熊谷組との連携でハイブリッド化はさらに深化
――同計画には業務提携を結んだ熊谷組も協力しているが、研究の成果も上がったのでは。
中嶋 熊谷組は、土木技術やRC造建築に関して深い知見もお持ちです。両社の研究開発の分科会では、さまざまな意見交換を重ねていますが、そこで定められたマイルストーンを次の20~30m級の建築物「W30」にも適用する考えです。
例えば、先ほども申し上げた通り、異種材料の組み合わせによってハイブリッド木造建築を実現していくわけですが、挙動関係ではコンクリートや鉄骨だけが強くても意味がありません。ハイブリッド木造建築では、組み合わせた際にお互いの部材の強みを活かしあうことが重要で、その点で熊谷組との連携は大きな意味を持っています。
熊谷組は、RC造や鉄骨造の高層建築を得意としていて、その中で多様な免震技術も保有していますので、当社の木造技術の知見と合わせて、今後も木とRC造や鉄骨造を融合させる最適解を検討していきます。
――施工は誰が行う?
中嶋 元々、住宅以外の中大規模建築での木造化・木質化を進める「木化推進部」を設置していましたが、今期から更なる市場性を広げるために発展し、「建築市場開発部」という部署が新設となりました。
また、「木材建材事業」は、「住宅建築事業」とともに当社事業の双璧をなしており、木材生産から協力先のプレカット工場を通じて、現場に供給する流れを持っているので、これを非住宅建築分野でも活用すれば、品質の確かな製品を日本全国各地に供給できるようになり、木造のハイブリット建築にも貢献することになります。
ただし、当社としては木のノウハウや部材等を提供しながら、1社独占ではなく、良い意味で色々なゼネコンと施工も含め協業しています。
――公共工事での導入は。
中嶋 当社と他のゼネコンやハウスメーカーとの決定的な違いは、木を一から創出をして、それを育てて、将来的な材料としてきっちり提供していく技術を保有していることです。
ですから、35~50年先を見定めるという長期スパンにはなりますが、強い木をより強くし、その材料を中大規模建築に活かすために、「W350」を見据えながら進めているわけです。
林野庁と意見交換をしながら、公共工事での木造化の普及発展ももちろん目指しています。林野庁は<ウッドチェンジネットワーク>と称して、各地方自治体に木材の公共建築への使用を推奨しており、我々はその考えに対する協力もしていきます。
木が切り拓く未来
――ハイブリッド木造建築の現状と、今後の展望についてはどう見ている?
中嶋 ”ハイブリッド”と言っても、捉え方は各社によって異なります。木の素晴らしさは各社とも理解していますし、国も法的な規制緩和を進めています。ただし、木材利用はコストが掛かることも現実としてあるわけです。現在は、木の良さを社会にアピールしつつも、より経済合理性を高めている段階であると言えます。
具体的には、木を構造躯体としてどう活かすのか、また人が触れる内観的な部分を木でどう表現していくのか。次に、耐火部材として構成していく中で、法規制の分野でどうクリアしていくのか。さらにはコストを抑制すべく、木と鋼材の配分関係をどうするか。これらの点を検討していくことが必要になります。
――木が切り開く未来について、どうお考えですか。
中嶋 研究開発を束ねていく立場として個人的に申し上げますが、できる限り石油由来の資源から再生可能な木材資源にチェンジをしていきたいと考えています。そのワンオブゼムが<建築物>です。
木を多く使用し、さらには再利用することで循環型の社会を回しつつ、地球環境に配慮し、その世界が幅広く生活や社会の中に浸透すれば、人の感性やフィジカル面はもっと良くなるでしょう。すでに木や緑の中に取り囲まれて仕事をすると幸福度が高まるというエビデンスもあります。
当社はさらに一歩進み、木を使った建物の中で働くことで生産性が向上するということを実証する研究しています。木を通して、精神的にも豊かになれる社会を目指していきたいと思います。
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