道路縦方向のみ地中化する「ファスト地中化」
――無電柱化推進の手法とはどのようなものですか?
古市さん PTでは、無電柱化の「FUKUOKAモデル」として、7つの柱を提唱しています。その中でも、特に効果が高いと考えている取り組みが、「ファスト地中化」、「工事ヤードの常設化」です。
現状の地中化は、道路縦方向、民地引き込み線も含め、すべてを地中化するのがスタンダードになっています。これが無電柱化に時間とコストがかかる大きな要因の一つになっています。
われわれが考えるファスト地中化は、道路縦方向の高圧線などを地中化し、各戸への民地引き込み線はとりあえずそのまま上空に残すという手法です。民地引き込み線の地中化は、各戸ごとに交渉調整を行う必要があり、時間もコストもかかります。上空に残った引込線は、地中化する代わりに、照明柱などを活用し、固定します。これによって、地中化に伴う時間とコストをカットし、コストと効果を最適化することができます。景観的にもかなりスッキリします。

ファスト地中化の整備前

ファスト地中化の整備後
なぜ道路の縦方向だけを地中化するのかと言うと、過去の自然災害を見ると、電柱、電線の被害は、大半が縦方向に設置された電線に倒木や飛来物が引っかかり、電柱をなぎ倒してしまうことが原因のほとんどです。この縦方向の電線を無くすことで、大規模停電や電柱倒壊の被害がほぼ解消すると考えています。民地引き込み線と固定する柱は残るわけですが、仮に倒木や飛来物があった場合、引き込み柱は倒れないと考えています。電線が外れ、断線するリスクはありますが、断線した引き込み線の復旧は、外れた電線をもとに戻すだけなので、復旧時間はかなり早いと考えています。
民地引き込み線はとりあえず上空に残しますが、われわれとしては、最終的には地中化する点では現行の手法と変わりはありません。ファスト地中化はあくまで暫定整備と言うか、縦方向の地中化を先行させる段階的手法として位置づけています。道路整備や民地の建て替えのタイミングで地中化することなどを想定しています。
ただ、課題もあります。現行の無電柱化法では、「道路の新設、改築及び修繕時に、電柱又は電線を道路上において新たに設置しないものとする、既存の電柱又は電線を撤去するものとする」と定めています。FUKUOKAモデルを実現するには、この部分の法解釈を整理する必要があります。この点、われわれとしても、国としっかり協議する必要があります。
――コストは予算との見合いだと思われますが。
古市さん 必要な予算はそれなりに確保してきたものと認識していますが、コストがネックだと考えています。PTとしては、無電柱化には、1km当たり約5億円のコストがかかるので、これを抜本的に見直すべきだと考えているところです。やはりコストカットは避けて通れないところです。縦方向の地中化自体のコストを下げていくことも必要になってきます。
通行止めをかけ、短期集中工事する「工事ヤードの常設化」
――「工事ヤードの常設化」とはどのようなものですか?
古市さん 無電柱化工事では、管路や電線、ボックスなどを埋設するため、広い工事ヤードが必要になります。福岡市でも実際、一定の交通規制をかけ、一車線まるまる工事ヤードとして確保して工事を行っているわけですが、交通に与える影響が大きいので、交通量が多い時間帯はヤードを撤去し、再びヤードを設置するという作業を毎日繰り返しているのが現状です。
工事ヤードの常設化は、工事中は通行止めをかけ、工事の効率化を図る手法です。ヤードの撤去、設置にかかる時間をなくすことにより、1日当たりの作業効率は倍程度に向上すると試算しています。
常設化の導入にあたっては、交通になるべく影響を与えず、車や歩行者が安全かつスムーズに通行できるよう、交通誘導員の配置を強化したり、従来は作業ヤードをカラーコーンなどで囲いますが、常設化する際にはバリケードのようなしっかりしたもので囲うなどの安全対策を強化します。

工事ヤードの常設化のイメージ(片側1車線の場合)。工事着工前のイメージ(左)、工事中のイメージ(右)
片側1車線の場合は、交通量の多い道路での導入は難しいですが、交通状況を見ながら、導入を検討していくことにしています。1車線の場合は、完全通行止めになるので、交通にまったく影響が出ないことを確認したうえで、導入を検討していくことにしています。
課題としては、住民生活、交通への影響が大きいことが挙げられます。この点、交通管理者である福岡県警と連携しながら、導入路線の選定、交通誘導員などの安全対策の強化、迂回ルートの事前情報提供など広報体制強化による理解向上を図っていくことにしています。
コスト最大3割カット、スピード1.5倍へ
――FUKUOKAモデルによって、どれだけの効果が期待できるのでしょうか?
古市さん コストは最大約3割カット、スピードは約1.5倍の効果が期待できます。これらによって、住民理解も向上すると考えています。
――今後のスケジュールはどうなりますか?
古市さん 国や県警との協議は2021年度からスタートしています。できれば、2021年度中に実証実験に入りたいと考えているところで、2023年度からの本格導入を目指しています。また、FUKUOKAモデルの残り5つの柱には、中長期計画の策定、3Dレーダー探査などによる地下埋設物の見える化、占用料の見直しなどによるインセンティブスキームなどがあり、引き続き検討を進めていきたいと考えているところです。
――通行止めは県警がかなりイヤがりそうですが。
古市さん 私もそう思います(笑)。これからしっかり協議していきたいと考えています。
――PTで議論した内容を市の組織としてどう共有していくか、難しいところがあると思いますが。
古市さん PTのメンバー同士はざっくばらんに前向きに話し合えるようになっていますが、それぞれが所属する組織同士となると、いろいろなカベが出てくることが予想されます。ただ、この点については、市長から「全面的にバックアップしていきたい」というお言葉をいただいています。道路下水道局長からも「自由にやって良い」と言っていただいています。これから先はわかりませんが、少なくとも、これまではスムーズに活動できていると感じています。
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