一般社団法人日本膜構造協会(東京都中央区、川口健一会長)は6月22日、「膜構造デザイン賞」「技術賞」「環境貢献賞」および「特別賞(EXPO2025)」の表彰式を開催した。
大阪・関西万博では、パビリオンや休憩施設、サウナ、トイレなど多様な建築物に膜材料・膜構造が採用され、その数は60件を超えるという。こうした機運の高まりを受け、同協会は大阪・関西万博を対象とした「特別賞(EXPO2025)」を新設。万博を舞台に生まれた先進的な膜構造の取り組みを顕彰した。
同協会は、膜材料や膜構造の特性を生かした優れたデザインや技術、環境面での貢献を評価するため、2024年から表彰制度を実施している。今回は書類審査、現地審査、プレゼンテーション審査を経て、膜構造デザイン賞2件、技術賞1件、特別賞6件が選出された。
表彰委員長を務める川口会長は、「仮設ならではの工夫やチャレンジがなされているか」「過度な環境負荷をかけない配慮がなされているか」を特別賞の重要な評価軸としたと説明。膜構造が本来得意とする仮設建築について、今後も継続的に評価できる仕組みづくりを検討していることを明らかにした。
以下、各受賞作品の評価ポイントを紹介する。
住宅とスタジアムで魅せた「膜構造デザイン賞」
膜屋根のいえ
表彰対象者(応募者):
永山祐子氏(有限会社永山祐子建築設計)
𠮷田昌平氏(合同会社𠮷田昌平建築設計事務所)
高木淳一朗氏(TSP 太陽株式会社)
東京の住宅密集地という厳しい都市条件の中で、膜構造の特性を住宅スケールで巧みに落とし込んだ作品。
建物を覆う二重膜の屋根は、柔らかな自然光を室内へ導くとともに、断熱や通風機能も確保。上膜と下膜の間に構造体や空気層を取り込むことで、光環境と熱環境を一体的にコントロールしている。
特に、下膜をカテナリー状に支持した半円形のライトチューブは、膜素材ならではの柔軟性を生かした象徴的なデザイン。膜屋根を単なる被覆材ではなく、「環境を媒介する皮膚」として機能させ、時間とともに移ろう光の表情を住空間へ取り込んだ点が高く評価された。
EDION PEACE WING HIROSHIMA

EDION PEACE WING HIROSHIMA(©2026.S.FC)
表彰対象者(応募者):
川野久雄氏、松村秀幹氏、島村高平氏、安藤広隆氏(以上、大成建設株式会社)
平郡 竜志氏(太陽工業株式会社)
都市と一体となる開かれた空間構成と、「平和の翼」をコンセプトとした大屋根が特徴のサッカースタジアム。
膜構造の大きな特徴は、天然芝の育成に必要な日照条件を確保するため、南側屋根の一部に高い透過性能を持つETFE膜を採用したこと。全面採用ではなく必要な範囲に限定することで、採光確保と夏季の熱負荷低減を両立した。
また、単層テンション方式に再張力導入機構を組み合わせるなど、維持管理まで見据えた計画も特徴。膜は建築全体の中で主役ではないものの、スタジアムデザインに自然に溶け込みながら、天然芝育成という重要な役割を果たしている点が評価につながった。
膜面に水をためる新技術”万博トイレ3″が「技術賞」
EXPO2025 大阪・関西万博トイレ3~エンジニアド・ポンディングの開発と展開~

EXPO2025 大阪・関西万博トイレ3~エンジニアド・ポンディングの開発と展開~
表彰対象者(応募者):
小俣裕亮氏(new building office 株式会社)
喜多村淳氏(太陽工業株式会社)
三崎洋輔氏(株式会社 EQSD)
膜面に水を溜めることで冷却効果の持続を図る「エンジニアド・ポンディング」の開発と実証が評価された。
申請者は過去のプロジェクトで膜面への散水による室温低減効果を確認していたが、散水停止後に効果が失われることや騒音が課題となっていた。そこで本施設では、散水ではなく膜の上に水を保持する新たな手法に挑戦した。
施設は木造基壇の上に空気膜構造の屋根を載せた構成。風速計による常時監視のもと、低風速時には送風機を停止し、膜が風に揺らぐ状態を積極的に活用している。従来は避けられることが多かったフラッタリング(膜の揺れ)を「風の可視化」として取り込み、夏季の涼感演出にもつなげた。
一方、強風時や降雨時には送風機によって膜を加圧し、安定した形状を確保。空気膨張式屋根としての運用に加え、空気支持式膜構造への展開可能性を示した実証プロジェクトとして高く評価された。
鏡面膜からリユース建築まで「特別賞(EXPO2025)」6作品
null²~2025 年日本国際博覧会 テーマ館「いのちを磨く」~

null²~2025 年日本国際博覧会 テーマ館「いのちを磨く」~
表彰対象者(応募者):
豊田啓介氏、酒井康介氏(以上、NOIZ)
竹内篤史氏、春田典靖氏(以上、Arup)
太陽工業株式会社
万博を象徴する実験的な建築として、膜材料の新たな可能性を切り拓いた点が評価された。
最大の特徴は、約2年にわたる検証を経て開発された反射率98%の「鏡面膜」。風や振動、ロボットアームの動きによって揺らぐ膜面が周囲の景色を映し出し、現実とデジタルの境界を曖昧にする独自の体験を生み出している。
また、暴風時の耐久性と意図した動きに追従する柔軟性という相反する性能を両立。素材開発から設計・施工まで一体となった挑戦的な膜構造として高く評価された。
大阪・関西万博ルクセンブルクパビリオン ~DOKI DOKI ルクセンブルク~

