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“ペンの先の絶望”から売上倍増!「倒産寸前の下請」から「若手が殺到する元請」に変わった勝山電気工事の大逆転劇

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長井 雄一朗
公開日:2026.06.23
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勝山電気

勝山電気

目次
  1. 「明日までに、1000万円ご用意ください」
  2. 「お前の名刺を箱で持ってこい。俺が配ってやる」
  3. 電気工事は”サービス業”である
  4. AIにはできない一生モノの価値
  5. 若者ファーストから吹いた追い風
  6. 2026年11月の社長交代へ。若い世代へ引き継ぐ未来

深刻な人材不足や若者の入職者減少、さらには多層下請け構造に伴う利益圧迫など、近年の建設・電気工事業界は数多くの構造的課題に直面している。こうした逆風が吹き荒れる中、驚異的なV字回復と若手採用の成功によって、業界内から熱い視線を集める企業がある。群馬県高崎市に本社を構える、有限会社勝山電気工事だ。

同社はかつて、慢性的な赤字経営により倒産寸前のどん底に立たされていた。しかし、勝山敦社長は「電気工事業はサービス業である」という、従来の職人気質を覆す大胆な意識改革を断行。下請け主体の体質から脱却し、施主との直接取引への構造転換を果たすことで、今期売上見込みは3年前の倍近くとなる7億円を突破するまでに至った。

同社の躍進は、単なる業績の回復に留まらない。地方の小規模な直営職人組織でありながら、独自のSNS戦略や地域密着のアプローチを巧みに駆使し、わずか半年間で20名もの求人応募を獲得。2026年11月には、創業家から36歳の若き大西拓専務取締役への社長交代を予定しており、名実ともに「若い世代が主役となる組織」への歩みを加速させている。

大手ゼネコンやサブコンの傘下に甘んじることなく、地方電気工事業としての誇りと独自の生存戦略を確立した勝山電気工事は、いかにして強固な組織と採用の仕組みを築き上げたのか。勝山敦社長へのインタビューから、その「再生」と「採用」のドラマ、そして未来へ紡ぐ経営哲学の核心に迫った。

「明日までに、1000万円ご用意ください」

――明日をも知れぬ経営危機に直面したときの心境を教えてください。

勝山社長 当時の私は、会社の経営というのはすべて先代である父が担うものだと思い込んでいました。私は現場に出て、預かった案件を確実に黒字で返すことだけに集中し、経営や財務には一切口を出さないと決めていました。

しかしある日の朝、出社するや否や先代社長である父から「お前の自宅の登記簿を持ってきてほしい」と言われました。理由も分からないまま急いで自宅へ戻り、登記簿を持参すると、そこには先ほどはいなかった銀行の担当者がいました。

銀行の担当者はにこやかな表情で、「こちらの書類にサインをしてください」と告げました。内容もよく分からないまま、促されるがままに大量の書類へサインをしていきました。「次はこちらに捺印を」と言われたところで手を止め、何とか回避する方法はないのか尋ねると、返ってきたのは「では、明日までに1000万円をご用意いただければ」という言葉。

ハンコを押したその瞬間、「そうか、銀行は父のことも、うちの会社も、もう見限っているんだ。社会から、”いらない”と言われたんだ」。背筋が凍るような激しい危機感を覚えたこの体験が、すべての始まりでした。

当時の私は、経営について右も左もわからない状態でした。戦略的に何かを組み立てる知識もなければ、どこへ行って誰に営業すればいいかも分からない。ただ一つ、自分自身に課した絶対の約束は「2年間は絶対に休まない」ということだけでした。朝7時から夜12時まで会社に身を置き、がむしゃらに働くしかないと考えたんです。

当時は本当に客もいなければ仕事もない、まさに「ペンの先に立っている」ような、少しでも風が吹けば倒れてしまうような崖っぷちの状況でした。後ろにも横にもいけない、前に倒れるしかないという極限状態の中で、ない頭を振り絞って動くしかないという覚悟だけでスタートを切りました。

「お前の名刺を箱で持ってこい。俺が配ってやる」

――仕事も顧客もないという絶望的な状況から、どのようにして最初の突破口を開かれたんですか?

