宮大工の元請け・下請け関係
――独立後はいかがでしたか。
相良さん 最初は、京都で山門や古民家の仕事を手掛けたり、古材を使った展示場を建てていました。プレッシャーと戦いながら建てた建物は今でも鮮明に覚えていますね。

建設した露天風呂
その後は海外での仕事も受注したり、神社や日本舞踊の道場などの仕事を請け負ってきました。つい最近では、下請けではありましたが、千葉県市川市の「葛飾八幡宮」の弓道場の棟梁を担当しました。
――宮大工の世界にも、元請と下請が存在する?
相良さん 地域の有力工務店が、神社の世話役をやるケースが多いですね。ただ、その工務店は自社では施工できないので、木材商を通じて、宮大工を紹介してもらうケースもあったりします。
ちなみに、宮大工の世界にも”大手”があります。神社・仏閣への人脈に強く、元請で施工するようなところです。私の会社は中小企業なので、そこまでの営業力はありませんが、これからは自分で仕事を受注していく方向にシフトしていきたいですね。

下総の国総鎮守「葛飾八幡宮」を施工
――中小宮大工はどうやって仕事を受注するのでしょうか?
相良さん まず材木屋と仲良くし、入札情報を得たりします。自分の足で神社仏閣を回って受注するケースは少なく、紹介とネットでのつながりです。ただし、地元の材木屋だけではなく、全国の材木屋とのネットワークを築く必要があります。
一方、最近は神社仏閣も入札をオープンにしますが、価格競争になると私たちのような中小企業では受注が困難なケースもあります。また、先方も一定の資本金がない会社には頼めない事情もあります。
宮大工の課題は「仕事がない!」
――宮大工業界の課題は?
相良さん 仕事がないことですね。需要と供給のバランスが悪いですし、その需要も一極集中しているんです。
――その意味では、京都には仕事がありそうですが。
相良さん 京都は宮大工業界の激戦区で、新規参入することが極めて難しい地域です。元々、老舗の宮大工や工務店が多く、神社仏閣のお抱えになっていますから。なので、仕事を取るためには宮大工もネットを通して、自分の仕事をアピールしていくことが重要な時代になっていますね。
――仕事がないと、担い手確保・育成も難しいのでは?
相良さん ええ。このままでは、宮大工の技術を継承していくことは難しいと思います。なので、伝統建築の大工塾を創設しようと考えているところです。
他の工務店では教えてくれないような伝統工法を教える、学習塾のようなものです。仕事が終わってから通うなり、日曜日に学ぶなどの仕組みをつくり、宮大工や数寄屋大工の仕事を教えることができればと考えています。

茶室や数寄屋大工の心得もある相良氏
今はその前段階として宮大工の体験講座を定期的に開いており、大工を引退した父とともに、ちびっ子たちに箸づくりや椅子の作り方を教えたりしています。
昨年、某所が調査した、小6男子の「将来就きたい職業」ランキングでは、「大工・職人」が3位にランクインしました。ですが、宮大工になりたいかと言えば、具体的なイメージが湧かないでしょうし、徒弟制度のリアルな生活を聞いたら、今の子たちは困惑すると思います。

大工体験講座のようす
なので、徒弟制度独特の”しごき”はなくしたほうがいいのではと考えた結果の”大工塾”でもあります。先ほど話した通り、宮大工は修行期間が長いので、親方と合わずにノイローゼになる弟子も多かったですから。未来の宮大工の確保のためには、技術の継承だけでなく、こうしたところも少しずつ、改善していければと考えています。
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