建設業界への影響は?
9月29日。自民党総裁選が投開票され、岸田文雄氏が新総裁となり、第100代の総理になる見通しだ。
菅義偉総理は「グリーンとデジタル」が政策の柱であったが、果たして岸田氏はどのような政策を行うのであろうか。記者会見では「年内に数十兆円規模の経済対策を策定する」と表明し、経済対策を巡っては「新しい資本主義を構築し、成長と分配の好循環を実現し、果実を全国津々浦々に届けたい」と強調。「経済優先の施策」を行うことを示した。小泉純一郎時代からはじまった新自由主義からの転換も訴え、「分断から協調へ」をキャッチフレーズとしている。
今回、岸田氏の『岸田ビジョン 分断から協調へ』(講談社)と筆者が党政調会長時代にインタビューした際の記録をもとに、今後行われるであろう建設業界の政策を予想する。
いち早く「スマート建設業」を提唱
岸田氏にインタビューした際、建設業にかなり理解が深いと感じることがあった。たとえば、「地方建設会社が5GやAIなどの新技術やイノベーションをいち早く取り入れる環境を整備することが地方創生につながる」と語り、後の建設DXにつながる「スマート建設業」を喚起した点は当時、実に新鮮であった。
これは2019年時点での発言であるが、現時点ではまさに地方の建設会社の課題を的確に述べた点では注目すべきだろう。
岸田氏は総裁選の際、業界団体などを回り、課題や解決方法などを述べた。建設業界のキーマンとなったのが足立敏之参議院議員(宏池会)だ。足立氏は旧建設省に入省し、四国地方整備局長、水管理・国土保全局長などを歴任、2014年に国土交通技監。2015年、国土交通省を退職している。
国交省出身で引退する脇雅史元参議院議員の建設産業における事実上の後継候補として各建設業界の推薦を得て、参議院議員で当選している。足立氏は岸田氏の支援に回り、特に力を入れたのが支援母体の建設業界だ。
岸田氏は、総裁選の告示に先立ち、9月8日に建設関係団体で挨拶。「日本の元気を取り戻す経済再生のための予算確保に向け建設国債を活用して財政出動を行い、財政の単年度主義を打破し、インフラ投資に努めたい」と語っている。
こうした背景もあり、建設業界の中では岸田氏に期待する声は極めて高く、今回、岸田氏が自民党総裁に就任したことは建設業界では喜ぶ声が高いのはこうした背景もある。
ちなみに、足立氏は2022年7月に行われる参議院議員選挙に出馬する予定だ。
目玉政策「デジタル田園都市国家構想」
岸田氏は、成長戦略を加速するために何が必要かを「岸田ビジョン」で示している。それは、中間層・中小企業、データ・デジタル化、地方・地域やイノベーションや研究開発だ。
記者会見では、「新しい資本主義」の象徴は地方であるというスタンスを明確にした。
特にこの地方・地域の件では、国のありようにかかわってくる。かつて宏池会会長でもあった大平正芳元総理は、40年前に「田園都市構想」を提唱した。この「田園都市構想」とは、都市に田園のゆとりを、田園に都市の活力をもたらし、両者の活発な交流により、地域社会と世界を結ぶ国づくりをめざすものだ。しかし、大平元総理の死去により、この構想が実現する運びにはならなかった。
40年の時を経て、多様性にあふれた地方・地域が内外にその魅力を発信しつつ、デジタル基盤を通じて、ほかの地域や都市部とつながっていくのが、岸田氏が提唱する「デジタル田園都市国家構想」だ。岸田氏は、都市への人口集中により、さまざまな脆弱性が指摘されることから、「デジタル田園都市国家構想」による国土形成をめざしていくという。地方にこそビックデータ、デジタル化、5Gを実装し、地方に活力を持たせることで、「地方創生」「地方発展」につながっていくことを期待する。
特にこのコロナ禍で必ずしも東京で働かなくとも問題がなく、情報に接することができることも証明されている。
そこで岸田氏は、「デジタル田園都市国家構想」のメリットについて、「地方においても個性的で若者を引きよせる街づくりができるチャンスがある」と語っている。
これにより、大都市における過密な解消や生活環境の改善、都市もふるさとも社会と感じることができ、「分断から協調へ」、「集中から分散へ」、「東京一極集中是正」、「地方創生」、「地方発展」という方向性とも合致する。「SDGs」、環境や自然が議論されてきた今こそ「デジタル田園都市国家構想」の実現を強調している。
岸田氏は、日本の「しわ寄せ」は地方へと向かっているとし、地方で多くの災害が発生していることで地方は大きなダメージを受けていると懸念を抱いている。地方経済と地方都市を救うことが最大の課題であり、地方の再生なくして未来を語れないと厳しい認識を示し、地方を元気づける施策が必要と考えている。
さらに、日本という国が豊かな自然と先進的な都市の共存する魅力的な国家として、今後も世界の羨望の的であり続けるためには地方の再生が重要と指摘している。
そこで新技術の活用により、地方の弱点を緩和することができる施策として、「デジタル田園都市国家構想」を提唱したと言える。
岸田文雄新総裁はこんな人
岸田氏は1993年、第40回衆議院議員総選挙に旧広島1区から自民党公認で出馬し、初当選。内閣府特命担当大臣、外務大臣、防衛大臣、党国会対策委員長、党政調会長を歴任し、総理に最も近い政治家と言われた。2020年の自民党総裁選には、菅氏に敗れたものの、2021年9月29日に自民党総裁選で勝利し、わずか1年で捲土重来を果たし、総裁に就任した。
エリートと思われがちだが、東京大学受験を3回失敗し、挫折した一面も。後に早稲田大学法学部に入学、卒業している。好きな食べ物は、広島のお好み焼き、カキ、納豆。酒には強い一面も。奥さんがつくる広島風お好み焼きに目がない愛妻家としても知られている。宏池会の設立者・池田勇人元総理を尊敬し、好きな漫画としてその池田を主人公とする大和田秀樹の『疾風の勇人』シリーズをあげている。