勝山社長 本当に仕事が全くない中、かつて私が現場監督として大規模なエリアを担当させていただいた、大型商業施設へ赴きました。下請けとして10年ほど大手の現場を経験してきて、施工を任せてもらえれば何でもできるという技量の自負はあったんですが、それまで自分から仕事をもらうような営業したことは一度もありませんでした。

ただ、そのモールでたまたま昔お世話になっていた発注元の方とお会いした際、あまりの苦しさと必死さから、口から勝手に「仕事をください」という言葉が飛び出してしまったんです。

もちろん、簡単に受注できるとは思っていませんでした。しかし、その方は私の顔を見て「やるよ。名刺を持ってこい」と言ってくださった。私が1枚差し出すと、「馬鹿だな、お前の名刺なんかもう持ってるよ。箱を持ってこい。俺が配ってやる」と。先が見えず苦しかったときにそのような言葉をかけていただいて、その方が見えなくなるほど涙が溢れたのを、今でも鮮明に覚えています。

その恩人のおかげで、大手企業様との直接のチャネルが生まれ、元請けとしての商いが始まりました。なぜ、実績もない地方の小さな下請け企業が元請けになれたのか。後から振り返ると、相手にとって私が「都合の良い、強いカード」になれたからだと思います。

私はモールの構造や電気の仕組みを熟知していましたし、お客様の立場に立ちつつも、デベロッパーの意向を最優先にできるプロとしてのホスピタリティを持っていました。「工事をやっている」という傲慢な気持ちは毛頭なく、相手のニーズに徹底的に応え、喜んでもらうことを最優先にした。相手にとって「便利でプロフェッショナルなカード」になれたことが、元請け転換への道を拓いてくれたのだと思います。

電気工事は”サービス業”である

――「ホスピタリティ」という個人のマインドを、社内全体へ浸透させ、組織の強みに変えていくのは簡単ではなかったと思います。どのように意識改革を進められたんですか?

勝山社長 電気工事業は単なる施工技術の提供ではなく、お客様に喜んでもらうためのサービス業であると定義し直しました。ただ図面どおりに電気工事をこなすだけでなく、取引先や現場で横に並ぶ他工種の専門工事会社、何より目の前のお客様など、関わるすべての人に対して喜んでいただけるような、ホスピタリティの高い行動を徹底するよう指導していきました。

正直なところ、このマインドを職人全員に定着させるには相応の時間が必要でした。建設業界には「腕さえ良ければ無愛想でもいい」という旧い職人気質が根強く残っているからです。

ただ現在では、経営層や管理職だけでなく、現場の最前線に立つ若い職人に至るまで、全社員が「どうすれば相手が喜ぶか、今自分に何ができるか」を自ら主体的に考え、行動できるようになっています。

 

施主に話しかけるなから提案する時代へ

建設業界の中で、このホスピタリティの重要性を本当の意味で理解し、実践できている企業はまだ極めて少数です。だからこそ、当たり前のサービス業としての振る舞いができる職人が現場に赴くと、それだけで圧倒的に差別化され、お客様から選ばれる理由になります。このマインドの徹底こそが、大手企業にも負けない当社の最大の強みであり、適正な価格交渉にも十分に勝てる原動力となっています。

勝山電気_従業員の皆様の様子_1200_798

――――そうしたサービス業としての強みを武器に元請けへの転換を果たされたわけですが、会社にはどのような変化がありましたか?

勝山社長 それまで施主から大手ゼネコン、サブコン、地元の元請を経て、ようやく最末端の当社に至るという、建設業界の典型的な多層下請け構造の底辺にいました。特定の1社に売上の大半を依存していた時期もあり、どれだけ過酷に現場をこなしても、利益はほとんど手元に残りませんでした。

しかし、施主と直接取引をさせていただけるようになったことで、それまで中間業者に流れていたマージンが、丸ごと自社の収益に変わったのです。これが、元請け転換がもたらす「ダイレクトな収益改善」の構造です。

完全下請け時代_1200_798

当初は数万〜数十万円という非常に小規模な案件からのスタートでした。にもかかわらず銀行の担当者がかけつけたのは、通帳の数字ではなく取引先の名前が、アウトレットのテナントに入っている誰もが知るようなプランドが散見されるようになったからです。どれも数万~数十万という金額の小規模工事でしたが、そこから信頼を積み重ね、「お客様に本当に喜んで貰うサービスを提供する」で他の同業社との差別化を図り、価格競争に巻き込まれない手法に切り替えていきました。

 

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この記事を書いた人

長井 雄一朗
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建設専門紙の記者などを経てフリーライターに。建設関連の事件・ビジネス・法規、国交省の動向などに精通。 長年、紙媒体で活躍してきたが、『施工の神様』の建設技術者を応援するという姿勢に魅せられてWeb媒体に進出開始。
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