設計と技術協力を同時進行する「ECI方式」とは?
先日、熊本の国道57号北側復旧ルートを外から眺めることができた。災害復旧のため、早期の供用開始を目指しており、急ピッチで工事が進められている。
このルートでは、二重峠トンネルの早期貫通が早期供用開始の鍵を握るとされていた。そのため、できるだけ早く設計を完了させて着工することが求められた。
さらに、設計においては工事中の設計変更を少なくするなどして工事遅延につながる要素を少なくすることも必要だった。
これらの課題を解決するための手段として、「ECI(Early Contractor Involverment)方式」が採用された。
ECI方式は、設計業務や工事を発注する際に業者を選定するための手段である。二重峠トンネルの工事にあたっては、建設コンサルタントが行う設計業務において施工者のこれまでの経験や知見を設計に反映させることにより、工期や工事費を抑えることが目的であった。
また、施工者を募る際には技術協力業務を別途発注することとし、工事予定者に技術協力業務を委託して設計業務と同時進行した。
その効果は絶大だった。設計と技術協力業務を同時進行することにより、より精度の高い設計成果品がまとまったとのことである。また、同時に工事発注業務も並行して行うことが可能となり、通常よりも半年ほど前倒しして工事発注手続きが完了し、着工となった。
さらに、施工者の提案を設計に盛り込んだことにより、計画工程が通常よりも1年ほど短縮されることとなった。ハッキリ謳われているわけではないが、通常のトンネル工事に比べて約半分の工程になったのではないか、と推察される。
建設コンサルとゼネコンの相互協力がポイント
とはいえ、デメリットが全くないわけではない。設計業務と技術協力業務(≒施工法検討、施工計画検討)が同時進行するということは、建設コンサルタントとゼネコンが相互に協力することが必要となる。
しかし、公共工事においては建設コンサルタントとゼネコンが結び付くというのは、あまり好ましくない。そのため、発注者側が調整に入ることが必要となる。だが、ある程度の経験値がある人でないと、調整がうまくいかないと考えられる。
また、建設コンサルタントやゼネコンにとっては手戻りが大きくなる可能性がある。かなり前に進んだのに、何かしらの原因で振り出しに戻る、なんてことがあり得るのだ。設計業務や工事をビジネスとして捉える上では、「儲からない・割に合わない」と考える人が出てきてもおかしくはない。
さらに、災害復旧ではスピードが要求される。ゼネコンであれば一つの工事に集中して取り組める面はあるが、建設コンサルタントは複数の業務を同時に遂行していることが多い。そのため、どれだけの労力をつぎ込めるのか、によって業務の進捗が左右されるのではないか。
ゼネコンにとっても、設計経験がある技術者がチームに加わらないと、技術協力業務は進まない。こちらもどれだけの体制が整えられるのか。どこも人財が逼迫している中での勝負となる。
発注者や地域にはメリットが大きい
ECI方式は、携わる人にとっては苦労が大きい発注方式であることは間違いない。建設コンサルタントにとっては設計業務を遂行する一方で、ゼネコンからの提案を設計に盛り込む必要が生じ、業務中の手戻りが大きくなったり多大な修正が生じる可能性がある。
ゼネコンにとっても、通常の工事設計ではなく技術知見や経験を提示する必要があり技術流出の懸念がある。また、受注者からの提案事項を着実に遂行することが絶対であり、何かトラブルがあった場合の責任が大きくなりやすい。
一方で、発注者はもちろんのこと、特に地域の人にとってはメリットが大きい。これまで何年何十年とかかっていた事業が、わずか2、3年で完了して便益を享受できるようになるからだ。特に、大規模災害により交通網が大ダメージを受けた地域においては、その効果はより大きいだろう。
今年も台風などの被害がとても大きかった一年だった。昨年や一昨年の災害復旧がままならないうちに今年の災害によって、査定をやり直したり工事が追加・変更になったケースもあると聞く。
人材不足が当然になっている中、各会社とも人繰りがとても厳しくなっている。そんな中で、ECI方式はデメリットもあるがメリットもある。今できることを念頭に置きながらうまく活用していけるように、国をはじめとする発注者側は考えてほしいものである。
※内容は、九州地方整備局や熊本河川国道事務所のホームページに記載されている事項を参考にした。