死者20名以上を出した熱海の土砂災害
7月3日、静岡県熱海市伊豆山付近を襲った豪雨の影響で大規模な土砂災害が起きた。20名以上の死者を出し、2か月以上が経った現在も行方がわからない人も少なくない。
日本は近年、土砂災害を始めとする水害が頻繁している。とりわけ天候が不安定になりやすい夏場では、凄惨なニュースを見聞きすることは珍しくない。
今回の土砂災害を”不幸な事故”にするのではなく、今後の防災の知恵にするため、東京都立大学都市環境科学研究科教授の松山洋さんに伺った。
土砂災害が起きる条件とは
――今回の熱海市の土砂災害の原因は何ですか?
松山さん 明確に断定することは難しいですが、主に降雨量・地形・盛土の3つが考えられます。まずは降雨量。”年間降水量の10%が短期間に集中すると土砂災害が起きる”と言われています。熱海市の場合、7月1日~3日の3日間に552.8mm降り、熱海市の年間降雨量(約2,000mm)を考慮すると、土砂災害が起きたことはある意味必然です。
近年ですと、2020年7月初旬に熊本県人吉市を中心に81名もの死者・行方不明者を出した豪雨では、7月3日~4日の間に年間降水量(約2,300mm)の10%を超える、418.5mm~497mmもの降雨量を記録しました。
――熱海市は土砂災害が起こりやすい地形だったのですか?
松山さん 今回の土石流の起点となった山間上流部は、お椀型の谷となっている”集水地形”と呼ばれており、非常に雨が集まりやすく土砂災害が起きやすい場所です。私も直接熱海市を訪れたことがありますが、急な勾配をしている地形に住宅などが建っており、非常に不安定な印象を受けました。
実際、被害にあった熱海市伊豆山地区周辺は、ハザードマップ上の”土石流危険渓流”エリアとほとんど一致しており、土砂災害リスクが高い地域でした。
盛土は必要悪か?
――”盛土”に関する報道が相次いでいます。
松山さん 盛土は低い地盤や斜面地に山から削り取った土砂を盛り上げて平坦な地表を作ることですが、山に手をかけることは地盤を大きく歪ませる。現在の地形は長い時間をかけて徐々に変化し、今現在も隆起しています。
にもかかわらず、開発目的のために盛土を含めた土地開発を、ここ数十年間に地球規模で見ると”急ピッチ”で進められました。そのことが土砂災害のリスクを引き上げています。
――また、「盛土は崩れやすい」という指摘も聞かれます。
松山さん 大雨によって地面が大量の水を吸うと、本来の地形と盛土との間にズレが生じて土砂災害を引き起こします。2014年に神奈川県横浜市緑区を襲った台風18号では、盛土された崖崩れて1人亡くなっています。2017年の台風21号は大阪府岸和田市で盛土が崩れ、川を塞き止めて住宅や工場を浸水させました。盛土が崩落した結果、水害を招いた事例は枚挙にいとまがありません。
また、今回は盛土の中に産業廃棄物が見つかったこと、開発にあたった不動産会社が基準値(15m以内)を大きく上回る高さの盛土を形成していたことなど、”人災”とも解釈できるような報道もあります。盛土はそれ自体だけでなく、様々なトラブルを内包しているのです。
――今後は盛土を見直す必要があるのでしょうか。
松山さん その通りです。しかし、日本は山が多く、居住できる範囲が限られています。安全に生活する土地を確保するために、盛土を始めとした土地開発と上手く折り合いをつけていかなければいけません。
水害の圧倒的な破壊力
――水害に関するニュースを見聞きする機会が増えましたが、もとより日本では水害は増えていますか?
松山さん 増加傾向にあります。国土交通省の調査によると、2019年の水害被害額は約2兆1800億円で、1年間の津波以外の水害被害額が統計開始以来最大となりました。被災建物棟数(約9万9,000棟)も例年よりも高水準です。
また、水害による死者・行方不明者も徐々にではありますが、増加傾向にあります。戦後から1980年代半ばまで、水害による死者・行方不明は少なくありませんでしたが、公共投資の成果が発揮されて減少に向かっていました。しかし、2010年代に入ると徐々に増え始め、2018年の西日本豪雨は200人以上、2019年の東日本台風は100人近くもの死者を出しました。
――なぜ被害規模が拡大しているのですか?
松山さん 日本の降水量は年々右肩上がりで、1時間降水量50mm以上及び80mm以上の短時間強雨の年間発生回数はともに増加しています。加えて、日降水量1.0mm以上の日数は減少している中、日降水量100mm以上及び日降水量200mm以上の日数は、1901~2020年の120年間でともに増加しています。
要するに、雨がほとんど降らない日は増加しているものの、豪雨の頻度は確実に増加しているのです。先述した通り、降雨量と水害は因果関係があります。今後は今以上に水害被害が増えることを、念頭に入れなければいけません。
――雨が増えている背景を教えてください。
松山さん 日本は海に囲まれています。地球温暖化の影響によって日本近海の海面水温が上昇し、水蒸気量が増加して積乱雲が発生しやすくなりました。また、梅雨明け前には、梅雨前線が停滞するために線状降水帯が作られ、豪雨をもたらすケースも珍しくありません。
とは言え、日本に限らず水害は世界的に深刻化しています。中国河南省では今年7月、記録的な豪雨による洪水が起きて300名以上が死亡。約20万人が避難しました。インドネシアも今年4月、豪雨による土砂災害や浸水などで100名以上の死者を出しています。
ダム建設は一長一短
――深刻化する水害ですが、政府はどのような対策を講じるべきですか?
