災害復旧を担う建設会社の辛苦 「ぐんケン見張るくん」をご存知ですか?  

災害復旧を担う建設会社の辛苦。「ぐんケン見張るくん」をご存知ですか?

建設業主導の災害情報共有システム「ぐんケン見張るくん」

自然災害にまっさきに立ち向かうのは、自衛隊、警察、消防、そして「地域の守り手」である地域建設企業だ。その「地域の守り手」の役割を担う存在として、最近注目を浴びているのが、群馬県建設業協会(青柳剛会長)が運営する災害情報共有システム「ぐんケン見張るくん」である。

群馬県建設業協会は「ぐんケン見張るくん」を通じて、災害状況をリアルタイムで発信。ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)のTwitterに逐次、道路や河川の安否情報を流している。群馬県民も、群馬県建設業協会のTwitter情報を積極的にリツイートし、正確な情報の拡散につとめている。

群馬県建設業協会の青柳会長は「SNSならではのメリット。建設会社の役割を多くの県民の方々に周知することで、建設業に対して再評価する声が高い」と述べる。「ぐんケン見張るくん」は、群馬県だけではなく他県、最近では大分県建設業協会(安部正一会長)も導入に意欲を示し、大分県建設業協会青年部が実施する方針を示した。

今後、さらに進化する「ぐんケン見張るくん」だが、そのシステムはどのようなものであり、地域の方々にどのような活用方法がなされているか、青柳会長が解説してくれた。そこには建設業界の処遇改善につながるヒントも隠されていた。

「連絡がない場合は大災害を疑う」が合い言葉

「ぐんケン見張るくん」の導入に至る経緯は、2007年9月、大型台風9号の来襲が契機となった。この際、群馬県の西毛地域の市町村は大きな被害を受けたが、その中の一つ南牧村からは被災報告がなかった。

「しかし、実際には、南牧村に至るまでの道路が寸断され、連絡しようもなく孤立状態でした。ですから、連絡がない場合は、大きな災害に見舞われていると疑う、というのが群馬県の防災関係者では合い言葉になっています。災害時には少しでも多くの情報が求められているのです」(青柳会長)

こうしたことを受けて群馬県建設業協会では、2008年6月に「GPS携帯による災害情報共有システム」を立ち上げた。同システムは、当時は珍しかったGPS機能付きの携帯電話を使って、災害時のパトロールで得られた被災現場の位置情報と画像情報を、道路・河川管理者である群馬県土木事務所等と共有するものだ。

「この頃は、最低制限価格がなくなって、また民主党政権下にあり、国民も公共工事の価格は安ければ安い方がいいという論調に流れていました。地域建設企業は大手ゼネコンとは異なり、地域に密着した仕事が多いです。地域に貢献していることをITの活用で情報発信することを考えました。最初は、ガラケーとGPSからのスタートでした」(青柳会長)

政府も行政も注目した新災害情報共有システム「ぐんケン見張るくん」

さらにこれを進化させ、近年発達しているSNSとの連携を行う独自の新災害情報共有システム「ぐんケン見張るくん」を2014年12月に発表し、デモンストレーションを実施した。NTTドコモと連携し、従来システムを再構築。受発注者だけではなく、国民に高い精度の情報をリアルタイムで共有することになった。

デモンストレーション当日、西村明宏国土交通副大臣(当時)も出席。「災害復旧につとめる地域建設企業のイメージアップに取組んでいる群馬県建設業協会に敬意を表したい。ぐんケン見張るくんにより災害対応が向上するよう、国も協力していきたい」と敬意を表した。

発表当日、青柳会長は、「ぐんケン見張るくんは、建設業と国民のみなさまが災害情報を共有するだけにとどまらず、建設業界の役割と使命を共感するツールに育んでいきたい。国土強靭化基本計画が策定され、地域建設企業が防災や減災を着実に進めている強いメッセージにもなる」と自信をもって新システム開発の意図を示した。

