「どこが土木の仕事なの?」と戸惑った
――塚本さん、市役所の仕事はどうでしたか?
塚本さん 最初は戸惑いましたね。最初の配属先は港湾空港局のクルーズ船施設の運営調整などを行う部署で、まさか船舶に関する仕事を担当するとは思いませんでした(笑)。
仕事の内容は、岸壁を適正に利用させるとか、着離岸時間を調整するといったもので、覚えなきゃいけない法規も、海上保安庁系のものも多かったです。「どこが土木なの?」という感じでしたね(笑)。「ザ・土木」の仕事をしている「同期の人たちに置いていかれる」と思いながら仕事をしていました。
――今の仕事はどんな感じですか?
塚本さん 今やっているのは、アイランドシティのコンテナターミナルの舗装工事などを担当してます。
――仕事は楽しいですか?
塚本さん 楽しいですよ。市役所に入ってからずっと港湾なのは、非常に気になっていますけど(笑)。
今の仕事は、たとえば、何十haもある広大な未完成の土地を仕上げるために、自分たちでいろいろ作戦を立てながら、工事を進めていくわけです。けっこうな傾斜のある盛土を車両で登っていったりとか、雨が降ったら、ベチャベチャになりながら土のうを積んだりすることもあるので、ちょっと冒険チックで、けっこうワイルドな感じで楽しいです。
――ただ、このまま行くと、「港湾屋」になりそうですけど、大丈夫ですか?
塚本さん 私としては、まちなかの仕事とか、他の分野も経験したいと思っていて、希望を出しています。
――まだあきらめてないと?
塚本さん まだあきらめていません(笑)。
土木という職種にとらわれず、仕事ができるのが魅力
――吉岡さん、今の仕事はどうですか?
吉岡さん 塚本さんの話にもありましたが、港湾の仕事は、専門性が高い分野なので、着任当初は、言葉がわからないことも多く、慣れるまで時間がかかりました。計画系の部署なので、幅広い知識が求められるのですが、配属されるまでほとんど知らなかったので。日々勉強しています。
――これまでで一番楽しかった仕事はなんですか?
吉岡さん 東京事務所ですね。様々な経験ができたからです。多様な人とのネットワークもできました。国の政策がどういうふうに決まっていくのかを肌で感じることもできました。
――公務員のキャリアップについて、どうお考えですか?
吉岡さん 市役所での土木の仕事は、道路、下水道、水道、港湾など多岐にわたっていて、それぞれ高い専門性が求められます。さらに、それぞれの分野ごとに計画するセクション、事業を進めるセクション、維持管理するセクションがあります。そういう幅広いさまざまな土木の仕事を経験できるという意味で、公務員になって良かったと思っています。
自分で配属先を選ぶことは難しいですが、選択肢があるということは、やはり仕事として魅力的だと思っています。土木の職員の中には、事務職の仕事に携わっている方もいらっしゃいますが、土木という職種にとらわれず仕事ができることも、市役所の魅力だと思っています。
防犯に関する研究がライフワーク
――松永さん、仕事は楽しいですか?
松永さん はい、楽しいです。偶然とは言え、研究者になれたのはラッキーだったと思っています。研究職は、自分で決められる部分が非常に多いので、自分の興味があることに対して、いろいろなアプローチから研究できるのが、楽しいです。
例えば、私は防犯に関する研究をライフワークのひとつとしてやっています。都市空間とか街路空間の設計を変えると、防犯にどう役立つのかという視点で、ずっと研究しています。九州大学はもちろん、福岡女子大学でもこのテーマで研究を続けています。子どもの安心安全に関する研究ということで、男子よりも女子のほうがとっつきやすいテーマなのかなという気もしています。最近は、同様のテーマで研究をしている海外の先生とも交流しています。
――人に教える、人を育てるというところで、やりがいを感じることはありますか?
松永さん 最初は「ムリ」とか「できない」と言っていた学生が、一生懸命やって結果を出して、卒業していく姿を見ると、鬼の目にも涙と言いますか、「良く頑張ったね」とホロッとくることがあります。自分で仮説を立てて、それを明らかにするため、計画を立てながら向かっていくというプロセスは、どんな業界であっても、社会人としてきっと役に立つと思います。学生にはそのことは折に触れて伝えるようにしています。
――最近の学生に対して、感じることはありますか?
松永さん 約20年間大学で教員をしていますが、あまり違いはないと思っています。最近の学生について、よく「自分で考えない」とか「言われたことしかやらない」という話は聞きますが、私が学生のころにも、「言われたこともやらない」ような学生はいたので。
最近の学生はプレゼンテーションが上手だなとは思います。自己表現がスゴく上手だと感じます。デジタルネイティブ世代というのもあると思います。私たちが学生のころはOHPでしたけど。そういうところは伸ばしてもらいたいと思っています。
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伊都キャンパスは交通アクセスが脆弱
――現在の九州大学伊都キャンパスはどうでした?
