大東建託 建築現場にAEDを設置する危機的理由とは?

大東建託が建築現場にAEDを設置する危機的理由

大東建託が建築現場にもAED設置へ

大東建託は今年9月までに全国50カ所の建築現場にAED(自動体外式除細動器)を順次設置する方針を固めた。建築現場の救命体制の整備と、地域社会への貢献が狙いだ。

すでに大東建託の現場では、65歳以上の現場作業員は高齢作業員教育を受講しなければ現場に入場できないなどの救命体制の措置を講じている。

救命と地域貢献を目指す大東建託の建築現場での取組みについてリポートする。

作業員と近隣住民が参加するAED講習会

6月28日、大東建託はAEDを初めて建築現場に設置し、報道陣に公開した。東京・江東区新大橋のマンション新築現場で、RC造9階建て1棟22戸、2019年1月に完成予定の現場だ。

現場所長は、大東建託江東支店工事部の上島賢大氏。同現場では当日、AED講習会が開催され、近隣住民5名、現場作業員17名の計22名が参加した。

大東建託江東支店工事部 現場所長 上島賢大氏

上島所長はこう解説する。

「墜落・転落以外の労働災害だけではなく、健康面の悪化で突然、作業員が心肺停止になることは他社でも大東建託の現場でもあります。そこで大東建託では、各建築現場にAEDの設置を推進しています。そして、作業員だけでなく、近隣住民の方々にも正しく使っていただけるように、AED設置を周知するため建築現場でAED講習会を開いています。」

大東建託協力会本部の岡﨑伊浩チーフは「北は北海道、南は沖縄までAEDを設置したい」と意欲を見せる。大東建託が手掛ける建物の約2割はRC造マンションだが、同規模のマンション工事現場(全国50カ所)にAEDを設置するとともに、同様のAED講習会を行う予定だ。

日本光電工業営業本部GP営業統括部AED営業部一課所属で、看護師の小関晶子さん

AED講習会の講師は、看護師でもある日本光電工業の小関晶子さんが担当。丁寧な説明と指導により、現場作業員や近隣住民もAEDを操作できるようになった。


建築現場のAEDと周辺周知

AEDは2004年7月から医療従事者ではない一般市民でも使用できるようになった。空港、駅、学校、公共施設、企業などへの設置が進んでいる。

大東建託もAED設置に積極的で、2018年3月までに大東建託(全233支店)、大東建託パートナーズ(全181営業所)、大東建託リーシング(全2,34店舗)の全拠点(全648カ所)へのAED導入が完了している。

大東建託のAED設置現場

そして今年6月、ついにマンション建築現場への導入にも踏み切った。現場の仮囲いにはAED設置ステッカーを貼り、近隣への周知も行う。

AEDの設置情報は、日本救急医療財団の「財団全国マップ」にも登録し、緊急時に近隣住民へ貸し出すという。

建設作業員の高齢化とAED設置

そもそも大東建託が建築現場へのAED設置を進める理由は、現場作業員の高齢化にある。高齢者の心疾患発症リスクは高いからだ。

建設業従事者は55歳以上が約34.1%。65歳以上の高齢作業員は約26%で、5年後には30%に達すると予測されている。

厚生労働省の「患者調査」データでは、心疾患・心不全は55歳以上から大幅に増えており、大東建託が建築現場へのAED設置を推進するのは、建設業界の年齢構成などを考えれば当然とも言える。


パートナー大東建託協力会と高齢作業員教育

大東建託のパートナー企業で構成する大東建託協力会も、今回のAED設置の推進に全面的に協力しているが、この大東建託協力会の会員も20%は65歳以上と高齢化している。

大東建託協力会は大東建託の工事を施工する企業約1万8,000社で構成し、健康診断や技能講習会の補助、一人親方のサポートから献血活動、エコキャップ運動など、地域に根ざした活動も展開している組織だ。

大東建託協力会本部の岡﨑チーフは、「大東建託協力会では、安全管理として高齢作業員教育にも力を入れている。今回のAED設置もその一環です」と語る。

大東建託では2016年から65歳以上の作業員は、半年に一度開催している高齢作業員教育を受講しなければ現場入場できない。現場入場時には血圧測定も義務化するなど、体調面の管理も徹底している。

血圧測定する作業員

講習を受けた65歳以上の高齢作業員には、受講の証として現場入場許可カードを付与し、現場で即時に認識できるよう黄色いラインのシールをヘルメットに貼ってもらう。併せて作業制限・心身機能のリスク予防が記載された「安全管理手帳」を配布し、高齢作業員が配慮すべき点をチェックしてもらう。

高齢作業員教育を担当している大東建託安全管理部安全管理課の平田純一チーフは、「高齢の作業員は、転倒や無理な作業による反動が事故につながるケースが多いです。高齢者は自分の身体の変化に気付きにくいので、その点を指摘し、高齢者に多い事故事例について説明しています」と語る。

これまでの講習テーマは「高齢者の身体的特徴」「身体セルフチェック」「高齢者の身体と疾病の特徴」「高血圧について」「筋肉と体操について」などがあった。

大東建託安全管理部安全管理課の平田純一チーフ

「高齢者講習の受講者はのべ5,988名に達しました。職人さんへの安全教育は、単に何々をしてくださいということでは伝わりにくいです。具体的な事故事例について説明することで、注意しようという意識も強くなります」(平田チーフ)

今後、さらに高齢化が進む建設業界では、AED設置や高齢作業員教育、体調管理が必須となってくるだろう。また建設現場の地域貢献という側面も、この業界のイメージアップのために重要だ。

大東建託の取り組みに限らず、建設業全体で知恵を出し合う必要性に迫られている。

この記事のコメントを見る

この記事をSNSでシェア

こちらも合わせてどうぞ!
前田建設ファンタジ—営業部が、「マジンガーZ INFINITY」とのコラボで業界内外に伝えたかったこと
VRで死を体験。大東建託が恐怖で安全意識を向上させる新技術
BIMを活用したいけれど、どうすればいい? アウトソーシングや人材派遣で解決しよう
1級土木施工管理技士の試験対策アプリ10選
配線工事後の変更工事はイヤだ!電気配線を平面図で打ち合わせる弊害とは?
【バンザイの作法】ダム式、下水道式、海岸式を徹底解説!
建設専門紙の記者などを経てフリーライターに。建設関連の事件・ビジネス・法規、国交省の動向などに精通。 長年、紙媒体で活躍してきたが、『施工の神様』の建設技術者を応援するという姿勢に魅せられてWeb媒体に進出開始。
モバイルバージョンを終了