「家起こし」の肝は、仮設H網を組む位置と反力
「家起こし」は、足元に仮設の鉄骨を組むところから始まります。「家起こし」では、どこから反力を獲るかが、とても重要で、例えば床下に10トン分の鉄骨を繋いで組み上げれば、ほとんどの柱は2トン以下の負荷しか担っていませんから、ほぼどこからでも自由に反力が獲れるようになります。

外周から丸桁を斜めに圧しているのは、仮設H網を組める曳家と相判だからこそできるもの。
さらに、ここが「家起こし」の肝なのですが、この仮設H網を組む位置をよく配慮することで、柱の足元側を固定することなく、ワイヤーで引っ張る際に足元が梃子の原理で反対側に動いてしまうことも抑止することができます。もし柱の足元を完全に掴んでしまうと、上部が起きようとするのを妨げてしまいます。
絶滅寸前の技術「家起こし」
「家起こし」の作業では、こうした細工を施してから天井を剥がして、ワイヤーを掛けるのですが、先ほどのお婆さんの例と同様に、頑強に癖づいている古民家をものの数分で戻すことは不可能です。ワイヤーを締めたり弛めたりしながら(「家を揺らす」と言います)、鴨居や丸桁を押して建立時の姿に近付けていきます。

向拝柱を強く持ち揚げて、その下に組んだH網を持ち揚げた負荷で固定しておいて海老桁の先を押している。

押すためのサッポードの先端を力が伝わり易いように建物の形に合せてカットしている。

220年の歳月で暴れて反った欅の柱、およそ70本を取り換え・矯正中。足元に組んだH網からベルトを獲るので、好きな位置に引き締めることができる。
もちろん、これらの作業は曳家職人だけで行うべきでなく、刻みの出来る良い大工さん相判で施工することが理想です。
しかし今では、この曳家と大工による「家起こし」は絶滅寸前の技術になろうとしています。何となく近いものをされている大工さんや、とび職さんもいらっしゃいますが、根本的に床下に仮設H網を組んで、上部を引き寄せ、逆に足元は逆方向に、真横に押すことの出来るジャーナルジャッキを使う曳家による「家起こし」工事とは異なります。
こうした手間を惜しまない「家起こし」の工事は費用もそれなりには掛かります。ただ、歪んだ家をきっちりと直したいようであれば、曳家のプロに「家起こし」を頼むべきでしょう。