30メートルのアドバルーン作戦
「守る会」はH地裁に建設工事の禁止を求める仮処分を申請しました。申請人は園児と職員の108人での連盟です。
法的な解決には、日照権阻害が「受忍限度」を超えているという証明が必要です。保育園、幼稚園などの教育施設では、日照権阻害が認められやすい傾向があります。滞在する子どもの年齢が小さいことと利用する人数が多いということで、日照権阻害の受忍限度が低く設定されます。
5月30日、仮処分では異例の現地調査が実現しました。「守る会」は裁判官にマンションの高さを実感してもらうために30メートルのアドバルーンを上げました。それを見た裁判官は「ああ」と声を漏らしたそうです。
一審勝訴
6月27日、「全面建築禁止、無担保」の仮処分決定が出されました。この勝訴に、「守る会」は喜びに沸きました。
判示
「保育所の日照確保の必要性、特殊性は特に重視されるべきであり、マンション建築による日照権阻害は保育にとって重要な時間帯を奪うものであって、その程度は著しい。保育園に対する日照権阻害は受忍限度を超える。保育園の申し立てには全部理由があり、保全の必要性も肯認できる。保育園に担保を立たせないこととするのが相当である」
この結果を受け、S不動産は異議申し立てをし、地裁での審尋が継続することとなりました。
しかし、11月13日には二度目の勝利決定が出ました。H地裁はマンションを3階建てにするように命じましたが、S不動産は高裁に不服申し立てをしました。
高裁での敗訴
1998年8月7日、H高裁は、S不動産に設計を変更したマンションの建築を認める決定をしました。その内容は、日照権阻害被害について認めながら、建築を認めたマンションは10階建て、という不可解な判決でした。事実上の敗訴です。
こうして、「守る会」の日照権運動は高裁で敗訴しました。マンションは法的には建ちうる状況となったのです。
しかし、「守る会」は「子どもたちの太陽と笑顔を守ろう」という意思を失わなかったようです。「2年前の振り出しに立ち戻っただけだ」と、美術教師の父親が日影図の立体模型を作り、母親が作詞をして本件のテーマソングを作り、皆で歌い、署名を集め、今までの物語を劇にして見てもらい、市議会に請願し、保育課、建築指導課に請願し、テレビ局や新聞社の取材も入ってもらいました。社会問題として地域社会と共有していたのです。
そして1998年12月、「守る会」にS不動産から連絡が入りました。マンション建設を断念し、3階建ての倉庫付き事務所を建築するということでした。「守る会」は図面を検討のうえ、日照が確保されることを確認し、この変更を受け入れました。
「守る会」は「子どもたちの太陽と笑顔」を守りました。「守る会」はその後、「正義と道理も通ることがある」「今の世の中捨てたものではない」という確信を内外に広げたと評価されています。

