香川県の南西部に位置する香川県仲多度郡まんのう町。その静かな田園風景の中に、国営讃岐まんのう公園(以下、まんのう公園)は広がっている。1998年に一部開園し、2013年に全面開園したこの公園は、四国唯一の国営公園として、年間約50万人の来園者を迎える。
四季折々の花々、広大な芝生広場、オートキャンプ場、そして自然をそのまま残した自然生態園。他の都市公園とは一線を画すスケールと多様性で、家族連れから自然愛好者まで幅広い層を引き寄せる。しかし、その運営の裏側には、老朽化する施設、限られた予算、変わりゆく社会のニーズに応えるための模索がある。
本記事では、国土交通省四国地方整備局香川河川国道事務所などの職員への取材をもとに、まんのう公園の現状と課題、そして未来の可能性をレポートする。
四国の自然を体感する場所
まんのう公園の魅力は、まずその広大な敷地と自然との調和にある。350ヘクタールの敷地は、エントランスから芝生広場へと続く緑と石のヴィスタ、花巡りの丘のネモフィラ・コキア、自然生態園、そしてオートキャンプ場「ホッ!とステイまんのう」など、多様なエリアで構成されている。
特に春の「春らんまんフェスタ」では、チューリップやネモフィラが咲き誇り、来園者を魅了する。冬にはイルミネーションイベント「ウィンターファンタジー」が開催され、10万人以上が訪れる。こうしたイベントは、季節ごとの来園動機を創出し、公園の賑わいを支えている。
芝生広場は、家族連れや遠足の小学生で賑わう。ふわふわドームなどの遊具は、子どもたちにとって格好のアトラクションだ。一方、自然生態園は、希少な動植物を保護し、生物多様性の保全に貢献している。このエリアでは、地元のボランティア団体がガイドツアーを行い、来園者に自然の価値を伝える。4団体、約30~50名のボランティアが、週末のイベントや森のガイドツアーなどを支え、公園の運営に欠かせない存在となっている。
オートキャンプ場も人気の施設だ。オートキャンプ場は設備が充実しており、初心者でも気軽にキャンプを楽しめる。レンタル用品も揃い、家族連れや若いグループが週末を過ごす姿が見られる。こうした施設は、都市部から離れたまんのう公園が「日常の喧騒から解放される場所」として機能していることを示している。
限られたリソースの中でのキビしい公園管理運営
まんのう公園の運営は、国土交通省香川河川国道事務所が直営で行う部分と、管理センターに委託する部分に分かれている。管理センターは、日常の清掃やイベント運営、飲食店の管理などを担当。一方、事務所は公園外周の除草、樹木の剪定、遊具や施設の補修工事の発注を担う。公園担当職員はわずか5名で、これに外部委託とボランティアの力を借りて運営している。
しかし、運営には課題が山積している。最大の課題は施設の老朽化だ。開園から25年以上が経過し、遊具やインフラの傷みが目立つ。特に遊具は子どもたちの安全に直結するため、定期的な点検と修繕更新が欠かせないが、予算の制約が重くのしかかる。全国の国営公園が同様の問題に直面しており、まんのう公園も例外ではない。職員は「優先順位をつけて対応するしかない」と語るが、限られた予算での運営は解決の糸口を見つけにくい。
もう一つの課題は、自然環境の管理だ。樹木の倒木リスクや外来種の侵入が問題となっており、定期的な伐採や点検が必要だ。例えば、近年は香川県内でナラ枯れが広がり、公園内のナラ枯れ対策が急務となっている。しかし、こうした作業も予算とマンパワーの制約を受ける。「伐採対応しても追いつかない」と職員は語る。
バリアフリー対応も、現代の公園に求められる重要なテーマだ。まんのう公園は自然の地形を活かした設計が特徴だが、坂や高低差が車いす利用者や高齢者にとって障壁となる。スロープはあるものの、全面的なバリアフリー化は、課題の一つだ。一方で、自然のままの地形を残したいという公園のコンセプトとのバランスも求められる。このジレンマは、公園のアイデンティティとアクセシビリティの両立という難しい課題を突きつけている。
入園料と公共性の狭間で
まんのう公園は有料公園であり、開園時間は9時から17時(季節によって異なる)という時間制限がある。入園料は大人450円、子ども無料(中学生以下)で、体験教室などの一部のイベントでは追加料金が発生する。このモデルは、国営公園の多くに共通するものだが、無料で開放される他の都市公園とは異なる。「公園は無料であるべき」という地域住民の意識が根強い中、有料化は時に議論の的となる。
