フォークリフトでのヒヤリハット
私は今、北関東のプラント建設工事に安全担当として関わっている。本職は建築の設計や現場管理だが、立場が違えば見るポイントも違ってくるなと実感することが多く、色々と勉強させてもらっている。
その中でも、現場管理の仕事の時は、正直それほど気にしていなかったことの1つに、フォークリフトの運転や動作がある。
現場管理では、「狭い通路なので安全運転をするように」「人や資材との接触がないように」などで終わってしまうことが多かったが、安全専任となれば、それだけで終わる訳にはいかない。
私の所属している電気計装関係でのフォークリフトの使用頻度は、それほど多くはない。ユニック搬入車両から、資材置き場にラックの原材料やケーブルリールが降ろされ、それらを必要に応じて加工場や作業場の近くまで運搬し、間配りする程度だ。
だが、現場の建屋の周囲の、鉄板敷きになっている建物間通路には、他社の鉄骨資材や配管資材を運ぶフォークリフトが、コマネズミのように行き来している。
そんなある日、フォークリフトで運んでいた長さ5m程の後付け鉄骨梁が、重心を狂わせて床の鉄板の上に落下し、現場が一時騒然となった。
落下したと言っても、せいぜい300位の高さに持ち上げてあった資材が、フォークリフトの爪の上で横滑りし、一端が爪から外れ、ゴロッと床の鉄板に転がり落ちたのだ。
事故というほどのモノではないが、これはヒヤリハットとして取り上げられることになった。ヒヤリハットは、重大事故の誘因なのは事実で、それ故に、発生した段階から徹底的にその原因を洗い出し、その対策や防止策を考えなければいけないのだが、これには私も同意見だ。
危ない!マズイ!と感じたら、必ず手を打つ
今回のフォークリフトの件に限らず、危ない!マズイ!と感じたら、そのままにしないで必ず手を打つことが重要だ。解決策はこれに尽きる。改めて言うまでもないが、現場に限らず、日常生活においても言えることであって、実際、皆そうしているハズだろう。
今回の件については、運搬する資材の重心さえ見極めていれば、こんなことにはならなかったと思う。
一般的に、運搬する資材の重心は、一目見れば大よそ分かる。あるいは、資材に印を付け、中心が一目で分かるようにしている。
今回の場合、鉄骨梁の片側に取り付け用のプレートが付いていて、左右の重さが均等ではなかった。重心の見極めが甘かったのだろう。
作業員は、その都度、爪の位置を微調整しながら、バランスを確認して、楊重し運搬している。それくらいのことは、皆、当然の如く実践している。今回も同様に、そんな小さな注意さえ気を付けていれば、こんなことは起こらなかったハズだ。
テキストには載っていない注意点
インターネットを見ても、フォークリフトの教則本を見ても、全て同じようなことが書かれている。その内容は、至極当然で大切であることには違いない。だからこそ、ここでは、教科書には載っていない、現場目線で注意すべきことを述べたいと思う。
私自身は、フォークリフトの免許は持っていないが、運転する人からこれまでたくさん話を聞いてきた。皆が口を揃えて言うのは、基本は車の運転と同じで、しっかり前を見てゆっくり走れば、何も問題はないという。
唯一、一般車両と違うのは、前の爪で荷物を持ち上げ運搬することだが、それも車両感覚と同じで、とにかく危ない!とか、ぶつかるかも!と思ったら車両から降りて、自身の目で確認することが大切で、それさえ実行すれば心配はないそうだ。
ただ、長年フォークリフトの運転をして来た人が、共通して口にする注意点が2つあった。
1つ目は、フォークリフトに乗降する際、必ず左側から乗り降りする癖を付けたほうが良いということ。それは、ハンドルに向かって右側に長いレバーがあり、それが時として、服に引っ掛かることがあり危険だからだ。
私の現場では、左側からしか乗降出来ないよう、使用するフォークリフトの右側には、鎖やロープなどで乗降口を塞ぎ、乗り降り禁止の表示を貼っている。
そして2つ目は、荷物を持ち上げる際に前面から顔を出したり、横から顔や腕を入れると垂直アームに挟まれることがあるため、これを防ぐために、前面には金網を張ったり、横には鎖を付けるなどして、顔や手を入れられないようにしたほうが良いということだ。
この2つの注意点は、メーカー主導で作られた操作資料やフォークリフトの運転説明書などには書かれていない。また、今回はフォークリフトを一例に挙げたが、機材や工具に関しても、本当に注意しなければならないことは、説明書や解説資料には書かれていないことが多い。
本当に大切なことは、説明書などではなく、やはり現場で実際に使ってるその道のプロが一番よく知っている。今の時代、実際に自分の目や耳で確認するよりも、インターネットに書かれてる情報を信用している人が多いように感じる。それが本当に正しい情報かどうか、十分に注意して欲しい。