「公共建築物等木材利用促進法」の改正ポイントを住宅局が解説
「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」(公共建築物等木材利用促進法)が施行され、約10年が過ぎた。同法の趣旨は、木材の利用の確保を通じて林業の持続的で健全な発展を図り、森林の適正な整備や木材の自給率の向上に寄与することなどを目的としたもので、公共建築物の木造化・木質化を推進してきた。
その結果、国土交通省と農林水産省が取りまとめた2018年度における「国が整備する公共建築物の木材の利用状況等」では、対象となる国が整備を行った低層の建築物の木造化率は90.6%となり、法の施行以降、最高の木造化率を達成している。
しかし、さらなる木造化の推進を目指す上では、民間建築工事から目を逸らすことはできない。木造率の高い低層住宅以外においても、木材利用の動きが徐々に広がりつつあるものの、非住宅分野や中高層建築物の木造率は低水準にとどまっているのが実情だ。
また、「2050年カーボンニュートラルの実現」に貢献するためには、「伐って、使って、植える」という森林資源の循環利用を進めることが必要不可欠と言える。
こうした背景のもと、同法は第204回通常国会で議員立法により改正され、6月18日に公布。法律の題名は「脱炭素社会の実現に資する等のための建築物等における木材の利用の促進に関する法律」と変更され、施行日は「木材利用促進月間」の始まりに合わせ、10月1日となる。
今回の法改正の注目点は、木材利用を促進する対象をこれまでの公共建築物から民間建築物にまで拡大したほか、法の目的として「脱炭素社会の実現に資すること」との文言を新たに追加されたことだ。
今後、各省庁が連携し、地方自治体や関係団体に呼びかけ、建築物におけるさらなる木材利用に取り組むことになり、民間企業の木材利用も活発になることが想定される中、国土交通省住宅局住宅生産課木造住宅振興室の長岡達己課長補佐が、改正のポイントについて解説する。
国と事業者の連携を促す「建築物木材利用促進協定制度」を創設
――今回の法改正のポイントは。
長岡達己氏(以下、長岡) 従来、公共建築物等木材利用促進法はその名の通り公共建築物を対象にしてきた法律ですが、法改正により、非住宅分野や中高層建築物などの民間建築物も含めた建築物一般も対象となりました。
具体的なポイントの1つとして、同法第15条において、新たに建築物における木材利用を進めていくため、事業者等は国や地方公共団体と「建築物木材利用促進協定」を締結できる制度が創設されました。これにより、国は協定を締結した事業者等の取り組みを促進するために必要な支援を行い、地方自治体は国の措置に準じて、必要な措置を講ずるよう努めることになります。なお、締結した協定の内容などはネット上で公表することとしています。
また、同法第9条において10月を「木材利用促進月間」、10月8日を「木材利用促進の日」と定められ、木材利用に対する国民の関心と理解を深めるための普及啓発に重点的に取り組むこととしています。10月1日に設置予定の木材利用促進本部の関係各省では、木材利用拡大の機運を高めるため、産学官が一体となった国民運動を展開し、10月8日には施行記念講演会・シンポジウムが開催される予定であるほか、木材利用促進本部において全国で実施される関連イベントの情報を発信する予定です。
中高層では、ほぼ100%が非木造の現状
――法改正を後押しした背景は?
長岡 2020年度の建築着工統計にもとに作成したデータによれば、新築住宅における1~2階の木造率は88%、非木造率は12%、3階の木造率は55.4%、非木造率は44.6%ですが、4階から上の階ではほぼ100%が非木造となっています。
また、住宅全宅で見ると、木造率が66.6%、非木造率が33.4%ではありますが、これが非住宅になると1~2階では木造率が18.5%、非木造率が81.5%、3階から上の階はごく一部を除いてほぼ100%が非木造で、非住宅全体では木造が9%で、非木造が91%となっています。
このデータを見ても、住宅・非住宅ともに木造化への余地というのは十分あると考えています。特に、建築物の木造化については「2050年カーボンニュートラルの実現」を考える上でも重要ですので、木材が使用されやすい環境整備が重要となります。
木造建築物の設計支援情報を一元集約し、設計者を育成
――『施工の神様』の読者は、木造建築物の設計・施工にかかわる点について、特に興味を持っているかと思います。
長岡 今回の法改正により、同法第13条で木造建築物の設計・施工に関する先進的な技術の普及の促進や人材の育成について定められたとおり、引き続き、設計に関する技術の普及や人材育成について積極的に実施していきたいと考えております。
その一環として、新たに非住宅や中高層の木造建築物への取り組みを目指す設計者の技術力向上を図るため、これらの設計支援情報を一元集約化して提供する「中大規模木造建築ポータルサイト」を2021年2月に開設するとともに、設計に関する講習及び具体の設計に対する技術サポートに対する支援を行っております。ポータルサイトでは、知識・技術習得に役立つ情報や設計者相互の情報交流の場等のコンテンツを提供、公表していますので、ご活用いただけたらと思います。
そのほかにも、戸建住宅は中小工務店が施工するケースが多いことから、(一社)JBN・全国工務店協会や全国建設労働組合総連合といった工務店団体等が取り組んでいる研修や実技講習について助成をすることで、大工技能者等の育成についても住宅局として支援を進めているところです。
国や地方自治体による表彰制度も創設
――法改正に先立ち、住宅局ではこれまでも木造化を促す政策がありましたが。
長岡 はい。住宅局の施策の一つである「サステナブル建築物等先導事業(木造先導型)」では、中高層建築の木造化について一部費用を補助しています。
同事業は、木造化に係る住宅・建築物のリーディングプロジェクトを広く民間等から提案を募り、支援を行うことにより、総合的な観点からサステナブルな社会の形成を図るもので、先導的な設計・施工技術が導入される、実用的で多様な用途の木造建築物等の整備に対し、国が費用の一部を支援するほか、CLT等の新たな木質建築材料を用いた工法等について、建築実証と居住性等の実験を担う実験棟の整備費用の一部が支援対象となる制度です。
住宅局としては、法改正を踏まえ、これら個別の施策をさらに推進していく方針です。
――民間建築工事への木材利用促進で、企業へのインセンティブはあるのでしょうか。
長岡 SDGs(持続可能な開発目標)の観点から、脱炭素をアピールすることが可能であると考えております。例えば、同法31条において、木造化に前向きに取り組んでいる事業主に対して、大臣表彰等の国や地方自治体による表彰について定められました。これらの取り組みにより、脱炭素に向けた国民運動の一環として、木造化が展開していくことに期待しています。
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