日本電気硝子(滋賀県大津市)が建築用として1988年から製造・改良を重ねてきた耐熱結晶化ガラス「ファイアライト®」が、近年の環境変化により改めて注目を集めている。
「ファイアライト®」は”熱膨張係数がほぼゼロ”という特性から、800℃の高温に熱した後に水をかけても割れない驚異的な「耐熱衝撃性」を持つ。これにより、火災時の急激な温度上昇や、消火活動による放水時の急冷にも耐えられ、防火設備として極めて高い性能を発揮するのだ。
異常気象による「熱割れ」と震災時の「延焼」リスク
近年の異常気象ともいえる猛暑により、窓ガラスが割れる「熱割れ」現象が増加傾向にある。熱割れは、外気の気温上昇と室内の冷房による温度差でガラスに負荷がかかることで発生する。一般的に網入りガラスは割れにくいと思われがちだが、普通のガラスよりも温度差に弱く、熱割れを起こしやすいという欠点がある。
猛暑による熱割れ事例
また、2025年で発生から30年を迎えた「阪神・淡路大震災」では、約7,000棟が火災による被害を受け、多くの尊い人命が失われた「火災被害が目立つ震災」だった。2024年1月の「能登半島地震」でも石川県輪島市で約200棟以上が焼失した。地震発生時の延焼防止対策は喫緊の課題となっている。
地震・火災発生時に、ガラスが割れて延焼を招く主な要因は、「炎による熱割れ」「消火活動による急冷衝撃での割れ」「衝撃(熱や物理的衝撃)によるガラスの脱落・飛散」の3点だ。網入りガラスや耐熱強化ガラスなどの防火ガラスは熱割れしにくいものの、消火活動の急冷や物理的な衝撃で割れることがあり、ガラス片の脱落・飛散による延焼リスクを抱えている。
世界トップクラスの特殊ガラスメーカー、日本電気硝子
日本電気硝子は、滋賀県大津市に本社を置く、世界トップクラスの特殊ガラスメーカーだ。70年以上の歴史の中で磨き上げてきた技術と実績により開発した同社の特殊ガラスは、板や管、糸、粉末などさまざまな製品に姿を変え、TVのディスプレイ、半導体、自動車、電子機器、医療、エネルギーなど、暮らしを支える日常から産業の最先端まで、幅広い分野で高い評価を受けている。
建築分野では、光を採り入れつつプライバシーも確保でき、デザイン性と機能性を兼ね備えた「ガラスブロック」は多くのシェアを獲得している。そのほかにも、レントゲン室に採用されているカバーガラス付き放射線遮蔽用鉛ガラス「LXプレミアム」や、世界的な有名なブティックで採用されている結晶化ガラス建材「ネオパリエ®」など実績は多い。
新宿駅西口4号街路リニューアル(東京都)で採用された、結晶化ガラス建材「ネオパリエ®」
そして、そのうちの一つが、今回フォーカスする住宅・ビルに広がる防火設備用ガラス「ファイアライト®」だ。「ファイアライト®」は、日本電気硝子が開発し、日本電気硝子のグループ会社である電気硝子建材が販売している。今回、電気硝子建材の担当者に話を聞いた。
今こそ再考すべき「延焼防止」とガラスの真実
先に記したように、いま「ファイアライト®」をはじめとする防火ガラスが重要視される背景には、火災時の「延焼防止」がある。火災時は、窓ガラスが炎の熱や衝撃などにより割れ、ガラスの脱落・飛散により炎が隣の建物や部屋に燃え広がる、もしくは外部から火が侵入する可能性がある。
また、火災時は室内の空気が少なくなることで炎が消え、勢いが弱まるケースがあるが、この時に窓ガラスが割れると空気が流入し、爆発的に燃焼するおそれもある。
ガラスは通常、炎が当たるなど一か所のみ温度が上昇して膨張すると、温度の低い部分との間にひずみが生じて割れてしまう。さらに、火災の消火活動により水をかけられ急冷すると、収縮によるひずみも生じて割れる可能性がある。
「ファイアライト®」は、熱処理で熱膨張率が極めて小さい微細な結晶をガラス中に析出させた、きわめて高い耐熱性を持つ「耐熱結晶化ガラス」だ。約800℃の高温に耐え、熱膨張がほとんどないため、消火活動による急な冷却でも割れにくいという特徴があり、加熱開始後20分間の遮炎試験でも非常に高い性能でクリアしている。2017~2018年に防火設備向けにサッシメーカーの採用が進み、現在に至る。