群馬建設業協会のマスコットキャラクター「ぐんケンくん」

ぐんケン見張るくんのシステムの詳細は次の通りだ。

  1. 被災を発見した建設業協会員のパトロール員は、GPS 携帯電話やスマートフォンを操作し、メニューボタンから事象、情報の重要度等を選択し、位置情報付きの画像や動画を添付して発信する。
  2. システムに送信された情報は、IDを持った国・県・市町村(システム利用者)や群馬県建設業協会(システム管理者)が、パソコンのシステム画面で直ちに閲覧でき、災害対応も指示できる。
  3. 上記の1.と2.は、基本的には災害協定や道路除雪契約に基づく関係だが、各土木事務所管内の情報を国、県、市町村と群馬県建設業協会等の機関が互いに情報を共有していることにより、大規模災害時には土木事務所の管轄を超えた広域応援が容易になる。
  4. システム管理者は、災害情報の内容を確認し、ツイッターの投稿や、協会ホームページ「暮らしの安心情報」で一般に公開する。

「ぐんケン見張るくんは、建設専門紙だけではなく、地元紙や一般紙も取材に来て、みなさん好意的に取組みを評価していただきまして、ありがたく思いました。その後、大雪や土石流、豪雨に見舞われた際、マスコミから画像を是非、使わせて欲しいとの声もあり、今はTwitterについては大手マスコミもフォロワーになっています」(青柳会長)

ちなみに、この災害情報をTwitter上で周知しているのは、群馬建設業協会のマスコットキャラクターである「ぐんケンくん」(@gunken000 )。災害情報やパトロール情報のみならず、協会の活動状況も逐一、周知している。


群馬建協が示したTwitterの効力

近年では、企業でも政党でもTwitterの効力があらためて見直されているが、群馬県建設業協会はいち早くSNSでの役割を認知している。そのため、各都道府県建設業協会の中のTwitterでは発信力は強く、フォロワーも2900となっており、建設業界では異例の数だ。

群馬県民も豪雪や土砂災害に見舞われるなど災害とは無縁ではない。日々フォロワーが増加しているのは、災害情報への注目度だけではなく、建設業界に対する関心度も高くなっているからだ。

ちなみに、2016年9月には、群馬県下の渋川・沼田で集中豪雨があった。土砂災害にも見舞われ、道路も寸断した。その状況をTwitterで報告、県民から多くの感謝の言葉が寄せられた。群馬県建設業協会にはTwitter上では次のような声が寄せられた。

  • 復旧作業員お疲れ様でした
  • こういうツイートは田舎にはとても役に立つ
  • パトロールに復旧にお忙しい中、ツイート本当にありがとうございます。ピンポイントな情報が寄せられ、感謝します。

この時は、大手テレビ局のマスコミも積極的に群馬県建設業協会提供の画像を使用した。

群馬県建設業協会の提供画像を使用する大手テレビ局NNN

群馬県建設業協会の提供画像を使用する大手テレビ局JNN

「建設業界自らが汗をかいている姿を広報しなくてはいけない時代です。ただ、それをマスコミだけに頼るのではなく、自らが広報するため、TwitterやITなどの活用が必要です。フォロワーも増えてまいりましたが、やりがいも当然出できます」(青柳会長)

2017年1月も大寒波に見舞われた。その時も降雪状況をTwitterで報告している。

降雪状況をTwitterで報告

実は、「ぐんケンくん」については青柳会長自身もリツイートを積極的に行なっている。建設業協会会長としては珍しく、Twitterにより、自分自身の情報発信も行なっている会長だ。

建設業界の処遇改善には「国民の理解」が必要

群馬県建設業協会によるTwitterでの情報発信は、必ずしも災害情報周知活動だけではない。

5月30日(ゴミゼロの日)には、「道路クリーン作戦」を実施。会員企業から総勢2,000人を超える人が参加して群馬県下全域で一斉に道路清掃に取り組み、システムの操作訓練を兼ねて活動状況を共有する。

