ベトナム人技能実習生の受け入れ策
大東建託は、ベトナム政府と公益財団法人国際人材育成機構(アイム・ジャパン)が進める外国人技能実習制度に協力し、ベトナム人技能実習生の来日前の建築技能教育や、来日後のサポートを実施している。
大東建託の現場を施工する協力業者(大東建託協力会)に受入支援(現地指導教育・住宅支援・工具支援など)を開始してから4年が経ち、今やベトナム人技能実習生は大東建託にとって欠かせない存在。実際に現場で施工にあたる協力会の事業主からも好評だという。
しかし、外国人技能実習生に特有の問題として、言葉の違いによるコミュニケーション不足でのトラブルもある。また言葉は悪いが「逃亡」の問題もあり、これを防ぐ手段として、安全研修会などを通して事業主同士で情報共有も行っている。ベトナム語仕様の安全教育アプリ「建設版ハザードタッチ」も開発し、今年5月に初めて活用した。
ベトナム人技能実習生の「戦力化」に成功した大東建託と同社協力会事業主の取り組みについて、大東建託の泉和宏氏(施工品質管理部 部長)、坂口和敏氏(施工品質管理部 業者管理課課長)、海田佳吾氏(安全管理部 安全管理課チーフ)に話を聞いた。
左から、大東建託の坂口和敏氏(施工品質管理部 業者管理課課長)、泉和宏氏(施工品質管理部 部長)、海田佳吾氏(安全管理部 安全管理課チーフ)
大東建託のオリジナル技能教育
――ベトナム人技能実習生の受け入れについて、どこの建設会社も積極的です。大東建託ではどのような取り組みをしていますか?
大東建託 多くの建設会社は、相手国の送り出し機関のプログラムに則って、ベトナム人の技能教育を行っていますが、大東建託は通常の教育プログラムに加え、アイム・ジャパンと協力し大東建託のオリジナル研修をベトナムで約1ヶ月間加えて実施しています。
――なぜオリジナル研修を?
大東建託 大東建託は2×4建築をメインで建設しているので、独特の工具に慣れる必要があります。そこで、日本から同じ材料をベトナムに持っていって、電動工具や釘打ち機などで実際の建物を造り予備知識を座学と実技研修で教育しています。
一般的な日本語学習などのメニューに加えて、オリジナル研修では工事現場での安全ルール、KY(危険予知)活動、技能教育などを指導し、早く当社の現場になれて頂けるよう取り組んでいます。
大東建託の研修では実技研修も行う
――予備知識のあるベトナム人は戦力になるので、大東建託協力会の事業主も喜んでいるのでは?
大東建託 最初に現場に入る際、予備知識があるのとないのとでは、仕事の覚えるスピードは格段に違います。仕事にも抵抗感がなく、協力会事業主も喜んでいます。
ベトナム人技能実習生のポテンシャル
――アイム・ジャパンについては?
大東建託 アイム・ジャパンを通じて人材を受け入れていますが、かなり質の高いベトナム人技能実習生が来てくれています。弊社協力会事業主の中には別の監理団体を通して、外国人技能実習生を受け入れたところもありましたが、結局アイム・ジャパンからの外国人技能実習生のほうが優秀なので、アイム・ジャパンに一本化した協力業者もあります。アイム・ジャパンを通じて外国人技能実習生を受け入れてきた協力業者はリピート率が高くなっています。
――今、外国人技能実習生は日本で最長何年働いていますか?
大東建託 現在の制度では、実習生が建築技能実習3年間終了する前に、「随時3級技能検定試験」の資格を取得し、受入企業が優良認定されれば、最長5年間まで実習を行うことが可能です。
――外国人技能実習生の活躍を見て、続けて勤務して欲しいという声は協力会の事業主から多いですか?
大東建託 多いですね。日本の若者は残念ながら、建設業に就職しようという気持ちを持つ人が少ないです。協力会事業主も若手を募集していますが、なかなか応募もなく、就職しても日本の若者は耐えられないで辞めてしまうという声もあります。その点、勤勉なベトナム人技能実習生の方が長続きするという話を協力会事業主から聞くことが多いです。
――ベトナム人技能実習生が来日する理由は、稼ぎたいからなのでしょうか?
大東建託 日本の建築技能を学ぶことより、稼ぐことに力点を置いている人もいます。ベトナムよりも日本で稼ぐ賃金が高いですし、日本で働いたことはベトナムに帰国した際、ステータスにもなるようです。
ただ、ベトナムの建築は、ブロックやコンクリートが中心ですので、2×4建築はほとんどありません。しかしながら、大東建託はRC建築が2割ほどありますので、RC建築の現場でも、ベトナム人技能実習生は活躍しています。
ベトナム人技能実習生のトラブル原因
――聞きにくいことですが、技能実習制度の最大の課題は「逃げる」ことだと言われています。その対策はいかがですか?
