お客さんが求める以上のモノをつくる
これまでで印象に残っている現場は、子会社出向中に手掛けた北海道のとある自動車メーカーの高速周回路。一周10kmのオーバルコースで、片側バンクの延長は2.4kmあった。「日の出とともに現場に出て、日が暮れるまで作業をしていた」と言う。足掛け3年と、舗装にしては長期の現場だった。
自分で作業をするだけでなく、若手への指導教育もするようになったのも、この現場からだった。「この現場をきっかけに、自分の言動や周りの環境などを考えながら、仕事に取り組むようになった。この現場で教育した若い社員が、今では立派な指導者として活躍している。それを思うと、感慨深い」と目を細める。
テストコースでは、車両は時速200kmほどで走行する。ちょっとした路面の凹凸が大事故につながるため、舗装の平坦性の確保は細心の注意を持って行う必要がある。例えば、急傾斜で材料がズリ落ちないようにするため、4層を薄く重ねながら、確実に凹凸をなくす作業が必要になる。
競輪場や自転車競技場などの走路は、大きくてもせいぜい一周500mほどで、高速周回路と比べれば小さいが、小さい分、緩和曲線も短く、勾配変化も急で、高速周回路とは違った難しさがある。

競輪場での舗装施工の様子(写真提供:NIPPO)
自転車の速度は60km/h程度だが、コンマ何秒を争うレース場なので、やはり高い平坦性はマスト。自転車走路の転圧は、高速周回路とは逆に、バンク下方から機械を支えながら行う。同じバンク舗装でも、高速周回路と自転車走路では、施工手順や使用機械などが異なる。
自転車走路では、表層施工前に選手に試走を依頼。走り具合をチェックしてもらい、指摘があれば必要な調整をかけた。「若いころは、競輪選手と一緒に自転車で走行し、評価を聞いたこともあった。速度は時速35kmほどだったが、自分は5周回るのが限界。競輪選手の脚力はスゴいなと感心した」と話す。
サーキットにも、サーキット特有の難しさがある。路面の縦横断があるほか、舗装幅も広い。路面に起伏を出すため、路面のひねりがある。縁石など構造物へのすり付けには熟練した技量が必要になる。
「現場の人間は、求められるスペックのモノをつくろうとしているわけではない。目指しているのは、自分たちが納得する良いモノをつくること。お客さんが求める以上のモノをつくるという気持ちが大切だ」と力を込める。
どの工種でも優れた職人がいる中でICTと技術の継承のバランスをどのように取っていくのかが喫緊の課題のように思います。