高まる公共投資へのニーズ
国土技術研究センターは7月下旬、社会資本に関するインターネット調査 2021にて、インフラに関する国民の意識調査の結果を発表した。
「今後、公共事業の予算を増やすべきか」を聞いたところ、増加を希望した人は50.6%と約半数。前回(2017年)調査よりも9.3ポイント上昇しており、公共投資のニーズは高まっている。
公共投資は2000年代に入ってからは削減されており、ここ10年間は横ばいが続く。震災大国である日本においては物足りなさを覚えるのと同時に、政府の危機感の低さも伺える。今一度、公共投資の必要性を理解するため、京都大学大学院人間・環境学研究科准教授の柴山桂太氏に話を伺った。
「東京一極集中」は公共投資削減
――公共投資を削減したことで生じた問題点を教えてください。
柴山准教授 地方経済に大打撃を与え、東京一極集中を加速されたことは間違いないです。日本は平成期に入って以降、公共投資を減らしてきました。一方、人口が集中している都市部への公共投資は積極的に増やし、水害対策として首都圏外郭放水路を設けるなど、過密する人口に対応できるインフラ整備が行われています。
――公共投資削減が東京一極集中を引き起こした?
柴山准教授 はい。地方から都市部に移住した人にヒアリングしたところ、やはり良質な雇用がないため、都市部に移住せざるを得ないという人は多い。あとは、「地方は都市部と比較して子育てしにくい」という意見もよく耳にしました。
例えば、都市部では夜に子どもが病気になった時に診察してくれる病院、ピアノや英会話といった学習塾といったインフラが充実しており、子育て世帯が都市部に移住するケースは珍しくありません。子育て世帯が地方に根付かないため、「地方の人口減少がより深刻化し、東京一極集中に歯止めがかからない」という悪循環が続いています。
――東京一極集中のリスクを教えてください。
柴山准教授 最大のリスクは震災です。東京都ですと首都直下地震、大阪府や名古屋市ですと南海トラフ地震。日本は東海道の海沿いに大都市があり、地震や津波のリスクが非常に高い。そこに人口や資本が集中していると、多くの死者や被災者を出すだけでなく、経済ダメージ、復興支援の遅れなど、その被害規模は計り知れません。
日本は世界から乗り遅れる?
――都市部以外の公共投資が削減された経緯はなんですか?
柴山准教授 本来は都市部も地方も関係なく公共投資を行い、国土強靭化に努めるべきですが、バブル崩壊後に財政支出を抑える風潮が蔓延しました。すると「人口減少が止まらない地方に公共投資してもしょうがない」という意見が頻繁に聞かれるようになり、現在も地方のインフラ整備は不十分なまま。このことが日本経済を地域別に二分化させてしまい、今日の都市部に人口や資本を集中させる事態を招きました。
やはり、公共投資が行われないと産業が残りません。現在、コストがかからない新興国中心に産業の拠点を移している日本企業は多いですが、このグローバル化の波は国際情勢の悪化や海外の災害被害によって停滞するリスクが十二分に考えられます。そうなった時のために、工業製品から農産物まで国内生産できるようにしておく必要があり、地方に公共投資することは国内の産業空洞化を防ぐ大切な営みなのです。
なにより、地方の土建業者は雇用や経済を支えています。私の聞いた話では地方の土建業者は、PTAの会長を務めたり積極的にボランティア活動を行ったりなど、地域内で大きな役割を担っている人が多い。また、東日本大震災が起きた際、日本中の土建業者が復興に尽力した過去もあります。地方に一定の余力を持った土建業者が存在していることは、地域の教育や絆といった面でも大きく寄与しているのです。
――他にも問題点はありますか?
柴山准教授 日本では”公共投資不要論”さえ唱える政治家や有識者もいますが、世界的には見直されており、アメリカでは8月中旬に、5年間1兆ドルという大胆な規模のインフラ投資計画法案を可決されました。具体的には、鉄道インフラから高速インターネットの構築、電気自動車の充電設備の整備など多岐にわたるものです。
アメリカとしては中国に対抗することを前提とした国土強靭化策ではあるでしょう。しかし、日本同様にアメリカでもインフラの老朽化が叫ばれており、同時に新しい技術に対応したインフラを作り替えるニーズも高い。時代に順応した住みやすい環境を整備するためにも公共投資を重視する国は増えています。日本でも老朽化したインフラの整備はもとより、技術の変化に応じなければ世界から大きな後れを取ることは必至でしょう。
公共投資叩きは時代に合わない?
――公共投資と聞くと「ゼネコンとの癒着だ!」「日本で公共投資はもう必要ない」とネガティブなイメージが根強いです。公共投資のイメージが悪くなった背景を教えてください。
柴山准教授 日本では”土建国家”という言葉が1970年代後半に生まれ、当時は土建業者と政治家の癒着が問題視されていました。それと平行して「福祉や教育にお金を使うべきだ!」といった声が上がり、昭和の終わりごろから平成にかけてはスキャンダルが相次ぎ、公共投資のネガティブなイメージが定着し、現在も根強いです。
とは言え、現在は公共投資削減が進み、昔よりも簡単に談合ができなくなりました。一方、社会保障に関連した予算は右肩上がりを続いており、「そのイメージはさすがに古くない?」と思います。
もう一つ、オリンピック関連のニュースを見てもわかるように、特定の企業や財界人との明らかな癒着が報じられていますよね。土建国家と揶揄されていた当時より、現在は露骨かつ大胆なものばかり。規制改革会議や諮問委員会に政治的利害を持った人達が入り込み、好き勝手に法律や規制をいじくっています。公共投資の価値観をアップデートし、癒着を進めている企業や財界人に批判の目を向けるべきです。
「公共投資=無駄遣い」か?