大東建託 弊社協力会の事業主にヒアリングをしたところ、ベトナム人同士のコミュニティの中で「こっちの仕事のほうがいいぞ」という勧誘が来て、それに乗ってしまうことがあると聞いています。その防止策としては、現場が休みの日に、事業主がベトナム人技能実習生を食事に連れて行くなど、事業主と実習生のコミュニケーションを良くし誘惑に乗らないような環境づくりを心掛けています。
――ベトナム人の雇用についてのメリットは ?
大東建託 真面目な人が多く、しっかり黙々と作業をこなすところが大きなメリットです。
――しかし、言葉の問題もありますよね?怒っていないのに怒っているように伝わるとか。
大東建託 事業主が「分かりましたか?」とベトナム人に聞くと、分かっていないのに「分かりました」と回答するケースが多いですね。
事業主としては、分かっていなければ「分かりません」という回答が本来であれば欲しいのですが、実習生の答えた内容を鵜呑みにせず、指示した内容を聞き直すなどの確認が必要ですし、日々のコミュニケーションが大切です。
座学研修中のベトナム人技能実習生たちは真剣そのもの
――意思疎通が原因のトラブルは?
大東建託 技能実習生に工具の使い方を教えていたら、工具を壊したことがありました。分かっていないのに、分かりましたと言って、間違えた使い方で工具を使い続けたことが原因でした。
ベトナム人は分かっていないのに、分かりましたと回答する人がすごく多いと言われています。余り自己主張が強い性格ではないのは、日本人に似ていると思います。
――ほかにもベトナムの方と一緒に働く際に注意すべき事はありますか?
大東建託 日本語でも一部の方言は、荒っぽく聞こえるので萎縮してしまうベトナム人がいます。ベトナム人が日本語を覚えるだけでなく、日本人もベトナム語を覚える必要があります。弊社の工事管理職にも、ベトナム語での日常会話を表記したカードを携帯させています。気軽にベトナム人に話しかけられるように、たとえぱ「今日、体調はどうだい?」など簡単な単語帳となっています。
ベトナム語で話しかけることによって、ベトナム人も心を開いて「この人はベトナムを理解しようとしているんだ」と安心感を抱くようになります。 ベトナム語を話すのは簡単ではありませんが、コミュニケーションを取ろうとする姿勢が重要です。
――協力会の現場でトラブルが発生した場合は?
大東建託 本当にトラブルが発生した場合、私たちが出向いて話を聞きます。職長と技能実習生の現場の細かいトラブルについては、事業主が理解していないことも多いですし、言葉の壁があって事業主も実習生もなぜ意思疎通できていないのか理解ができていない場合もあるので、通訳も連れていきます。
ベトナム人技能実習生の事故防止「建設版ハザードタッチ®」
――ベトナム人技能実習生が事故にあったケースはありますか?
大東建託 重機のアタッチメントに挟まれた事故がありました。声がけの不足が原因ですが、声かけをしても、言葉を理解していなかったという外国人特有の原因もあります。
他にも、釘打ち作業後、釘打ち機を戻すときに太ももに刺した事故もありました。釘がなくなってロールを充填する際、本来ならエアホースを外して、充填する必要があるのですが、付けたまま充填したことで釘が発射しました。
いずれも防げた可能性のある事故ですが、日本人と同様、声かけ、指差し確認が大事だということです。
――ベトナム人技能実習生の事故撲滅で、どのような取り組みをしていますか?
大東建託 安全は日々の注意喚起などの情報発信をしていくことが大切です。終わりはありません。
まずは5月22日にさいたま市の大宮ソニックシティで外国人技能実習生向け「安全教育研修」を開催しました。これが労働安全衛生総合研究所と共同で開発した、ベトナム語仕様のiPad用安全教育アプリ「建設版ハザードタッチ®」を導入した初めての研修となります。
現在は、日本各地の主要都市にベトナム人技能実習生たちに集まってもらい、安全教育研修を実施しています。事業主と技能実習生の情報交換によって、ベトナム人技能実習生との接し方など、事業主の勉強にもつながっています。
――「建設版ハザードタッチ」とは?
大東建託 「建設版ハザードタッチ」は、iPadの画面上に表示される設問に、瞬時に回答してもらうものです。
例えば、下記の問題は分かりますか?
建設版ハザードタッチの問題
大東建託 正解は左上です。手に工具を持ったまま、登っています。やってはいけない作業です。
建設版ハザードタッチの正解
――「建設版ハザードタッチ」のベトナム人の成績はいかがでしたか?
大東建託 「建設版ハザードタッチ®」のベトナム人技能実習生の成績は上々ですよ。 安全教育研修の成果が実ったカタチですね。日頃の業務で得手不得手は出てくるかもしれませんが、日本人が分からないところも理解していました。こうした回答結果をデータ集計・分析して、さらなる安全対策に活用していこうと思っています。
――今後「建設版ハザードタッチ」も進化しますか?
大東建託 今はベトナム語バージョンですが、今後はアイム・ジャパンを通じて、インドネシア人も受け入れる予定ですので、インドネシア語版の「建設版ハザードタッチ®」も作る予定です。
ただし最大の目標は、「建設版ハザードタッチ」の充実ではなく、研修後の事故ゼロです。