量だけでなく質においても平等に近づいている
――建設業界の男性中心主義は根強そうですが、この空気感は変えられそうですか?
本田氏 それが、けんせつ小町活動において最大の課題です。女性のため、女性のみが集まった活動というイメージを変えていくことに現在は取り組んでいます。
――実際に現場を見て「変わったな」と感じるシーンはありますか?
本田氏 感覚的な印象ですが、女性の現場監督の割合が圧倒的に増えたと思います。また、女性若手社員が増えたこともあります。同期の男性社員と同じ負荷の業務量を任されていることも当たり前になり、量だけでなく質においても平等に近づいている印象を受けました。また彼女たちも、それを望んでこの業界に入っている覚悟もありますね。
市村氏 私も感覚的ではありますが、現場の雰囲気が変わったように感じます。以前よりも整理整頓されるようになり、花を飾る事業所もあって驚きました。ただこれは、”女性=花が好き”という話ではなく、画一的ではなく現場ごとの個性が可視化されるようになり、働きやすい空間作りに関する声を挙げられやすくなったからだと思います。
現場風土や文化を変えていくためのキッカケ作りが重要
――徐々にではありますが、女性活躍は着実に進んでいるのですね。
本田氏 とは言え、弊会は元請の業界団体ですので、直接的に会員企業やその現場に介入する強制力はありません。会員企業の管理職の方や、現場の最高責任者である所長やその候補者に向けたセミナーを実施することはできます。ただ、実際に得た知識や情報を現場に反映させるかどうかは、その会社やそこに所属している方々次第です。
また、会員企業の役職員だけでも約15~20万人はおります。これだけの規模の母体だからこそ、一方的かつ直接的な単純なアプローチは難しいです。ある施策を展開し、それで問題が解決できるならとっくに解決しているはずです。
だからこそ、セミナーなどのイベントやWEBを活用したオープンな情報発信などを粘り強く継続的に展開し、少しずつ現場の風土・文化を変えていくためのキッカケ作りが大事だと思います。
――思っていたよりも前途多難ですね…。
本田氏 はい。アンケートを取っても「男女別のトイレ・更衣室を設置して!」という不満の声も少なくありません。ただ、仮にそれらの問題を100%クリアしても、真の意味のダイバーシティの実現、男女ともに働き続けられる業界になるかは別次元の問題だと思います。もちろん、トイレや更衣室といったハード面の問題改善は当然のことですが。
ハード面は非常にわかりやすく、そこばかりに注目されやすい。本来はハード面だけでなく、男性社会の根強い空気感を変える、ソフト面に対するアプローチも同時に進めなければいけません。
表彰で受賞した活動は、ハード面だけでなくソフト面も優れており、「結婚や出産を経験しても現場で働き続けたい」という声に上司が真摯に耳を傾けながら実行に移しています。逆に、ハード面ばかりに気をとられていると、いつまで経っても現場の本質的な課題の改善は進まない。わかりやすい部分(ハード面)に囚われない運営を、今後はより一層意識しなければいけません。
――男性中心の空気感、つまりソフト面を改善する際に何がネックになっていますか?
市村氏 やはり”女性技術者=レア”という先入観が根強いことが影響しています。けんせつ小町を展開することで、多少は空気を換えることはできているかもしれません。それでも、現場仕事は身体が資本になるため、他の業界よりも”男らしさ”をイメージしやすいことが影響していると思います。
本田氏 トイレや更衣室といった現場改善だけでなく、”育休取得の向上”といった制度におけるハード面も着手しています。ただ、現在の男性上司、役員層は育休を取得せずに仕事中心のキャリアを歩んできました。
そうした価値観の方が経営層に大半を占める場合、そもそも男性が育休を取得する、それ以前に男性が家事育児に携わることさえ理解を示してもらえないことも珍しくありません。”マッチョに働いてきた男性”が決定権を持っていることは大きいです。
誰もが「働きやすい、働き続けたい」と思える業界に
――ソフト面改善のためにどのような対策が必要ですか?
本田氏 いかに男性を巻き込めるかが重要だと思います。「更衣室を設置してほしい」「育休を数ヶ月間取得したい」と考える男性も少なくなく、”女性活躍を推進することが、まわりまわって自分たちにも良い影響をもたらす”ということ知ってもらうことが今後の課題になると思います。
ただ、「けんせつ小町・女性活躍=女性優遇・男性にデメリットがある」という認識が強く、余計に反発されやすい。男性側の心理を酌みつつ、男性に応援されることが希望につながるのではないでしょうか。
――男性も、女性活躍を自分事として考えられれば良くなりそうですね。
本田氏 はい。また、「もっと女性が活躍できる建設業を目指す」というキャッチコピーを掲げたのですが、「女性のやる気が足りない!」「なんで女子だけ活躍?」などを連想させ、実は女性の評判があまり良くなかったんです。けんせつ小町は、女性活躍のためだけではなく、誰もが不自由を感じることなく自分が働きたいように働ける取り組みとしてPRしていきたいです。
――けんせつ小町として、今後はどのように活動されるのでしょうか?
本田氏 2019年にこれまでの活動方針を見直しました。正直、いろいろな企画を講じてはいましたが、これまでの活動は「建設業界は人手不足だから」という前提の下、女性活躍が進められていた節があります。それでは、一般社会に共感されませんし、仮に入職者が増えたところで定着はしません。
4年間活動をし、けんせつ小町の委員さんたちともじっくり対話した上で、2019年に今後5年間の活動方針を定めた「けんせつ小町活躍推進計画」(2020~2024年度)を発表し、けんせつ小町の新しい柱として「定着」「活躍」「入職」の3つを掲げました。
女性のみならず、男性であっても離職する人は多いです。先述した通り、特定の枠を設けずに、誰もが「働きやすい」「働き続けたい」と思える業界に整備するために活動していく方針を固めました。
今後はこの方針を羅針盤に実行に移していきます。現在、けんせつ小町のリ・ブランディングを”ちゃく、ちゃく”と進めているところです。2022年4月に公表予定ですので、その際にはまた施工の神様でもぜひ取り上げてください(笑)。
市村氏 将来的には、けんせつ小町という言葉を無くせるよう、建設業界で働く人が壁を感じなくなるように頑張りたいです。
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