大阪・関西万博ルクセンブルクパビリオン~DOKI DOKI ルクセンブルク~(©Bjoern)
表彰対象者(応募者):
ローラン・ネイ氏、マチュー・ジャック・ド・ディクスミュード氏、髙橋謙良氏(以上、Ney&Partners)
渡邉竜一氏、赤阪 健太郎氏(以上、Ney&Partners Japan)
敷地全体を覆う大屋根を通じて、膜構造の造形的な魅力と環境配慮を両立したプロジェクト。
支持部材を極力簡素化したサスペンション膜構造を採用し、躍動感のある曲面を実現。主応力方向と膜の繊維方向を一致させるなど、構造合理性と意匠性を高いレベルで融合している。
さらに、高強度PVC膜を採用。会期後はバッグや財布へ再利用する計画とし、万博の理念であるリユース・リサイクルを体現した点も評価された。
万博サウナ「太陽のつぼみ」 EXPO SAUNA ‘TAIYO TSUBOMI’

万博サウナ「太陽のつぼみ」 EXPO SAUNA ‘TAIYO TSUBOMI’(© Yohei Sasakura)
表彰対象者(応募者):
KOMPAS JAPAN株式会社一級建築士事務所
太陽工業株式会社
TSP太陽株式会社
万博会場の海辺に設けられたサウナ施設。ETFE膜と独自開発のアルミフレーム、空気圧によって形成されるテトラ型ユニットを組み合わせた特徴的な構造が評価された。
ユニットの構成を変化させることで、閉鎖的なサウナ空間から海風を感じられるラウンジ、水風呂エリアまで、多様な空間体験を実現。膜を透過する自然光や風を積極的に取り込み、膜構造ならではの軽やかな空間を創出している。
夜間には内部照明による演出も行われ、昼夜で異なる表情を見せる施設として評価された。
2025年日本国際博覧会休憩所1~fuku fuku~

2025年日本国際博覧会休憩所1~fuku fuku~(Photo:Takumi Ota)
表彰対象者(応募者):
大西麻貴+百田有希/o+h
平岩構造計画
建築エネルギー研究所
住建トレーディング・加藤建設工事共同企業体
太陽工業
進弘産業
休憩所を覆う色鮮やかな膜屋根を通じて、資源循環と膜構造の新たな表現の可能性を示したプロジェクト。
屋根には、デッドストックとして廃棄予定だった約40種類・3,500枚のテキスタイルを活用。半透明の膜材と組み合わせることで、唯一無二の表情を持つ屋根デザインを実現した。
また、三次元形状の外周梁とケーブルによって屋根に柔らかな揺らぎを与え、膜材料と構造を一体的にデザイン。廃棄資源を新たな建築表現へと昇華した点が評価された。
ウーマンズパビリオン in collaboration with Cartier

ウーマンズパビリオン in collaboration with Cartier(撮影:表恒匡氏)
表彰対象者(応募者):
永山祐子氏(有限会社永山祐子建築設計)
2020年ドバイ万博日本館で使用された部材を再利用し、新たなパビリオンとして再生した取り組みが評価された。
再利用されたのは、システムトラスや膜材などドバイ万博日本館の主要構成部材。オーダーメイド化された部材を異なる条件の建築へ転用するため、デジタルファブリケーション技術を活用しながら最適な構成を導き出した。
万博建築における循環利用の先進事例であり、会期後には2027年横浜国際園芸博覧会での再利用も計画されている。パビリオン建築の新たなあり方を示した挑戦として高く評価された。
いのちの未来 シグネチャーパビリオン

いのちの未来 シグネチャーパビリオン(FUTURE OF LIFE)
表彰対象者(応募者):
菅原雄一郎氏(石本建築事務所)
遠藤治郎氏(合同会社SOIHOUSE)
住吉正文氏(ファロ・デザイン合同会社)
辻和之氏(太陽工業株式会社)
山本翔太氏(株式会社ウォーターデザイン)
水を「いのちの象徴」と位置付け、流水と膜素材を融合させた独創的な外装表現が評価された。
黒いPVC膜の上にカーボン繊維によるメッシュ膜を重ねることで、水が流れ落ちる波紋そのものを建築デザインへ取り込んだ。さらに、二重のメッシュが生み出すモアレ効果によって、水が流れていない状態でも揺らぎを感じさせる工夫が施されている。
本来は扱いの難しい流水と膜材を組み合わせながら、「黒い岩」のような造形イメージを具現化。素材と現象を一体化させた表現手法が高く評価された。




