一般社団法人日本建築あと施工アンカー協会(JCAA)は6月に、都内で第29回通常総会を開催し、新たな代表理事として安永裕信氏(サンコーテクノ株式会社執行役員エンジニアリング本部長)が就任した。
2022年度は、山本忠男前会長が発表した中期計画の最終年度にあたる。重要な施策としては、国土交通省の告示対応製品認証への対応、今期中にあと施工アンカー施工士を国土交通大臣から登録基幹技能者としての認定を受けることに注力する。2023年4月からは、従来の協会名称から「日本建設あと施工アンカー協会」に改称することが決まり、同年12月には協会も設立30周年を迎えることから、記念式典開催や記念誌発行などを決めた。
「資格の充実などを強化し、あと施工アンカー施工士の地位向上や処遇改善につとめていきたい」と語る安永代表理事に話を聞いた。
地位向上、新資格の創設など確実に進める
――まず代表理事就任の抱負からお聞かせください。
安永裕信氏(以下、安永代表) 歴代の代表理事が制度や協会のシステムを制定されてきましたので、それを拡大していくことが私の仕事です。あと施工アンカーはそれほど大きな市場ではなく、認知度もまだまだ高くありませんから、機関誌やHPなどの充実を図り、なるべく多くの方々に周知していくなどのPR活動を強化していくとともに、専門工事業者の地位向上を目指していきたいと考えています。そのためには、従来からの資格である「あと施工アンカー施工士」に加えて、新資格を創設し、資格を取得する意味や優位性を訴えていくことや、あと施工アンカー施工士を登録基幹技能者として認定されるよう国土交通省への働きかけを強めていくことも重要だと思います。
また、国土交通省の告示対応製品認証への対応も必要です。RC造などの部材と構造耐力上主要な部分である部材との接合に用いる、あと施工アンカーの接合部の許容応力度や材料強度を指定できるようになりましたが、技術的な面はハードルが高い。アンカーの歩掛りも調査中で、適正な価格については今期中にはまとめたいと考えています。
そして、2023年には30周年の記念事業を進め、同年4月1日から「日本建築あと施工アンカー協会」の「建築」を「建設」に変更し、協会名を「日本建設あと施工アンカー協会」へ改称します。
今期は広報、資格の充実、30周年記念事業など、会長としての業務は多岐にわたりますが、一つずつ確実に進めていきます。
「点検士」「診断士」「注入式施工士」創設の意図
――あと施工アンカーの資格について教えてください。
安永代表 従来、「あと施工アンカー施工士」には「第2種あと施工アンカー施工士」「特2種あと施工アンカー施工士」「第1種あと施工アンカー施工士」「あと施工アンカー技術管理士」と、「第1種」や「技術管理士」の資格を取得することで昇格できる「あと施工アンカー主任技士」の5つの資格から構成されていました。
これらに加えて、「あと施工アンカー点検士」を創設し、2022年1月に続いて同年8月に試験を実施しました。次に「注入式施工士」もスタートし、2022年3月に試験を実施し、10月から全国8会場にて2回目の試験を実施します。これらの資格も定着化していかなければなりません。さらに点検士と車の両輪である「診断士」の資格の創設に動いています。
――新資格である「注入式施工士」「点検士」を創設し「診断士」を創設する背景は。
安永代表 「あと施工アンカー」の分類の中には「接着系のアンカー」があり、さらにその中に注入方式があるのですが、この接着系注入方式が近年増加しています。NEXCOの高架橋の耐震補強工事では、落橋防止装置として大きなブラケットを設置しますが、それを取付けるアンカーが注入タイプであり、国土交通省の告示対応製品認証としても注目されています。注入方式はかねてから普及している商品ですが、関連資格はありませんでした。一方、注入方式は空気が混入する等の理由で施工不良が発生するなどの課題があったため、専門家を養成の意味も込めて「注入式施工士」を創設しました。
次に「点検士」や「診断士」ですが、あと施工アンカーも時間が経つと、腐食も生じます。2012年12月の中央自動車道笹子トンネルの天井板崩落事故では、接着系あと施工アンカーが抜け落ち、天井板が崩落するという痛ましい事故がありました。
そこで、あと施工アンカーの変状・損傷等の現状を点検する資格として「点検士」、次の段階としてあと施工アンカーの状況をジャッジする人材として「診断士」の資格が必要になりました。あと施工アンカーの状況は表に見えないがため、いい加減な施工がなされれば大変危険です。そこで点検・診断によって悪い箇所を補修していくことが必要になるわけです。
協会員の皆様には、これらの資格の重要性に理解をいただいていますが、第三者にはまだ浸透しているとは言えません。これらの資格を取得する重要性を広める活動も展開していきたいと考えています。
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あと施工アンカー施工士を登録基幹技能者に
――登録基幹技能者の認定については。
安永代表 建設キャリアアップシステム(CCUS)での「登録基幹技能者」の位置づけは、認定基準の最高位です。国もCCUSに対して、スピード感をもって取り組んでおり、協会としても歩調を合わせる必要があります。だからこそ、国土交通省に対して、あと施工アンカー施工士を登録基幹技能者としての認定を得ることは重要になります。協会員からは登録基幹技能者の進捗状況の質問も受けており、早急に進めるつもりです。今期中には登録を受け、2023年度中には1回目の登録基幹技能者認定講習を開催したいと考えています。
また協会としては、CCUSのレベル判定に沿い、あと施工アンカー施工士のレベルを1~4までのランクづけをしていく必要があります。しっかりとした知識、経験、技能や資格を保有されている技能者の地位の向上を図っていくことが狙いであり、技能レベルに応じた賃金がしっかりと支払われる環境づくりが大切です。また、CCUSを活用して、地位向上とともに働き方改革にもつなげていきたいと思います。
――あと施工アンカーの市場自体を大きくしていきたいとの思いもあるようですが。
安永代表 現在、あと施工アンカーで大きな事故は発生しておりませんが、一方で安価な商品が流通していることを危惧しています。企業努力で品質も担保されているものであれば問題はありませんが、そうではない製品が流通している実態もあります。事故を防止するためには、安全で高品質なあと施工アンカー製品の開発・流通が市場拡大につながります。
これから新築工事は減少するため、単純に市場を拡大していくことは難しいものの、改修工事は増加すると予測しています。たとえば、建設後50年を経過した橋梁の割合は、現在は約34%であるのに対し、10年後には約59%となる見込みです。橋梁改修工事にはあと施工アンカーの施工も必要になりますから、そこでも市場の拡大が生じていくと想定しています。
「日本建設あと施工アンカー協会」に改称
――来年4月から、協会名を「日本建設あと施工アンカー協会」に改称される意図は。
安永代表 6年前に山本忠男前会長が提案したもので、現行名の「建築」ではビルなどに限定されているようなニュアンスを持ちますが、あと施工アンカーの製品は土木などにも多く使用されているため、「建築」から「建設」にするのが望ましいと判断しました。
30周年に当たっては、研究発表や記念誌の発行、記念式典の開催、これまで協会に尽力された方の功労表彰に加え、支部にも働きかけて支部独自の企画も検討してもらいます。30周年というのは大きな節目ですので、これを機にあと施工アンカーの認知度を高めていければいいですね。
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