増田さん キャンパス自体は新しいキャンパスなので、過ごしやすかったです。ただ、天神とか博多など福岡市街地が遠いので、そこは大変でした(笑)。
塚本さん 建物がキレイで近代的なので、良かったです。在学中に、どんどん学生のまちになっていたので、おもしろかったです。最初の1年間は自宅から通っていたのですが、2時間かかるので、親に懇願して、2年目以降は一人暮らししました。
――箱崎キャンパスと伊都キャンパスはどっちが良かったですか?
松永さん 立地的にはもう一つの六本松キャンパスが一番良かったです。六本松キャンパスと比べると、箱崎キャンパスはまちが暗くて、「田舎だな」という印象でしたね。そこへいくと、伊都キャンパスはなにもないという感じを受けました。他の先生も同じようなことを言っていました。
みんなでご飯食べに行ったりとか、飲みに行ったりするには、やはり不便ですし、夜遅くなると、大学に泊まらざるを得ないこともありました。交通ネットワークが脆弱なことから、豪雨で電車やバスが止まって、帰れないということもありました。ただ、日本最大級の大きな図書館があったりとか、研究環境としてはスゴく良いのかなと思います。
――箱崎キャンパスは飛行機が直上を飛んで、うるさかったらしいですが。
吉岡さん 私は学生時代、箱崎に住んでいたのですが、窓を開けていると、飛行機の音でテレビの音声が聞き取りづらいということはありました。
私が通っていたころの箱崎キャンパスは、手入れが行き届いていないエリアもあって、鬱蒼としてましたね。憧れのキャンパスという感じではなかったです。とくに工学部エリアは男子学生が多かったので、華やかさという点は皆無でしたね。
松永さん 女子トイレは奇数階にしかありませんでした。伊都キャンパスはその辺がすべて解消されて、パウダールームなんかもあります。男子トイレにも(笑)。
吉岡さん 伊都キャンパスに行ったとき、パウダールームに衝撃を受けた覚えがあります(笑)。
土木に関わる人間が土木を隠してどうする
――2021年4月から、九州大学が学科の名称を土木工学科に戻しましたけど、それについてどう思いますか?土木を志す若者へのメッセージでも結構です。
松永さん 私は土木に戻して非常に良かったと思っています。私自身は、学科の名称にダマサれた感じですけれども(笑)。そもそも「土木に関わる人間が土木を隠してどうする」と思っています。まず自分たちがしっかり土木を名乗りながら、土木の魅力をしっかり伝えていくことが、土木の裾野を広げていくことにもつながっていくと考えています。
吉岡さん 私が在学したころは建設都市工学科という名称でしたが、地球環境工学科に変わった後、また土木工学科に戻りました。
土木って生活に根付いたものだと思っているんです。私自身、そういった仕事に携われることに非常にやりがいを感じています。女性で土木の分野を選択する人はまだまだ少ないとは思いますが、やれることは必ずあると思います。自分ができることや得意なことを見つけて、チャレンジしていってほしいと思っています。
塚本さん 自分が市役所で働いているからかもしれませんが、土木は社会から非常に必要とされる学問だと思います。生活を突き詰めていくと、土木の重要性を実感します。学問としても、非常に幅広いので、選択肢を見つけやすいと思っています。女子にも向いている学問だと思うので、土木を志望する女の子が増えてほしいです。そして、福岡市役所に来てください(笑)。
増田さん 土木という言葉には、なんとなくネガティブなイメージがあると思います。とくに女子学生にとっては、そういうイメージがより強くあるように感じています。でも、みなさんがおっしゃったように、土木は国民の生活の根幹に関わるもので、国民の生活に寄り添える大事な仕事です。学生の皆さんには、ネガティブなイメージを持つことなく、素直に土木を志望してほしいと思います。
私の経験で言えば、コンサルで働く上で、女性であることが負になることはないと思います。ウチの会社には、結婚や出産をした後も働いている女性はたくさんいます。土木業界には男性社会という印象はありますが、だからこそ、女性には増えてほしい、土木を志してほしいと思っています。
他大学OGとの連携、土木OGサミットも視野に

乙未の会として2016年度に実施した現場見学会
――最後に、今後の乙未の会について、事務局である松永さんから、一言お願いします。
松永さん ここ数年は、コロナの影響でちゃんと活動できていません。「(会は)終わったのか」という問い合わせもありましたが、そんなことはありません(笑)。私が学生のころは、先輩がなにをやっているのか情報がまったくなくて、就職などに関する情報収集に苦労しましたが、会ができたことによって、先輩と情報交換する場が持てたと思っています。今後も引き続き、学生とOGとのネットワークをしっかりつないで、タイミングを見て活動を再開させたいと思っています。
京都大学にも土木のOG会が立ち上がったと聞いています。乙未の会単独ではなく、他大学のOG会などとも連携しながら、交流の輪を広げていきたいと思っています。いつか「土木OG同窓会のサミットみたいなことをやりたい」とも思っています。
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