理想を言えば、ダムなんかないほうが良い
――日本ではダム不要論が未だ根強いです。
阿部さん 当然ダムは万能ではなく、治水ツールの一つに過ぎません。ダムなどの治水対策を講じることによって、自然環境になんらかの影響が出るのは事実です。治水対策は必ずデメリットも伴うんです。ただ、一方で、生命や生活を守るというメリットも必ずあります。メリット、デメリットの大きさは、河川によって違ってくるわけですが、大事なのは、その河川トータルとして、ダムなどの治水対策が必要なのか不要なのかを判断することが基本だと考えます。
私自身、今はダムの工事事務所の所長という立場ですが、理想を言えば、川にダムなんかないほうが良いと思っています。川が一番低い場所を流れていれば、堤防や護岸すら不要だと思っています。しかし、すでに享受している文化的な生活をすべて犠牲にしてまで、理想を求めるわけにはいきません。文化的な生活を守るためには、どこまで自然を犠牲にすることができるかについて、メリット、デメリットを勘案した上で、トータルで判断すること。これがわれわれが日々一生懸命取り組んでいる仕事なんです。
例えば、家を新築した人がいたとして、実はその土地が5年に1回は浸水する場所だった場合に、河川管理者として、その状態のまま放置して良いのかということなんです。われわれとしては当然、なんらかの治水対策を打たなければならないと考えます。対策を打たなければ、大げさかもしれませんが、家を建てた人の人生を変えてしまうおそれがあると思うからです。
2023年3月完成に向け、工事は順調
――立野ダム工事の進捗はどうですか?
阿部さん 2018年8月に立野ダムの着工式を執り行い、基礎掘削を始めました。約70万㎥の岩盤の砂掘削が終わり、今年10月から本体基礎地盤部分のコンクリート打設工事に入っているところです。熊本地震の影響で少し工事スタートが遅れ、今年に入って新型コロナウイルスに伴う影響も心配されましたが、2023年3月の完成に向け、今のところ順調に来ています。立野ダムは国直轄ダムとしては小型のダムです。谷が狭くダムサイトが小さいので、そもそも大きなダムはつくれません。
――本体基礎の部分の工事は、ダム工事でかなり重要な部分でしょう?
阿部さん 一番大事ですね。最初は荒掘削で一気に掘ります。ダイナマイトや重機などを使って掘り進めるのですが、その後、最後の仕上げとして人がハンマーなどを使って整えます。そして、水で洗って、掃除機でゴミなどを吸い取ります。最終的には、スポンジなどを使って、人がなめても大丈夫なほどピカピカに仕上げます。そこまでしないと、基礎と本体がピタッとくっつきません。ダムは規模が大きな土木構造物であることが注目されますが、最後の仕上げは人の手が必要なほど、実は非常に繊細な構造物なんです。高さ100mの水圧は、砂粒程度の隙間であっても滲み込んでいくので、ダムには高い水密性、高い強度が求められるわけです。
――施工管理上、貯留型ダムと異なる点はあるのですか?
阿部さん 流水型ダムの基本的な構造は、貯留型ダムと同じです。穴の部分にゲートと呼ばれる扉がつくかつかないかの違いだけです。なので、工事の進め方も貯留型ダムとほとんど同じです。コンクリート打設そのものは、重力式ダムとしては従来から数多く採用されてきた柱状打設を採用しています。ブロックを一つひとつ積み上げていって最終的に壁に仕上げるイメージです。
――i-Con関係で取り組んでいることはありますか?
阿部さん 設計段階からCIMを使って3次元設計を行っています。最初は景観のために導入したのですが、コンクリート本体やゲートなどの機械設備など異なる工種にもCIMを活用しています。仮設計画を作成し、短い工期の中で待ち時間の少ない施工計画を立てることにも活用しています。
いわゆるi-Conではないですが、働き方改革の一環として、録画による遠隔立会を試行的に実施しています。たとえばある市販の製品などが納入された際に、製品を撮影した動画を業者さんに事前に情報共有システムにアップしてもらい、それをあとでウチの職員が動画を見て基準に適合したものが使用されているか遠隔で確認するというものです。現場までの移動時間が不要になるし、お互いの時間調整も不要になるので、作業の効率化に役立っています。動画撮影はスマホでできるので、業者さんにも評判が良いです。結果的にですが、コロナ対策にもなっているので、なかなかうまくいっていると思っています。
流水型ダムは地域振興の重要なツール
――観光資源としての立野ダムの活用にも取り組んでいますね。
阿部さん ええ。私は一昨年、立野ダム工事事務所の所長に着任したのですが、そのとき、職員に対して「流水型ダムの新たな価値を見出そう」と言いました。景観に溶け込むダムとか、環境に優しいダムをつくるということもありますし、ダムは地域振興のための重要なツールという視点もあります。
「TATENO☆D」というコンセプトも私がつくったのですが、この「D」はダムではなく、デザインなんです。われわれは、立野と名の付くものすべてをデザインしているんだという意味を込めています。それはダムであり、地域であり、働き方であったりします。
今は工事中なので、インフラツアーがメインですが、完成後は、ダムそのものを使ってなにができるかについて、南阿蘇村や大津町と一緒にいろいろ考えているところです。例えば、ダム施設であるトンネルの中でワインを貯蔵するといったことなどを考えています。
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かっこいい
人が河川流域から離れれば、堤防は不要だし人工的なものも不要だろう。
住宅自体は人が安全に暮らすため自然から切り離した空間造ってるのに、川は自然じゃないと駄目っておかしな話だよね。