――経済面での公共投資の必要性を教えてください。
柴山准教授 公共投資の必要性を訴えた経済学者としてケインズが挙げられますが、ケインズは別に「経済成長のために公共投資が必要なんだ!」と言っていたわけではありません。資本主義は好況と不況の差が激しく、景気を安定化させるために柔軟に公共投資を実施すべきと説いていました。つまりは、安心安全なインフラ整備だけでなく、失業者救済や需要創出といった機能も公共投資にはあります。
また、政府が介入しないとどうしても都市間競争がいびつになり、都市部に人も資本も集まり、地方に不利な構造ができやすい。一次産業、二次産業、三次産業でも、最低限のインフラがないと地方はそもそも競争さえできません。政府が積極的に公共投資を行い、都市間格差が広がらないように、地方経済が回るようにバランス良く働きかける必要があるのです。
――ただ、ダーティーなイメージ同様、「公共投資=無駄遣い」と批判的に捉える人は少なくなく、メリットを理解してもらうことは容易ではありません。
柴山准教授 小泉政権下では「日本の借金は○○兆円!国民一人当たり○○万円」「このままでは日本は財政破綻する!」など、公共投資バッシングが頻繁に報じられました。しかし、近年は流れが変化しており、財政赤字、所謂”国の借金”がいくら増加しても自国通貨を発行できる国が財政破綻しないことが、経済学者の間でも周知されつつあります。
アメリカのように公共投資に対して大胆な財政支出をしても問題なく、インフラ老朽化、東京一極集中といった問題が明確化している現状を鑑みると、むしろ公共投資を伸ばさない理由がない。未だに日本の財政破綻を危惧している政治家や有識者は考え方を改めるべきです。
とは言え、積極的な財政支出はお金を市場に大量に流してしまうため、過度なインフレが起きてバブルが発生する可能性は留意しなければいけません。しかし、日本は長期間のデフレ下にあり、現状はインフレを警戒する必要はなく、インフラだけでなく教育や福祉といった広い範囲の公共投資を行うべきです。
当事者意識を持たなければいけない
――東京一極集中、南海トラフ地震など、様々なリスクが忍び寄っているにもかかわらず、政府が公共投資に後ろ向きな理由はなんですか?
柴山准教授 まず、未だに「借金は返さなければいけない」という意識が根強いため、公共投資にネガティブな政治家が多いことが挙げられます。そして、「何か起きないと動かない」という構造になっていることがなにより大きい。インフラの老朽化はずいぶん前から一部の政治家や専門家が声を上げていますが、大きな事件や事故が起きないとどうしても予算をつけようとはしません。
また、官僚も昔は地方出身者が多く、地方の現状をよくわかっていました。しかし、最近は農林水産省だろうが国土交通省だろうが、官僚は東京出身者ばかりで、実情を皮膚感覚でわかっていません。ですので、予算もそうですが、「こういった災害にはこうやって対応する」といった具体的な議論も全くなされておらず、災害大国日本でこれはちょっとまずいですね。
――公共投資を拡大するために私たちができることはなんですか?
柴山准教授 昔は地方から「高速道路を作ってくれ!」「新幹線が来れるようにして!」と主張が活発でしたが、東京都に住む人が言うならまだしも、最近は地方在住者でさえも「こんなところに道路を作っても仕方ない」と公共投資不要論を口にします。
しかし、地方から強力な陳情が無ければ、当然ながら政治や行政は動かない。自分たちの声を政府に届けることが民主主義の原則です。地方在住者が安心して便利に暮らすために公共投資を求めることはむしろ正当な要求です。もっと地方から”自分たちのニーズがなにか”を求めないと、仮に政府が積極的な財政支出を行っても、都市部ばかりに予算が使われてしまいます。
――日本では、なかなか政治経済に関する主張をするのが憚られていますが…。
柴山准教授 企業も行政も昔は現場の声が強かったですが、徐々にトップダウン型に移行するようになり、しまいには「声を上げる=恥ずかしいこと」という認識にさえなりました。
しかし、現政権の新型コロナウイルスの対応を見てもわかるように、トップがいい加減だと全体が滅んでしまう。現場から不平不満を上げることは決してワガママではありません。正々堂々と主張すれば良いのです。
人材採用・企業PR・販促等を強力サポート!
「施工の神様」に取材してほしい企業・個人の方は、
こちらからお気軽にお問い合わせください。
昔は全体の安件数も一定数あったり、利益を確保できる案件があったので、持ち出しがわかっている案件でも地場コンとして責任もって受注した。
昨今は競争が激しく市場単価も追いつかず、技術者も辞めていく。
コロナでさらに案件が減ってきているので、相当吟味して多少遠方でも地場を離れることが増えた。
故に土砂崩れや、除雪の緊急時も地元に社員や班がいないから難しくなっている現状がある。
日本の建設業は9割が地元の小規模事業者なのを踏まえて議論してほしい。