松山さん 水害対策に関する議論は、ハード面とソフト面に分けられます。まず、ハード面ですが、もとより日本は老朽化したインフラが多いため、公共投資に対する意識を高く持つ必要があります。
しかし、どれだけ公共投資を充実させても、水害を含む全災害は、時にそれを軽々と上回る破壊力を見せます。全ての災害から身を守れるインフラ整備は理想的ですが、公共投資頼みは現実的ではありません。
――水害対策としてダム建設の必要性もありそうですが…。
松山さん 確かにダムは水害対策に大きな役割を果たします。ただ、降雨量が増えたことによって隆起した山がガンガン削られ、土砂がダムに堆砂して、水ではなく土砂ばかりを溜めかねない。土砂が上流に溜まると、山から運ばれる土砂から形成される海岸線がスカスカになり、今度は海岸浸食のリスクが高まります。自然は繋がっているため、ダムを建設しても次にまた違った問題が生じるかもしれない。
また、上流に建設することで景観を損ねたり、その土地に住んでいる人に立ち退いでもらったりなど、ダム建設のハードルは非常に高い。ハード面はとにかく慎重に議論を進めなければいけません。
ソフト面も課題が山積み
――ソフト面ではどのようなことが挙げられますか?
松山さん 国民に向けて災害の危険性を啓蒙することです。東日本大震災でも「堤防があるから大丈夫だろう」と考えたため、逃げ遅れてしまった人は少なくありません。先述したように、その災害の規模が防災インフラを上回る可能性は往々にあります。
また、世界的に水害規模は高まっており、従来の経験則を改め、危機感をアップデートしなければいけません。そのため、ハザードマップの作成もそうですが、”災害が起きた際にどのように行動すべきか”に関する教育が大切です。
――個人でも可能なソフト面の対策はありますか?
松山さん 自治体が公表しているハザードマップに目を通したり、「土砂災害が起きやすいのか」「どこに川があるのか」など、自分が住んでいる土地について理解することが大切です。「異様な臭いがする」「湧水が止まる」といった土砂災害の前兆が知られており、まずはどこになにがあるのか、周辺環境に思いをはせるところから始めると良いです。
――とは言え、水害に危機感を持ちながら生活することは難しそうですね…。
松山さん それは災害の一番難しいところです。結局、時間が経てば風化してしまい、当事者でなければ被害の危険性を知ることはできません。ソフト面の課題も山積みなので、災害対策と一緒に考えていくしかないです。
建設業界が心がけること
――建設業界は”大水害時代”を迎える日本と、どのように向き合えば良いですか?
松山さん ”水害に負けない建設物を作る”という気概は大切ですが、やはり今後は水害の危険性が上がることは避けられません。”最悪の事態”の水準を上げ、水害が起きた際の避難経路や避難所の設置場所など、非常事態が起きたシミュレーションを徹底する必要があります。
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この現場って、ほんとに「盛土」だったのか?捨土を均しただけのものを盛土なんて言ってるんじゃないのか?
私もそう思います
盛り土が無ければ、たくさんの命が、
助かったはずなのに、なぜ盛り土を
つくったのだろうか?
土砂等を運ぶとダンプ1台でおよそ8千円~10万円になると言われています。(運ぶ土砂等の種類により金額が変わるらしいです。)
ですので、土砂を廃棄する場所さえ有れば、とても利益の出る事業なのです。
山間の安価な土地を購入或いは、地権者をあの手この手でだまし土砂等運ぶ業者が後を絶ちません。
自然災害からは逃げられない
現場を伝える報道のヘリ映像で、崩落が起きた起点の側に、メガソーラーらしき施設が有るのが映し出されていましたが
、その太陽光パネルを設置する為に山頂をかなりの面積で木を伐採し、整地した為に本来その山が持っていた保水力が低下し、おまけに太陽光パネル表面が持つ平面性が予期せぬ大量の雨を雨どいの様に働かせ、下流に山肌を削る様な激流を
起こす原因にも成った事は考えられないでしょうか?メガソーラーの設置に関する詳しい法律は知りませんが、太陽光発電の初期の頃は住宅地の側に造られて、太陽光の照り返しで光公害と言われ周辺住民とのトラブルから、だんだんと人里離れた山の上に拡がっていった様ですが
違法残土の投棄地とメガソーラーの設置者が同じ業者であれば、熱海の伊豆山で起こった事が他の日本の山間部でも又繰り返される心配が有ると思います。