価格以上に優先される「ガラスの安全」の価値
実際の施工事例を見てみよう。ペンシルビルなどの隣接建物との距離が近い環境では、「ファイアライト®」の採用により、仮に隣接したビルが火災に見舞われても炎が入ってくることを防げる防火設備用ガラスとして効果を持つ。
電気硝子建材は、防火ガラスの導入効果や採用傾向について次のように説明する。
「一般的にエレベーターシャフトや階段、吹き抜け部分を通じて急速に炎は燃え広がるため、防火シャッターなどが設置されるが、さらに『ファイアライト®』や『ファイアライトプラス®ネオ』を使用することで、より一層の安全性を高めることが可能だ。
駅舎や学校施設など公共性の高い建築物で、『ファイアライト®』の採用が拡大しているが、これは大きな震災が発生すると被害が甚大になることから、より安全性の高い防火ガラスを採用する傾向があるためだ。駅舎では、各鉄道会社が厳しい自主基準を設け、高い安全値で設計している。また学校は、災害時には避難所となる。
現在、特定の防火ガラスの採用を義務付ける法律はないが、安全思想の高い設計事務所やデベロッパーが『ファイアライト® F』や『ファイアライトプラス®ネオ』の導入に動いている。よく特長をご理解いただいている設計者であれば、多少価格が高くても採用を検討してくれる」
JR大阪駅 うめきたエリアでの採用事例
豊島区立池袋第一小学校(東京都)での採用事例
また、集合住宅においても、近年、エンドユーザーからより優れた建材の採用を望む声が高まっているという。たとえば、枠がより細く、周囲の景色がよく見え、かつ断熱・防火性能に優れたガラスについての関心が高い。そこで都心部のグレードの高い集合住宅では、防火設備として「ファイアライト®」の採用サッシも増加中だ。一方、戸建て住宅はハウスメーカーが主導を握ることになるが、坪単価の高い住宅に対して採用が進むハウスメーカーもあるという。
こうした市場動向について電気硝子建材は、「これまでは集合住宅での市場は新築に限られていたが、築年数の長い集合住宅は、1枚の板ガラスで構成される単板ガラス窓が多い。しかし、ガラスの取替え工事を行う際には『ファイアライト®』にニーズがあると判断し、大規模修繕を必要とする集合住宅市場へも本格的に営業をかけている」と語る。
建築基準法と米国「UL規格」が証明する安全性
建築基準法では、防火設備に求められる遮炎性能の技術的基準が定められている。具体的には、通常の火災による加熱が加えられた場合に、加熱開始後20分間、加熱されていない面に火炎を出さない性能が要求される。
60分間の特定防火設備認定試験
電気硝子建材は、その性能について自信を見せる。
「『ファイアライト®』は20分以上耐えられる。特定防火設備であれば大きなビルから60分以内で避難する想定となっているため、ガラスの枠は別として、ガラス自体は60分持つため、ビルで火災が発生した際でもスムーズな避難活動が可能になる。合わせガラスでは、地震が発生した際にも割れにくく落下しにくい効果もある。阪神・淡路大震災時には、通電火災が発生したが、『ファイアライトプラス®ネオ』は建物内外の延焼をより広がりにくくするガラスといえる。
さらに、米国を代表する安全規格『UL規格』は、防火戸の試験で消火作業時の安全面を考慮し、加熱試験に加えて加熱直後に放水試験を行う。その試験を通して、消火作業中でも防火戸で著しい欠陥が起こらない確認が義務づけられている。自主試験を行った結果、『ファイアライト®』は、UL規格の適合を確認した。
放水テストを実施する理由は、火災の際、ガラスが割れて屋内に空気が入り込むと、火が広がり近くにいる消防士が負傷する危険性があるためだ。『ファイアライト®』の高い安全性は米国の『UL規格』の放水テストでも実証された」
8割以上が知らない「窓ガラス」の盲点