「清掃はストレスのない訓練だと認識して欲しいです。一方、こうした国民と向き合う姿勢は大切なのです。県民からは非常に好意的な声が聞かれています。たとえば除雪についても、広報した結果、建設業界は昼夜を問わず除雪をしてくれて大変ありがたい存在だというお声もいただいております。
建設業界が処遇改善を訴える中で、やはり国民からのご理解が必要です。建設業界はこんなにがんばっている。だから処遇改善に賛成だという声がわれわれだけではなく、国民からあがってこないと難しい面もあります。だからこそ、こうした活動も必要なのです」(青柳会長)

大分建協も「ぐんケン見張るくん」と同様なシステム導入へ

そして「ぐんケン見張るくん」に他県も注目するようになった。

大分県建設業協会は群馬県建設業協会を訪問し、「ぐんケン見張るくん」について意見交換を行なった。工藤康世青年部会長、池永俊八専務理事ら4人が訪れた。

この席上、青柳会長は、「災害時にTwitter 検索をすぐにでもする時代になりました。ぜひ群馬でのここ3 年あまりの災害情報の共有と、広報戦略としてのTwitter 発信についての成果で参考になる点がありましたら活用されればと思います」と挨拶。

群馬県建設業協会からは、反響が多いツイートでは3000件を超えるリツイートがあり、行政である前橋市や高崎市にもリツイートされるなど信頼性が高いことの説明があった。これに対して池永専務理事は、「行政や県民から大変信頼を受けているシステムであると感じた。災害時にまっさきにかけつける建設業が一番、災害情報を保有している。これをなんとか活かせないかと思っていたが、是非、検討したい」と導入に意欲を示した。

特に、青柳会長が力点を置いたのは、Twitterという開放系のSNSを活用したシステムの利点。閉鎖系のシステムではうまく機能できないところもあり、「開放系のSNSによる情報発信が必要」と述べた。

最終的に大分県建設業協会は、青年部が中心となり、SNS災害情報共有システムを導入することに決定した。地元自治体などと協力し、準備を進め、2018年度からの導入を目指していく方針だ。

大分県は2016年の熊本地震や2017年7月の九州北部豪雨など災害に見舞われている中で、災害情報共有システムの実現を模索していた。「ぐんケン見張るくん」と同様なシステムとなる。「この取組みにより、災害対応で広く建設業の役割を理解してもらいたい」(大分県建設業協会)との認識だ。

国民の側も地域建設業の辛苦に報いる努力を

「ぐんケン見張るくん」は群馬県建設業協会会員1人1人が主役である。情報を得て写真撮影する人、その情報を管理する人、Twitterで発信する人、役割はそれぞれでありつつも、誰もが欠けてはならない大切な存在だ。

建設業界は、「担い手確保・育成」が求められている中、他産業との人材獲得競争において、処遇改善は待ったなしである。「ぐんケン見張るくん」のデモンストレーションやその後の運用状況を見て、多くの行政関係者や国民からは感謝と驚きの声が上がっていることも事実。しかし、それだけでは終わらせてはいけない。地域建設企業は、災害があれば、その復旧につとめているところであるが、それをただ「感謝します」という声に留めていいのだろうか。

建設業界は、「ぐんケン見張るくん」の取組みにとどまらず、生産性向上など日進月歩で努力を続けている。そうであるならば、国民や行政の側も、地域建設業の辛苦や努力に対して、処遇改善などさまざまな施策で報いるべきとの声をより多く発するときに来ているのではなかろうか。

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建設専門紙の記者などを経てフリーライターに。建設関連の事件・ビジネス・法規、国交省の動向などに精通。 長年、紙媒体で活躍してきたが、『施工の神様』の建設技術者を応援するという姿勢に魅せられてWeb媒体に進出開始。
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