやプラスチックを排除し、土壌が水と空気を自然に通す環境を整えた。薮内氏は、「この手法は、植物が育ちやすい庭を生み、土壌を長期的に健康に保つ。見た目も自然で美しい」と話す。また、「従来の雨水枡を使わず、自然浸透にこだわりました。美しい庭が、地下水を守ります」と話す。

MILJØは、住まいを生態系の一部としてリジェネレートする。熊本の在来種を優先し鳥や昆虫が好む植栽とした。分譲地内に小さな雨庭や緑地帯を点在させ、生物多様性を回復する。こうした環境は、住民のメンタルヘルスやストレス軽減にも寄与する。木藤氏は、ノルウェーの公園の例を挙げ、「みどりは人の心を癒し、子どもたちの自然への好奇心を育むんです」と強調する。

この住宅は2025年6月21日から一般公開され、訪問者はMILJØのコンセプトを体感できる。

8月オープン予定のMILJØ分譲地アクアガーデン富合

MILJØ（ミリヨ）発表会資料より

熊本市南区富合町の「アクアガーデン富合」は、MILJØの考え方を分譲地全体に適用するプロジェクトだ。外構ルールとして、浸透層、ウッドフェンス、植栽ブロックを導入する。

薮内氏は「樹木を多く植え、みどりが生き生きと育つまちをつくります。自然体で美しい景観が、地下水の涵養につながります」と語る。今はCGイメージしかないが、みどり豊かなまちなみが住民の暮らしに潤いをもたらすリアルなビジョンは、すでに彼らの手中にあるようだ。

アクアガーデンでは、2025年8月に最初の2棟のモデル住宅が完成予定だ。

防災タウンと熊本県産の建材

アネシスは、MILJØ以外にも、環境と防災の取り組みを進める。アネシスが手がけた熊本市東区の「防災タウン」には、災害時に使えるマンホールトイレや手漕ぎ井戸、普段はベンチとして利用でき、災害時には炊き出し用かまどとして利用できるかまどベンチ、防災倉庫を設置。住民との防災訓練でコミュニティを強化している。また、熊本県と熊本県産木材の利用促進協定を締結し、建材の地産地消にも取り組んでいる。MILJØは、こういった活動ともなんらかのカタチでやがてはつながっていくのだろう。

MILJØを全国のモデルケースにしたい

薮内氏は、今後の展望として、内水対策を担う自治体との連携を視野に入れる。「現在は弊社の分譲地に限った取り組みですが、自治体も含む産学官の連携が進めば、より広い範囲のまちづくりにMILJØの考え方を導入できると期待しています。全国のモデルケースとなることで、協力者が増え、取り組みが広がるはずです」と見据える。

ネイチャーポジティブ住宅の新スタンダードとなるか

MILJØ（ミリヨ）発表会資料より

アネシスは、プレスリリースの中で、MILJØを「先例のない取り組み」と位置づけている。このプロジェクトを通じて、自然環境と調和した持続的な住まいを日本で初めて普及させたいという願い、それを支える自負がうかがえる。

MILJØは、先進的、実験的であること自体にその価値を見出そうとするスマートシティのような、最新のデジタル技術などを駆使した「新しさ」を追求するものではない。MILJØは先進的、実験的要素を含んでいるが、そこに本質的な価値を置いているわけではない。

MILJØは、木の杭や石といった日本古来の技術を活用するという、「古くて新しい」アプローチを心棒に据える。このアプローチこそが、他に類例を見ないMILJØならではの本質的な価値に迫るカギだと言えるのではないか。

MILJØは、住宅産業のパラダイムシフトを予感させる試みかもしれない。MILJØにインストールされた環境負荷の低減や生物多様性の保全への姿勢は、新たなスタンダード、新たなベンチマークとなることへの期待はすでに内包されている。その期待の中には、熊本の課題――地震復興、気候変動への適応――を解決するモデルとして、地方都市にインスピレーションを与えることも含まれていることは明らかだ。