「メンテ工事」の嫌なところ
プラントや工場には、生産を止めて補修を行う定期修理工事(定修工事)やメンテ工事があります。プラントや工場の安定した生産活動を支える、大切な工事です。
でも、工事をしている側としては、いろいろ大変なことが起こっています。この記事では、メンテ工事での嫌なところを紹介します。
なんといっても、工程が厳しい
メンテ工事は、生産活動を停止して行う工事です。工場の規模によっては、1日生産を止めたら数億円の損失となります。そのため、客先としては1日でもメンテ工事の期間を短縮したい。一方、工事を行う側としては、余裕をもった工期をとりたい。
しかし、自分たちの都合ばかり通そうとしては、仕事が受注できなくなるので、協力しつつ、事前準備として錆びついたボルトを何本か間引いておいたり、断熱を前もって解体しておいたり、必要なところに足場を組んだりします。
休日出勤や残業が多くなる
それでも工程がきついので、工場停止期間に入ったら、休日出勤や残業をすることもあります。さらに、工事に入って装置や配管をあけてみると、当初の予定よりも補修範囲が広くなったり、取り替えるしかないという状況だったりして、追加工事が発生したりします。
当板補修をしていて、その周りも減肉していて溶接できず、さらに当板補修範囲が広がっていった時には泣きそうになりましたね。夢の中にまで当板が出てくるし…(笑)。
それでも工場の再立ち上げを遅らせるわけにはいかないので、深夜まで内作をしてもらったり、工程を組み直したりで、結果的に残業が多くなります。
変な人が来た、でもありがとう
短い工期で追加工事も発生するとなると、人を増やさなければなりません。しかし、プラントの定修時期となると、どこも忙しく人手が足りません。
プラントは工場一つが動いているわけではなく、原料を作る工場が生産を停止すれば、原料から別の化学物質を作ったり、製品を作ったりする工場も生産を停止するため、タイミングを合わせてメンテ工事を開始するからです。
人手が足りない中で人を集めるとしたら、腕前は問えません。腕のいい人は引っ張りだこで、すでに他の工事に入っているからです。時には、何も任せられなさそうな人が来たりします…。
初めて来る現場であれば仕方ないところもありますが、教育の手間が余分にかかってしまいます。事故や怪我をされても困りますからね。とはいえ、どんな人でも来てくれることは非常にありがたいのです。
人が増え、通勤時に渋滞ができる
定修工事の時期になると、人が増え、そのぶん車の交通量も多くなります。普段30分で通勤できていた工場に1時間かかってしまう…というのは、よくあることです。
そして、それだけ交通量が増えれば、交通事故も起こりやすくなります。特に残業で疲れて運転したりしていたら……。私も危うく、正面衝突事故を起こしそうになったことがあります。渋滞、嫌です。
宿泊先がなくなり、場合によっては相部屋
人が増えれば車の交通量も増えますし、宿の空きも少なくなります。遠くから来てくれる人も増えるからです。短期の賃貸や、ホテル、旅館などはきっと稼ぎ時でしょうね。しかし、宿の空きがあまりに少ないと困ることになります。
現場から遠い宿しか空いていなかったら、ただでさえ渋滞で長くなっている通勤時間がさらに延びます。場合によっては、1つの部屋に作業員さんたちが2〜3人で泊まることになったりして、とても大変そうでした。気の知れた仲間ならまだいいかもしれませんが、プライベートがないのは嫌です…。
リース品がよくなくなる。作業員からクレームの嵐
泊まるところがなくなるのも嫌ですが、リース品がなくなるのも嫌です。工事に必要な機材、エンジン溶接機や発電機、照明器具や電動工具など、地元の会社なら自社のものを持ち込んだりもできますが、そういう会社ばかりではありません。
遠方から来てくれる作業員さんが仕事をするために、必要な機工具をリースしますが、現場においていた溶接機がいつの間にかなくなっている…なんてことがよくあります。
一つの場所で溶接をしている間に、次の場所の段取りをしておきたかったり、増員した分、班を増やしたりして、当初よりも必要な機工具が多くなることもあるため、数が足りなくなるのです。
リースするにしてもすぐには届かないし、待っていたら工期に間に合わないかもしれないし…。「あ、あそこに使ってない溶接機があるぞ、持っていけー!」という感じなのでしょう。使う予定だった道具が持っていかれていたら、作業員からも、もうクレームの嵐ですよ。嫌ですねー。
くさい、うるさい、こわい、あぶない、やだやだ
メンテ工事に入る前には、客先の生産担当者が責任を持って、圧抜き、液抜き、洗浄をして工事会社に引き渡してくれます。合成に使われる危険な物質や、溶媒が残っていたら危ないですからね。ただし、それらの液が100%除去されている、とは限りません。途中で配管が詰まっていたり、液抜きできないポケットがあったりするからです。
配管や機器のフランジを開放したら、なんだかいい香りの液体がポタポタしてきたり、ドレンバルブを開けて何も出てこないのを確認したけど、作業をしていたら振動で中の詰まりがとれて、残圧でドレンノズルから臭いヘドロが吹き出したり。しかも、それが顔にかかったりして…。やだやだ。
冒頭で、生産を停止してからメンテ工事に入ると書きましたが、全エリアが一斉に停止するということは滅多にありません。部分的に停止しつつ、停止したエリアから工事に入り、他のエリアではギリギリまで機械が動いて生産を続けている、という状況が多いです。
モーターなどが隣のエリアでガンガン回っていれば、うるさいんですよね。会話がうまく聞き取れず、言われた材料と違うものを持っていって、作業員さんに怒鳴られたこともあります。やだやだ。
化学工場では、普段危険な物質を扱っているところがあります。酸とかアルカリとか、毒劇物とかです。基本的にはそういったものは除去されていますが、もし残っていたらと思うと怖いです。残っているものにちょっと触ってしまって、火傷したり、薬傷したりする可能性があります。やだやだ。
嫌なことも多いが、頼りにされると嬉しい
短い工期で、人も大勢入って工事をするので、災害や事故の危険性も高くなります。作業エリアも錯綜しがちですし。大きな災害や事故が起こったら、工事を止めざるを得ません。ただでさえ短い工期なのに。
やはり、安全第一ですからね。とはいっても、もし災害が起きて工事を止めたら、その期間の遅れをどうやって取り戻すんだろう…と不安になってしまいます。やだやだ。
以上、メンテ工事の嫌なところを紹介してきました。もしかするとこの記事を読んで、メンテ工事はやりたくないと思われるかもしれません。
でも、何年おきの大定修だとかの時期になって、「体あいてない?」「また来てくれる?」と呼ばれるのは、頼りにされているようで嬉しいものです。
大きな障害を乗り越えた、という達成感もありますしね。経験も実力もつけて、いろんなところで頼りにされるようになっていきたいですね。ご安全に!