地方の新幹線の早期整備を急げ
――年次計画2021冒頭に「国土強靭化は加速化・深化する段階に入った」との文言がありますが、加速化・深化に資する取り組みとして、先生のほうでとくに期待している取り組みはありますか?
藤井 言うまでもなく、「分散型の国土の形成」です。
そのために最も効果的なのは、全国の高速道路のミッシングリンクの整備に加えて、全国の新幹線整備計画の抜本的加速、具体的には、北陸新幹線の早期大阪接続、北海道新幹線の早期札幌接続、西九州新幹線(長崎新幹線)の早期全線整備、大阪と関空をつなぐ関空新幹線を四国新幹線の一部としての早期整備、岡山から高松、そして、愛媛に繋がる四国新幹線の早期整備、山形新幹線のフル規格の早期整備、白眉新幹線の早期整備などがいずれも必要不可欠です。
また、地方鉄道の在来線の維持も重要です。北海道がその典型ですが、国費の投入が鉄道網の維持活性化にとって不可欠です。
今のままでは、中央リニア新幹線だけが早期に整備され、その結果、三大都市圏への一極集中がさらに加速するだけに終わることが火を見るより明らかであり、以上に述べた全国の新幹線整備が必要不可欠です。そしてそれを実現するためには、国費における鉄道整備予算1000億円という枠を抜本的に拡大し、年間数千億、1兆円規模にすることが必要だと考えます。費用便益分析やストック効果、分散化効果を考えれば、極めて合理的な判断となると考えます。
首都圏での洪水、地震に備えよ
――先生が座長を務める事前防災・複合災害WGの提言を見ると、スーパー台風による高潮対策、首都直下型地震への備えとして、とくに首都圏での事前防災について重点的に記述されていると感じたのですが、やはり首都圏にはそれだけ大きな災害リスクが潜在しているということなのでしょうか?
藤井 おっしゃる通りです。首都圏には日本経済の3割が集中しており、そこでの大洪水、大地震は極めて深刻な被害をもたらします。
例えば、土木学会は、政府想定の荒川決壊でフロー被害、ストック被害あわせて、62兆円に上るとの試算を公表しています。利根川決壊は、それと同程度の被害が生ずることが予期されます。同じく、東京湾の巨大高潮の試算値は110兆円です。
そして重要なことに、超大型の台風が首都圏を直撃すれば、荒川が決壊し、利根川が決壊し、そして、巨大高潮被害が東京湾沿岸域に襲いかかるという事態が、全て「同時」に起こりうるという点です。そうなれば、わずか一日、台風一つ首都圏に上陸するだけで、200兆円を超える凄まじい被害が生ずることが、科学技術的に危惧されているのです。
事実、2年前の台風19号の折りには、荒川も利根川も危険水域を超過していたし、東京湾高潮の発生リスクも直前まで危惧されていました。したがってあの時、あの台風の侵入経路と上陸時刻、そしてその速度、さらにはもちろん、その規模がもう少しずつだけでも変わっていれば、利根川・荒川決壊と東京湾巨大高潮がトリプルで同時発生し、200兆円超の、東日本大震災を遙かに上回る被害が生じていたことも十二分にあり得たのです。
こうした危機感を持てば、防潮堤対策、堤防対策、そして何より、抜本的な強靱化対策であるスーパー堤防対策を進めていくことが重要です。それと同時に、先に指摘した分散型形成とデフレ脱却を目指していくことが必要不可欠です。
基本は公助だが、できうる限りの自助共助を
――座長として、国民に向けたメッセージがあれば。
藤井 国土強靱化の取り組みは、菅総理もおっしゃる「自助、共助、公助」が全ての基本です。その中でも最も効果的な取り組みは、言うまでもなく公助であり、政府としてできうる最善をつくして公助のレベル向上を加速し続けていくことが必須です。
でも、完璧な公助はどこまでいっても不可能である以上、国民の皆さんの自助、共助がどうしても必要となります。とりわけ、政府が政府としての責任を十分に果たさない状況下では、否が応でも自助、共助で、自分自身で、そして、自分達で、自分自身をそして自分達の身を守っていかねばなりません。きたるべく国難級の大災害を乗り越えるためにも、ご自身で、そしてご自身達でできうる自助と共助の取り組みを、何卒よろしくお願いいたします。
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