「三つの太陽」がある狩浜の段々畑
狩浜の段々畑(愛媛県西予市明浜町)は四国西予ジオパークである黒瀬川地帯に位置している。湾の奥に密集する漁村があり、それを囲む斜面が段状に耕され、劇場のような景観になっている。
以前は漁業や農業で自給自足していたが、1960年代にみかんの栽培が始まり、柑橘の栽培に適した土地柄ゆえ、今ではいろいろな種類の柑橘を栽培している。
この地域が柑橘に適しているのは「三つの太陽がある」からだ。一つ目は太陽からの直接の光。二つ目は海からの反射。三つ目が石からの反射である。この地域で採れる白い石灰岩の石積みだからこその栽培環境である。
柑橘栽培で、農事組合法人を設立
この地域の柑橘栽培は、現在多くが無農薬有機栽培で行われている。1974年に一部の住民が挑戦しはじめたが、当初は、無謀な挑戦にも思えた。しかし環境に対する消費者の意識の変化もあって、軌道に乗り始め、1989年には農事組合法人を設立するに至った。
今では明浜の六集落の生産者が加入し、中心となる狩浜地区では七割以上の農家が加入しているということだ。通信販売などを活用し、この価値を理解する人々に販売することで、経営を成り立たせている。研修制度なども用意され、次世代の育成にも力を入れている。
愛媛県の西の端に位置し、交通の便は非常に悪い土地であるにも関わらず、訪問時には多くの若者に会うことができた。中山間地域の環境と景観を維持しつつ、農業を成り立たせている希望のもてる地域である。
2018年の西日本豪雨でこの地区の段畑の多くも地滑りしたそうだが、昔ながらの方法である空石積みで修復をしようとする動きもあり、今後の展開が楽しみである。
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真田純子 文/写真