高品質で耐久性のあるコンクリート構造物は技術者たちのプライド。写真は山口県が2014年度に施工したボックスカルバート

【良質なコンクリート構造物を造る男たち1】 山口県から始まった「良質なコンクリート構造物」ムーブメント

品質管理に妥協なし!高品質・耐久性コンクリート構造物へ

今、従来の方法から脱却し、高品質で耐久性のあるコンクリート構造物を造る動きが加速している。

この動きは、山口県を筆頭に、国土交通省東北地方整備局、群馬県、熊本県、新潟県と全国に広がりをみせており、これまでの「ものづくり」の概念を覆しそうだ

品質管理に真正面から向き合いながら妥協を許さず、美しい構造物に魅せられた技術者たちの拘り。そこには「良いもの残したい」という技術者たちのプライドが見え隠れする。

全国各地に広まっている高品質で耐久性のあるコンクリート構造物を造る取り組みについて、連載形式で紹介していく。

コンクリート構造物のひび割れ問題

高品質で耐久性のあるコンクリート構造物を造る取り組みは、山口県から始まったといっても過言ではない。

その陣頭指揮を執ったのが、山口県庁を退職後、西日本高速道路エンジニアリング中国株式会社の山口支店長を務める二宮純だ。

西日本高速道路エンジニアリング中国株式会社 山口支店 二宮純支店長

山口県では、コンクリート構造物の施工初期段階にひび割れが多数発生していた。

ひび割れが発生した場合、その調査や補修に掛かる工程や経費、事務量等の負担増加につながる。ひび割れの責任の所在や調査・補修・検査等については、受発注者間の対立が深刻化していた

しかし、ひび割れに関する知見が発注者・施工者ともに不足しており、対策は閉塞状況にあった。

こうした状況下で、県職員時代に抱いた「どうしたらコンクリート構造物のひび割れが回避できるのだろう」との想いが二宮を奮い立たせた。

コンクリート施工記録データベースと山口システム

山口県は産官学による協働で、2005年に山口宇部線をフィールドとして実構造物(橋台7基、橋脚9基、ボックスカルバート31ブロック)による試験施工を開始。

翌2006年にはその調査結果を踏まえ、さらに対策工を絞り、試行施工を実施した。


山口システムとは?

この試験・試行施工で得られたデータは、適切なひび割れ抑制方法を選定する上で有用なものとなった。なぜなら、同一地域の実構造物で、多数の対策工を比較したデータは、これまで無かったからだ。

こうして蓄積された施工データは、施工計画(PLAN)→実施工(DO)→評価(CHECK)→改善(ACTION)というPDCAサイクルとして実を結ぶ。

実構造物から集積したデータベースを基に、設計から施工を行い、さらにそのデータを分析して、設計に反映するという、PDCAサイクルによるコンクリート構造物の品質確保システム、いわゆる「山口システム」の基本が出来上がった。

山口システムが全国に広がっているのは、このサイクルが分かりやすいからだろう。

山口システムの構成

「山口システムの中核を担うのは、『コンクリート施工記録データベース』でしょう」と二宮は言う。

「最初は2004年度から2カ年で試験施工したものをデータベースの標本としていましたが、これでは足りないものですから、2006年度から施工業者にも協力してもらって蓄積しました。

今では特記仕様書によって『コンクリート施工記録』の提出が義務付けられています。そこでシステム管理者が気を付けなければいけないことは、施工由来の不具合が少なく、記載ミスがない良質なデータベースを構築することです。

様々な参考情報を基に、データのミスを修正・更新することも怠ってはいけません。信頼を低下させることになれば、システムの根幹が揺らぐことになるからです。」


模範的なコンクリート構造物のデータベース

二宮は、コンクリート施工記録データベースの信頼性を確保することが、山口システムの心臓部と位置付ける。

そのために考え出したのは、システムが健全に継続するための仕組み。PDCAサイクルにより品質確保された構造物を「会いに行ける模範的構造物」に選定し、研修題材とした。

そして、「会いに行ける模範的構造物」の研修会・見学会を通して、山口システムを波及させると同時に、ネット上でオープンにしているコンクリート施工記録データベースの活用を促した。

それによって、山口システムの理解が深まるとともに、データベースの利用が活発化。利用時にデータのミスを発見してもらい、修正情報につなげるなどの相乗効果も生まれた。

鏡のように光り輝くボックスカルバート。そこにはひび割れのかけらもない

「“会いに行ける模範的構造物”の代表的な事例として、2014年度に施工したボックスカルバートが挙げられます。

この構造物は、施工者が遵守すべきコンクリート構造物の施工の基本事項を整理した『施工状況把握チェックシート』(後出)の各項目を満足するように様々な工夫を行い、積極的な品質管理を行った結果、ひび割れの発生がなく、その他の不具合も生じていない優れた施工となっています。

2015年には、山口県が毎年開催している技術講習会(第9回)において、施工者が工事報告を行っています。」(二宮)

「会いに行ける模範的構造物」は、長期にわたり耐久性の変化を高い精度で調査できることから、有用な研究材料になっている。土木学会でも議論の対象になっているところだ。

高品質コンクリートを構築する「施工状況把握チェックシート」

山口県では、2006年から産官一体となって、ほぼ年1回のペースで開催している技術講習会がある。産は建設業協会、土木施工管理技士会、生コンクリート工業組合、測量設計業協会が、官は県と県建設技術センターが参画している。技術講習会には、山口県内の建設技術者が400~600人参加する。

そこは施工者、発注者、生コン生産者が集う情報交換の場所だ。基調講演はコンクリート研究者に依頼し、その他の演題は参加団体の技術者が発表する。いわば技術力の底上げを図るという側面も持っている。

「今年で12回目を開催することが出来ました。講習会で配布した資料は山口県のHPでダウンロードできます。

山口システムのキーワードは、あくまでも”コンクリート構造物が主役”ということです。協働で各自が役割を果たすために、情報を公開・共有します。

そうすることでコンクリートのパフォーマンスをしっかりと引き出し、素材を生かした構造物を造ることができるのではないでしょうか。

山口県のデータベースを使ってください。結果的にコスト縮減にもつながるでしょう。」(二宮)

山口県が使用している『施工状況把握チェックシート』

山口システムのPDCAサイクルは、全国各地へその姿を変えながら取り入れられている。

その中でも、『施工状況把握チェックシート』の活用は、直ぐにでも取り入れることができる手法だ。これを監督職員や現場作業員に浸透させることが、高品質で耐久性のあるコンクリート構造物を構築できる近道かもしれない。

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建設業専門紙に32年間勤務し、現場第一主義で取材・編集に従事。時代にマッチした特集記事を通して、現場の声を読者に届けることを使命感とし、業界に課題を投げかけながら進むべき道筋を示す。建産プレスくまもとを主宰。情報発信により地方の建設業が果たすべき役割について考える場を提供する。

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