NIPPOの研究所に2年間在籍後、大学に戻る
――博士号を取った後、NIPPOに就職したと?
前島さん そうです。経歴としてはかなり珍しいと思います。私は今32才ですが、NIPPOに入社したのは4年前、28才のときです。結果的に、NIPPOには2年しかいなかったんですけど(笑)。
――NIPPOではどのようなお仕事を?
前島さん NIPPOさんでは、新入社員はまず現場に入るのが一般的ですが、ボクの場合は、最初から研究所に配属になりました。大学では、コンクリートの内部を非破壊で検査する研究を専門としていました。上司から「まずは得意分野で研究業績を出しなさい」と言われたので、コンクリート床版の新しい補修材料の開発であったり、コンクリート床版の非破壊検査装置をアスファルト混合物の検査装置に転用する研究などをやっていました。
――NIPPOでの研究はどうでした?
前島さん 民間の研究と大学の研究とでは、やはり違いました。大学で研究していたボクのような人間が、民間の研究をすることは貴重な経験でした。
結果的に2年で大学に戻ることになりましたが、NIPPOさんからは、舗装をはじめ、道路工学に興味を持つ若手をドンドン育成するという意味で、ボクが大学に戻ることは良いことだと言っていただきました。
若輩だが、貴重な役割を担っている自負がある
――舗装の研究者は全国的にも少ないそうですね。
前島さん ええ、全国を見回しても、床版のことをわかった上で、舗装のことも語れる研究者はほとんどいません。そもそも舗装を研究している研究者自体、全国で10名ほどしかいませんので。若輩ではありますが、ボクが今、貴重な役割を担っているという自負はあります。
――舗装の研究者が少ないのはなぜだとお考えですか?
前島さん 正直良くわかりません(笑)。そもそも道路業界があまり学生に人気がない業界だというのがあると思います。博士課程まで進む学生の数は全体的に減っています。博士課程まで進む学生がいても、橋梁やコンクリートに行ってしまう現状があります。
――大学に戻ってからは、舗装メインで研究しているのですか?
前島さん そうですね。研究室は以前と同じコンクリートの研究室(構造・道路工学研究室)ですが、舗装メインで研究しています。授業としては、道路工学なども教えています。
――研究室の学生数は何名ですか?
前島さん 研究室全体では30名いますが、そのうち舗装の研究をしているのは10名ほどです。コンクリート専門の岩城先生と舗装専門のボクがいて、困惑している学生もいると思いますけど(笑)。
構造全体を考えることで、安心安全な道路交通が担保される
――「三位一体」の研究をやっているのですか?
前島さん そうです。床版の上にアスファルトなどが載った状態で、どう壊れるかといった研究をしています。橋梁以外の道路舗装についても、研究をスタートさせています。道路舗装には、舗装の下に路盤という砂利の層があって、その下に路床という土の層があります。こちらも3層構造になっており、三位一体での研究を行っているところです。
舗装を研究する上では、舗装だけを研究するのではなく、下の層を含めた構造全体として研究しないといけないと考えています。構造全体を考えることで、安心安全な道路交通が担保されるものだからです。これがボクの研究のモットーです。
三位一体の研究としては、床版、防水層の劣化が舗装の耐疲労性に及ぼす影響について検証しています。アスファルト舗装は、アスファルトの継ぎ目などから水が浸入すると、床版まで水が到達し、車両の走行荷重によって、砂利化が発生します。砂利化とは、コンクリートがボロボロになってしまった状態で、砂利下が発生すると、上の舗装も壊れてしまいます。これがなぜ起きるかを解明するのが、研究のテーマでした。
実験では、コンクリート床版の上にアスファルトを載せた供試体をつくり、そこに砂利化を模した砂利を埋設しました。それを車輪を押し付ける疲労試験にかけ、アスファルトにどのようにヒビ割れが発生し、どう壊れていくかを分析しました。
実験を通じて、走行回数の増加に伴って、ヒビ割れが進行し、下面で生じたヒビ割れが上面まで進展していくことが確認されました。この結果をもとに、非破壊検査を行って、構造体全体の状態を評価できるよう検討しているところです。同様の実験は、おそらく国内初だと思います。