有料化の背景には、運営コストの確保と施設の維持管理がある。職員は「更なる収入の確保を目指したいが、現実は難しい」と語る。入園料収入は運営費の一部に充てられるが、それ以外の運営費は国の予算を配分している。
一方で、有料化は公園の価値を明確にする側面もある。職員は「東京では有料施設が当たり前だが、地方では抵抗感がある」と指摘する。まんのう公園の場合、季節ごとの美しい花やイベント、充実した施設が、入園料以上の体験を提供していると評価する声も多い。しかし、値上げは「現実的な選択肢ではない」と職員は慎重だ。
ボランティアとイベントのチカラ
まんのう公園の運営において、地域との連携は欠かせない。特にボランティアの存在は、公園の生命線ともいえる。自然生態園のガイドツアーやイベントの運営、植栽の手入れなど、ボランティアの熱意が公園の魅力を支えている。職員は「ボランティアがいなければ成り立たない」とその貢献を高く評価する。一方で、ボランティアの高齢化や人数の確保が課題として浮上している。若い世代の参加をどう促すかは、今後の運営における重要なテーマだ。
地域との連携は、イベントを通じても強化されている。地元まんのう町と連携したイベントや、リレーマラソンといったイベントは、地域住民や観光客を巻き込み、公園の認知度を高める。飲食店や臨時売店も、イベント時には大きな賑わいを見せる。これらの取り組みは、公園が単なる「緑の空間」ではなく、地域の文化や経済と結びついた存在であることを示している。
コンセッションとデジタル化をテコにした未来予想図
まんのう公園の未来を考える上で、注目されるのがコンセッション(民間事業者への運営権付与)の検討だ。過去には民間活力導入検討も行われ、現在はコンセッション導入の可能性を探る段階にある。この検討は、民間資本の活用による運営の効率化や新たな収益モデルの構築を目指すものだ。
コンセッションの導入は、限られた予算での運営や老朽化問題の解決策として期待される一方、公共性の維持や地域住民の理解が課題となる。他の都市公園ではPFIの事例が増えているが、国営公園でのコンセッションは前例がなく、未知の領域だ。
デジタル化の取り組みも、公園運営の新たな可能性として注目される。現状では、ドローンを使った樹木の調査などの取り組みが進められているが、将来的には来園者データの分析やスマートな施設管理が期待される。本省では、都市局が3Dモデリングやデータ活用の研究を進めており、まんのう公園もそのフィールド提供に協力している。ただし、デジタル化には初期投資が必要であり、予算確保の課題がある。
公園行政のリアル
まんのう公園の運営に携わる職員は、道路や河川などの土木出身者が多く、公園専門の職員はいない。ある職員は「道路も公園も、作って直すという基本は同じ」と語るが、造園やイベント運営といった公園特有の業務には新鮮さを感じるという。別の職員は、ボランティアとの連携や地域の声に耳を傾ける中で、公園が「単なるインフラではなく、人のつながりを生む場」であることに気づいたと話す。
しかし、ある職員は「10年前はもっと人がいた。今は効率化が求められる時代」と変化を指摘し、限られた予算と人員での運営に課題が残ると示唆している。こうした環境下で、職員は地域の期待にできる限り答えようと日々努力している。
まんのう公園のこれから
まんのう公園は、四国の自然と人をつなぐ貴重な存在だ。その運営は、限られた予算や施設の老朽化といった課題に直面しながらも、地域のボランティアやイベントを通じて活力を維持している。コンセッションやデジタル化といった新たな試みは、公園の持続可能性を高める可能性を秘めるが、公共性とのバランスがカギとなる。
来園者の声は、公園の価値を物語る。アンケートでは「花の美しさ」「自然の癒し」「家族との時間」が高く評価される。一方で、職員は「もっと多くの人に、この場所を知ってほしい」と願う。四国唯一の国営公園として、まんのう公園は地域の誇りであり、未来への希望でもある。限られたリソースの中で、どのようにその魅力を守り、進化させていくのか。まんのう公園の挑戦は、日本の今後の公園行政全体に一つの示唆を与えることになるだろう。
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