海外で施工管理、コンサルの指示を聞くか否かで衝突
私が赴任したガーナの建築現場は、明朝からコンクリート打設を迎える予定である。
しかし、その前日の午後に鉄筋検査を受け、建設コンサルタントから2つのことを指摘された。「規定通りに出来ているが、鉄筋位置を確保固定するために、予備鉄筋・支持鉄筋を設置せよ!」そして「梁底のゴミを全部完璧に除去せよ!」という内容だ。
とはいえ、鉄筋にせよ、深い梁底のゴミ除去にせよ、簡単に対処できる内容ではなかった。事務所内は紛糾した。「規定通りに出来てるなら、それ以外はコンサルの指示であろうと、やる必要はない!」「清掃にしても、海外でやってるんだから、そんな完璧に掃除なんて無理だ!」という意見と、「とにかくコンサルの言うことを聞こう!」という意見が衝突した。
その時、現地人のジョーが「出来る!」と言い切った。「今すぐ現場の全員を集め、作業に取り掛からせる。夜中までやれば必ず、明日の朝からのコンクリート打設が可能だ!」と日本人全員の前で言い放った。
彼には珍しく、握りこぶしを握り締めての主張だった。
「アフリカのクロンボ」と言う情けない日本人技術者
ジョーの言い分に誰も異論は無かった。早速、鉄筋屋を呼び、切断加工の指示をして、残りの作業員は現場の梁底の清掃に取り掛かった。
それを作業員一人一人に頼み込んでやらせたのが、ジョー本人だ。ジョーの人望のお陰で、帰り支度をしていた現地の作業員も現場に来てくれた。私も手伝った。
結局、一通り出来たのは夜中の2時だった…。
が、残念ながら他の日本人技術者の間では、ジョーの評価は低かった。私の率直な意見を言わせて貰えば、ゼネコンの日本人たちは、彼の能力を認めなかった。いや、認めたくなかったのだろう。頭の中のどこかで、無条件で日本人の方が上だと思っている。
口に出すのさえ私は嫌だが、日本人の一人が「アフリカのクロンボの思い通りにさせてたまるか!」と言った。私は情けなさで唇を噛んだ!
それは今思い出しても、悔しくて、情けない思い出だ。
海外建築現場での日本人の悪いクセ
この現場では朝礼の前に、日本人と主要なガーナ人とで、今日の作業の打ち合わせを行うのが決まりだった。
その際、日本人の所長が皆の前で話をするのだが、日本語と英語のチャンポンで、内容がほとんどガーナ人に伝わらない。
私は「日本人は主なトピックを話すのに留めて、実際に現場を進めるガーナ人に話をしてもらったほうがいい」と提案した。「事前に内容をジョーに話し、司会をジョーにやらせ、ガーナ人同士がもっと話し合えるようにした方がいい」と話した。
そして、最初にジョーが司会をした時、その態度を見て、彼なら出来ると確信した。ただ、日本人に気を使って、普段話している英語の速度の半分位で話している。私は「そんな気使わなくてもいい!普段と同じように喋ればいい。この会議はガーナ人に話を伝えるための会で、もし分からなければ、日本人の側から質問が出るはずだ。その時、分かるように答えてあげれば良い」と彼に伝えた。
この国に限らず、海外で仕事してる多くの日本のゼネコンの技術者たちは「分からないからもう一度言ってくれ!もっと優しい英語で喋ってくれ!」とか、まず言わないし、言えない。だから会議でも、相互の質疑応答も、ちぐはぐなやり取りになる事が多い。
海外では「分からない」と率直に言えない外国人は信用されない。日本人技術者の悪いところだ。
現地人とのコミュニケーション
ジョーが司会進行をやるようになってから、ガーナ人に間違った情報が渡ることが減った。
また、会議の席で「日本人が知らない情報」を聞く機会も増えた。
海外で仕事する場合、日本人との間に入る現地の人間いかんで、現場のコミュニケーションは大いに違う。このガーナの現場は、ジョーというガーナ人のお陰で、非常に良かった。
ジョーは見事に期待に答えてくれた。しかし、これは海外の現場では極めて稀有な例だ。トラブルが何度も何度も起きるのが、海外での施工管理である。
次回は、風変わりな建設コンサルタントが登場し、ゼネコンとコンサルの日本人の間でバトルが勃発することになる。
(つづく)