偏愛スポット「名港トリトン」
「偏愛スポット」として紹介したいのは、ちょうど名古屋港に架かる橋で、愛知県東海市、名古屋市、海部郡を横断する名港東大橋・名港中央大橋・名港西大橋である。3橋合わせての別名を「名港トリトン」という。
「トリトン」とは、ギリシャ神話の海神ポセイドンと紀アンピトリテの間に生まれた半魚人の王子の名前を指す。難波した船を救うために荒波を鎮めた海の守護神とされており、それと「トリ」が「3つ」を意味することから、それを掛合わせたものとして、一般公募によって選ばれ、この愛称になった。
名に恥じぬ威厳と神々しさを放つ3橋
3つの大橋、名港東大橋・名港中央大橋・名港西大橋は、それぞれ主塔の色と長さが異なる。名港トリトンのなかで最初に建設されたのが、名港西大橋である。
他の2橋と違い、上下線が分離している。そして誘目性、視認性を高めて名古屋港のシンボルとして機能するように赤色となっている。ちなみに橋長は、名古屋にちなんで758(なごや)mと粋な作りになっている。
次に、中央大橋。こちらは大きな白鳥が羽を広げたことをイメージさせるような白色に。そして東大橋は、空と海の色をイメージした青色が採用されている。橋桁の色は、それぞれ青い空、海の連続性と統一感を演出し、水平線を表現するために3橋ともに白色としている。
3橋ともに夜間は、3月から9月の期間は午後7時~10時、10月から2月は午後6時~9時までライトアップされている(名古屋港管理組合HP参照)。周りのクレーンや工場地帯の景観に見事に溶けこみあうことで、昼の姿からは一変、今度は幻想的な風景に変貌することで、さらに撮影意欲をかき立ててくれる。
いずれの橋も下から見上げることができ、その「大きさ」と「美しさ」に改めて心打たれる。その姿は、ギリシャ神話の守護神から取られた名に恥じぬ威厳と神々しさを放っているのだ。
以前は関西方面へ向かう場合、名神高速道路を使用していたが、長距離の運転が苦痛だった。しかし、伊勢湾岸自動車道が開通し、距離も時間も短縮され、心地よくドライブできるようになり、なおかつ、この名港トリトンを渡ることができる。
愛知県と三重県の県境付近に位置することから、西大橋は、関西圏へ向かう旅の始まりを告げてくれて、私のテンションも上がってくる。逆に、帰りは東大橋を渡りきると、旅の終わりを告げられているようで、少し寂しい気持ちになる。それだけ私にとっては思い入れの多い3つの橋なのだ。
私が一番好きな橋は西大橋である。上下線2線に分離されているため、下から見ると、中央大橋、東大橋に比べると迫力が違うからだ。主塔も赤色とあってライトアップされると美しさが際立つ。
全国いろいろな橋をこれまで1,000カ所以上撮影してきたが、今まで撮影した橋の中で景観、造形美などを含めてこの西大橋は、ベスト・スポットである。ただ時間を忘れていつまでも撮影ができる、そんな場所だ。恐らくこの橋を海上から真横に見るとまた違った一面を拝むことができるだろう。願わくば、一度でいいから船上からの風景も眺めてみたい。
いろいろな橋を撮影していくなかで、ここを越えるような橋に出会うことができるだろうか。通るたびに、そのような期待と予感をもたせつ名港トリトン。この橋に携わっていたすべての方々に感謝をしつつ敬意を表したい。
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依田正広(よだ まさひろ) 文/写真
橋梁写真家。全国2,500箇所以上の立体交差(JCT)、橋を撮影。テレビ番組「車あるんですけど…?」に出演。他にも土木学会誌FB上、国土交通省発刊の「道路」など様々なメディアに精力的に写真を提供している。