住宅が接している道路の幅が4mに満たない場合に、敷地を少し後ろに下げるための工事を実施することを「セットバック」といいます。
具体的にはどのようなルールが決まっているのか、またどのような注意点があるのかについて見ていきましょう。
セットバックとは?
セットバックとは、敷地を後ろにずらして住宅を建てることです。
建築基準法では、住宅が接する道路は4m以上の幅がなくてはいけないと定められています。そのため、4m未満の幅の道路に接する土地に住宅を建てる際には、敷地を後ろにずらして、道路の幅を4m以上に広げなくてはいけません。
「要セットバック」とされた物件は、道路から幾分下がった部分を住宅の敷地とするので、場合によっては、購入した土地を100%利用できないこともあるでしょう。
セットバックする距離は中心線から測る
敷地をずらす距離は、道路の中心線から測ります。例えば、家の前の道路が幅2.8mだとしましょう。4mに満たないため1.2m以上は後方にずらす必要が生じますが、向かいの家がある場合は、両方の家が後退した幅の合計が1.2mになるように調整します。
不公平にならないように中心線から敷地までの距離が2m以上になるようにするので、片方の家が後退する距離は60cm以上です。
向かいの家がすでにセットバックしている場合
敷地を後ろにずらす工事は、住宅を建て直す際に実施します。先に向かいの家が敷地を後方にする工事を実施している場合は、工事後の道路幅が4mになるように注意しなくてはいけません。
もちろん、敷地の後退をする際は、道路の中心線から距離を測ります。そのため、先に敷地を下げたほうが有利、後のほうが有利というようなことはありません。
向かいの家がない、あるいは川などの場合
向かいに家がない場合、あるいは川などで住宅などの建築が不可になっている場合も、住宅が面する道路幅が4m以上必要だということは変わりません。住宅の前の道路幅が2.8mであれば、1軒で1.2m以上は敷地を下げる必要があります。
この場合は、道路の中心線からの距離を測定する必要はなく、単純に道路の幅を測って、4m以上になるように調整します。
建て直しをしないときはセットバック不要
住宅の前の道路幅が4m未満の場合であっても、建て直さないときは敷地を後退させる必要はありません。そのため、住宅が古くなっても建て直さずにそのまま暮らすときや、リフォーム程度の改装しかしない場合には、敷地を後ろにずらさずに狭い道路に面したまま暮らすことができます。
しかし、住宅を建て直すときは敷地を後退させるので、以前よりは少し狭い敷地で暮らすことになるでしょう。
セットバックの3つの注意点
幅が4m未満の道路に接した土地に暮らしている場合、あるいは敷地を後退させる必要のある土地を購入した場合は、住宅建築の際にセットバックをしなくてはいけません。セットバックをする際には、以下の3点に注意してください。
- セットバック費用は土地所有者が負担する
- セットバック後に建ぺい率・容積率を測定
- 道路になった部分は税免除の申告が必要
1.セットバック費用は土地所有者が負担する
セットバックには費用がかかります。中心線からの道路幅を測定する費用や、道路として舗装する費用などもかかるでしょう。これらの費用はすべて、セットバックする土地の所有者が負担するので注意が必要です。
そのため、要セットバックの土地を購入すると、費用が幾分高額になることもあるでしょう。また、セットバックして敷地になる土地だけではなく、セットバックして道路になる土地もまとめて購入することが必要になります。
自治体が費用を負担することもある
セットバック後に道路になる土地の土地代や、セットバックの際の費用に関しては、自治体が負担する可能性もあるので、必ず購入前に問い合わせるようにしましょう。
特に自治体で実施している街づくり計画に含まれる地域であるときは、土地代や費用を負担してくれる可能性が高くなります。その他の地域に関しては、基本的には土地購入者・所有者が負担することになるでしょう。
2.セットバック後に建ぺい率・容積率を測定
宅地には、敷地に対してどの程度の割合の建物を建てられるかを示す「建ぺい率」と、敷地に対してどの程度の割合の延床面積を確保できるかを示す「容積率」が決まっています。
いずれの割合も道路を広げた後の敷地に対して計算するため、建て直しの場合は以前の住宅よりも建物の面積も延床面積も狭くなってしまうことがあるかもしれません。
3.道路になった部分は税免除の申告が必要
道路になった土地に関しては、固定資産税を支払う必要はありません。しかし、登記上、まだ宅地である場合は、固定資産税の対象となり、支払わないと脱税行為と判断されてしまいます。
セットバックをしたときは、速やかに市区町村に申告するようにしましょう。その際には土地の登記簿謄本や地積測量図などが必要になるので、窓口に問い合わせて正しい書類を準備してください。
セットバック物件の2つのメリット
セットバック物件を購入する場合、都市開発地域などではない限り、基本的には自費で測量や道路の整備をしなくてはいけません。また、費用がかかるだけでなく、敷地も狭くなるというデメリットがあります。
とはいえ、メリットがないわけでもありません。特に、次の2点はセットバック物件のメリットといえるでしょう。
- 価格が割安なことがある
- セットバック後は車の出し入れが楽になる
1.価格が割安なことがある
セットバック物件は、自費による工事や測量を伴うことがあるため、どちらかというと避けたいと考える方は少なくありません。そのため、価格が割安に設定されていることもあり、お得に購入できることがあります。
ただし、本当に割安かどうかは計算してみるまではわかりません。セットバック後の土地の面積で土地の単価を計算し、お得なときは前向きに購入を検討できるでしょう。
2.セットバック後は車の出し入れが楽になる
セットバックすることで住宅の前の道路幅が広がるので、自家用車を持っている場合には車の出し入れが楽になるでしょう。さらに緊急時には、救急車や消防車が入りやすくなるというメリットもあります。
その他にも、セットバック工事をすることで、売却しやすくなることがあるというメリットもあります。いつかは引っ越しを検討している場合も、セットバック工事がプラスに働くことがあるでしょう。
土地購入前にセットバック物件か確認しよう
土地を購入する前に、セットバック物件かどうかは必ず確認しておくようにしましょう。セットバック物件の場合は、敷地が少し狭くなるだけでなく、建てられる住宅の建坪や延床面積が変わるので注意が必要です。
住宅を建てる前に工事が必要となるので、セットバック物件以外を購入する時より少し費用がかさむかもしれません。自治体の補助を受けられることもあるので、セットバック物件を購入する際には、自治体が費用負担するのかについても問い合わせておきましょう。
また、セットバック後には、道路部分の固定資産税が免除されるための手続きも忘れずに行ってください。