ここまで、専門的な視点から「ファイアライト®」の性能を見てきたが、実際に生活者は「ガラスの性能」の重要性をどこまで認識しているのだろうか。
日本電気硝子は、2025年9月1日の「防災の日」を前に、全国の20代〜60代の男女600名を対象に、防災に関する意識調査を実施した。内閣府は「首都直下地震において、想定される死者数の約7割が火災による」と発表しているが、この事実について8割以上(84.8%)が「知らなかった」「聞いたことはあったが、詳しくは知らなかった」と回答。地震後の火災が極めて深刻なリスクであるにもかかわらず、その認知度は低いことが明らかになった。一方、火災については3割以上(34.2%)が不安に感じているにもかかわらず、具体的な「防火対策」を行っていると回答した人は、わずか5.8%に留まっていた。
加えて、「火災時に窓ガラスが割れることで被害が拡大する恐れがある」との事実についても、7割超(75.5%)が「知らなかった」「聞いたことはあったが、詳しく知らなかった」と回答。窓割れが火災拡大の一因となる可能性についての理解も、十分に浸透していない現状が明らかとなった。
また、「家を購入または賃貸契約を結んだ際、窓の防火性能を確認しましたか?」という質問には、約半数(47.7%)が「確認していない」と回答。その理由は、「住宅の防火性能という観点を考えたことがなかった」が最多で46.5%。次いで、「賃貸なので自分が選べる範囲ではないと思った」(21.3%)、「建築基準法に則っていれば問題ないと思った」(21.3%)、「火災の可能性は低いと思っていた」(16.8%)という声が続いた。
一連の結果から、住まい選びで「窓の防火性能」がほとんど考慮されていない実態が浮き彫りとなった。
電気硝子建材は調査結果を受け、次のように述べる。
「今、都心部では中古マンションの流通が盛んになっている。窓については断熱性や省エネ性が注目されがちだが、防火性能も重要な観点なため、『ファイアライト®』の採用を検討してほしい」
防火性能だけではない、次世代への付加価値
このほか、他社製品とのコラボレーションも進む。アルス株式会社は、「ファイアライト®」を使用した国内初の木製枠の特定防火設備FIX窓を発売した。
木枠でありながら、公共施設内の防火区画で使用できる特定防火設備として認定されたこの窓は、複層ガラスなので異種用途区画においても断熱性能を保つ。また、通常であれば鉄やステンレスの枠となるところだが、木製枠とすることで、CO2を軽減し、木の使用で心地よい空間を提供できる。電気硝子建材は今後、各サッシメーカーとのコラボレーションが増えていくことも示唆する。
加えて、「ファイアライト®」はこれまで強く防火性能をアピールしてきたが、ここに来て環境面でのPRも推進している。「ファイアライト®」は、一般社団法人サステナブル経営推進機構(SuMPO)の環境ラベルプログラム「SuMPO EPD」を取得した。
今回の取得により、「ファイアライトⓇ」を用いた建築物では、原料調達から工場出荷までの環境負荷の把握が可能となり、環境負荷の少ない建材を選択したいというニーズに応えることができるようになった。
EPD・・・Environmental Product Declarationの略。製品ライフサイクルの環境影響(CO2排出量をはじめとする製品の環境負荷)を定量的に算出し、第三者検証の合格で取得・開示する国際的な環境ラベル。
電気硝子建材はメーカーである日本電気硝子のEPD取得の意義をこう語る。
「今回のEPD取得で環境影響がより明確で透明に示されたことは、環境負荷に注意を払っている大型物件にとって『ファイアライト®』採用の大きな判断になることを期待したい」
災害時の「安全」、クリアな視界による「快適」、そしてEPD取得による「環境」への配慮。これらを高次元で兼ね備えた「ファイアライト®」は、人々の命と地球環境を守る次世代の建築において、欠かせないニュースタンダードとなっていくだろう。

