副会長4名が語る、激動期の建築界を支える役割とビジョン
こうした小野田会長の基本方針を受け、今期の学会運営を支える副会長陣からも、それぞれの担当分野における抱負が語られた。
藤本裕之副会長(清水建設株式会社専務執行役員)
私の担当は総務・財務です。本学会活動のプラットフォームであり、同時に大切な資産でもある「建築会館」の扱いと、学会活動の根幹となる財務基盤の強化が主な任務です。
建築会館については、長寿命化を見据えた適切なメンテナンス計画の策定や、保有スペースの高度化・更新に向けた具体的な道筋を示し、実行に移していく正念場の年です。
併せて、「知的財産」の取り扱いも重要なテーマです。本学会が長年蓄積してきた膨大な学術的知見や各種基準・指針類といった知財を、持続的な財務基盤を支える「収益」としてどう組み入れていくことができるか、新たな方向性を模索します。財務基盤の健全化は、そのまま学会活動の一層の活性化に直結します。
東正典副会長(株式会社日本設計執行役員)
社会ニーズ対応・普及啓発を担当します。現在、建築を取り巻く社会環境は大きな転換点を迎えているというのが基本認識です。国内の急速な人口減少、地域社会の過疎化やコミュニティ維持の課題、地球規模の気候変動、それに伴う自然災害の激甚化・頻発化などへの対応は、一刻の猶予も許されません。建築分野に求められる社会的役割や期待は、今後ますます拡大・多様化していくでしょう。
こうした激動期だからこそ、本学会に集う多様な専門家の英知を結集し、社会に対して次代にふさわしい新しい価値観を提示していくことが求められています。私はこれまで、民間での建築設計実務や大規模プロジェクトのマネジメントに長く携わってきました。
そこで得た実務的な視点と経験を最大限に生かし、本学会が誇る最先端の「学術」と現場の「実務」とを強固に結びつける橋渡し役として、学会活動の普及と社会貢献に寄与したいしたいと考えています。
中谷礼仁副会長(早稲田大学教授)
情報・国際担当という、いま建築界でも最も変化の激しい分野を担当することになりました。この1年で、生成AI技術を日常的・業務的に使う場面は劇的に増えていますが、これからの2年間は情報技術面で本当の意味での「激動期」になると予想しています。
この1年、AI技術と向き合ってきましたが、AIの出力する回答や処理のスピードは圧倒的に速い一方、その内容を精査すると、事実誤認や文脈の飛躍など「論理的な揺らぎ」も少なからず含まれています。対して、人間による学術研究・実務・合意形成のプロセスは、AIと比べれば格段に遅いと言わざるを得ません。しかし、人間が作るものは、一歩一歩の検証を経て積み上げられているため極めて「着実」であり、かつ高い「正確さ」を有しています。
情報・国際担当としての自らの役割を考えたとき、この両者の間にあるギャップの埋め方を確立することにあるのではないか、という結論に至りました。
私たちがこれまで大切に培ってきた知見やシステムを適切に保護・継承しつつ、時代の変化に素早く柔軟に対応できる「スマートさ」を実装していく必要があります。とりわけ国際対応や海外への情報発信において、このスマートさを発揮していくことが私の大きな貢献のあり方です。
楠浩一副会長(東京大学地震研究所副所長・教授)
学術レビュー・教育推進を担当します。社会に対して大きな責任を負う第三者的学術団体として、本学会は社会のトレンドを牽引していかなければなりません。そのための柱の一つが学術レビューです。
その中で、学会が発行してきた膨大な論文集や技術基準、指針類といった「出版物のデジタル化・AI化」をどうハンドリングするかという非常に重い課題が私の元に降りてきております。学術団体として、未知の技術への恐れから「AI利用を全面的に拒否する」といった硬直的な姿勢を取ることは、将来を見据えた生産的な活動とは言えません。
むしろ、この急速な変化の過渡期において、本学会の有する唯一無二の知識資産と、AIという強力なテクノロジーの関係をどう交通整理するのかという、将来の建築教育・学術の在り方を左右する重い役目に寄与していきたい。
生成AIの「速さ」と学術の「着実さ」をどう繋ぐか
中谷・楠両副会長の発言を受け、学会としては生成AIへの対応を今期の執行部全体に横断する重要テーマと位置づけている。
専門のタスクフォースを立ち上げ、2026年9月を目途に一定の見解をまとめる方針を掲げている。中谷副会長が担う情報・国際分野でのAI活用の方向性、楠副会長が取り組む出版物のデジタル化・AI学習への対応指針、そして藤本副会長が検討する知的財産の収益化との関係整理など、各担当が連携しながら学会としての包括的なAIスタンスを形成していく構えだ。
深刻化する担い手不足に対し、受験資格の「超・前倒し」というドラスティックな一手を打つ今回の建築士法改正案。地方の工務店や建設会社にとって、高卒・若手人材の早期戦力化やキャリアアップを後押しする、強力な追い風となることは間違いない。
一方で、建築教育の現場を預かる日本建築学会が国交省に意見書を提出し、拙速な制度改正による「教育の空洞化」や「国際競争力の低下」に対して強い警鐘を鳴らした事実は重い。真の目的は、資格者の「数」を増やすことではなく、次世代を担う優秀な専門人材を社会に送り出し続けることにある。
要件緩和によって広がる門戸と、それに伴い求められる教育・実務環境の質の担保。この「期待」と「懸念」のギャップを埋めるには、今後、国交省が示す具体的な運用スキームを注視するとともに、実務側と教育側が恒常的に連携し、資格取得後の継続的な育成体制のグランドデザインを描き直すことが不可欠だ。
法改正という大きな転換点を迎えたいま、建設業界全体が「若手をどう育て、どう支えるのか」という本質的な問いに向き合うべき時を迎えている。





