WTO案件工事も控え、ゼネコンも注目する関東地方整備局 荒川下流河川事務所
首都圏の人口、資産、経済の中枢が集中する荒川下流。その災害防止を使命とするのが国土交通省関東地方整備局荒川下流河川事務所だ。荒川下流河川事務所はWTO案件工事も控えており、各大手ゼネコンもその動向に注目している。
さらに、荒川下流河川事務所は「東京都i-Construction推進連絡会」の幹事事務所でもあり、5月11日には、東京都で初となる「ICT土工体験講座(東京都ブロック)」を行う予定だ。
荒川下流河川事務所の今年度の工事・調査計画、ICT土工の取り組み、担い手確保・育成などについて、小池栄史副所長に話を伺った。
関東地方整備局 荒川下流河川事務所の役割と使命について
施工の神様(以下、施工):まずは荒川下流河川事務所の役割についてお教えください。
小池栄史副所長(以下、小池): 荒川下流部の安全と安心を確保するのが、荒川下流河川事務所の主な役割です。荒川の笹目橋から河口までの約30㎞区間は、人口や資産、社会経済活動の中枢機能が集中しており、仮に堤防が決壊すれば、壊滅的な被害が発生し、首都機能が麻痺する恐れがあります。
このような災害を防止・軽減し、流域の皆様が安心して暮らせるように、荒川下流河川事務所では河川整備を推進しています。
河川整備は、①首都圏大規模水害から街を守る治水対策、②首都直下地震に備えた危機管理、③良好な環境の保全、④安全性を持続的に確保するための維持管理、の4つのポイントから構成されます。
自然と社会環境の調和を図りつつ、首都圏を災害から守り、安心して暮らせる荒川流域を目指しています。
WTO対象工事「東砂地区ゼロメートル地帯堤防地震対策」に注目が集まる
施工:今年度の荒川下流河川事務所の予算と工事概要を詳しく教えてください。
小池:昨年度の当初予算は86億6,100万円、今年度予算は84億2,800万円で、ほぼ横ばいに推移しました。今年度は11事業を推進します。
①北葛西地区高潮対策は、荒川左岸堤防の下流部に位置する中堤について、必要な堤防高さを満たしていない区間があるため、この区間の堤防をかさ上げし、高潮に対する安全性の向上を図ります。
②東砂地区ゼロメートル地帯堤防地震対策は、WTO政府調達協定の対象で公告する工事です(図1)。非常に大きな工事で、各ゼネコンも注目しています。第2四半期に入札する計画です。
この東砂地区ゼロメートル地帯堤防地震対策は、最下流部の東砂6~8丁目の延長約700mを対象に、液状化による側方流動で堤防が沈下するのを抑制するための工事です。法尻部に長さ約20mの鋼矢板を打設します。1段階目の盛土工を施工し、盛土工は小段部までの計画で、盛土量は約3000㎥、盛土高は1m程度です。
都道の通行を制限しながら施工する必要があり、仮設道路を別途、確保してから打設工を進める計画です。工期は17カ月間で、先日、住民説明会を実施しました。地震対策として液状化による側方流動を抑え、しっかりとした堤防に再生します。
③京成本線荒川橋梁架替は、増水時に水が溢れて堤防が決壊する危険性があるため橋を架け替える工事です。この京成本線荒川橋梁付近の堤防は、荒川下流部で最も桁下高が低い状態にあります。今年度は、詳細設計と用地測量が主体で、橋梁の本体工事は今後、京成電鉄が主体で行います。
④川口地区高規格堤防整備は、いわゆるスーパー堤防で、撤去工事及び補償を実施します。同じくスーパー堤防である⑤新田一丁目地区高規格堤防整備は、今年度中に工事に着手したい案件です。延長約100m、幅約140mの高規格堤防を整備する計画で、堤防面積は約2.2haで、事業費は約44億円を見込み、東京都による都営新田一丁目アパートの建て替えとの共同事業として実施します。ただし、東京都のアパート解体工事がずれ込みますと、工事にやや遅れが生じます。
耐震補強工事としては、⑥芝川水門 ⑦新芝川排水機場 ⑧堀切菖蒲水門があり、このほか、⑨川口河原町地区河岸再生整備 ⑩新田三丁目地区水辺再生整備 ⑪笹目排水機場樋管ゲート更新などの事業があります。
どの工事も荒川下流の流域に住まわれる方々にとっては重要な工事・計画ですので、荒川下流河川事務所としては、地域の方々が安心して住まわれるよう万全を期してまいります。
“地域インフラ”サポートプラン関東2016の重点項目とは?
施工:関東地方整備局は、建設業界の担い手確保・育成、生産性の向上を目指す取り組みとして、“地域インフラ”サポートプラン関東2016を策定しましたが、そのポイントを教えてください。
小池:関東地方整備局が2016年7月に管内都県の建設業協会と行った意見交換会において、担い手確保や「i-Construction(アイ・コンストラクション)」に対する意見を多くいただきました。こうした現状を踏まえ、関東地方整備局は“地域インフラ”サポートプラン関東2016を策定し、3つの重点項目、12の取り組みを進めています。
重点項目の①担い手確保・育成では、新たな入職者の確保や若手技術者の定着を図るために、「給料が良く」「休暇が取れる」ことや「安全な職場環境」の実現が求められていますので、この3点を目指した取り組みを行います。
②生産性の向上では、国土交通省は「i-Construction」を推進していますが、まずは、ICT土工により、これまで手つかずであった土工の生産性を向上させ、発注者の仕事のやり方を改革し、施工時期の平準化を進めます。
③広報活動は、建設現場で働く人々に光をあてることにより、建設業の魅力を広報する取り組みを支援します。
施工:重点項目のうち、担い手確保・育成では、具体的にどのような施策を行いますか?
小池:荒川下流河川事務所は2016年10月25日に、建設業の新たな担い手の確保・育成に関する取り組みが優れた工事を選定し表彰する制度を創設しました。
昨年度以降に完成した工事が表彰選考の対象になります。表彰は、現行制度の「荒川下流河川事務所 工事表彰者表彰」の表彰規定を拡充し、受賞者は「総合評価落札方式」の企業の技術力の項目で加点評価します。
実は、“地域インフラ”サポートプラン関東2016に基づく「災害活動や担い手確保・育成貢献工事表彰制度」としては、京浜河川工事事務所とともに荒川下流河川事務所が第1号となりました。
今後も「週休2日制確保工事」や担い手の中長期育成・確保を目指した「若手技術者の活用」等の評価方式をより推進します。今年度はどの工事で行うかは、これから決めていきます。
「東京都i-Construction推進連絡会」で浮上した東京の課題とは?
施工:生産性向上に関する具体策はいかがですか?
小池:東京建設会館で「東京都i-Construction推進連絡会」の初会合を3月24日に開催しました。参加機関は、関東地方整備局の各事務所(荒川下流河川事務所、東京国道事務所、相武国道事務所、東京外かく環状国道事務所、国営昭和記念公園事務所)と東京都、一般社団法人東京都建設業協会。会長には荒川河川下流事務所の中須賀淳所長が就任しました。
関東地方整備局の事務所管内の工事ではICT土工を3件(河川2件、道路1件)で実施していますが、東京都内では土工がメインの工事が極めて少ないのが現状です。今回の推進連絡会以外の発注機関を含めても、東京都内おいて6件に留まっています。
そこで、受注者側の東京建設業協会からは、他道府県のICT土工の流れに取り残されることに対する懸念の声が上がり、発注者側の関東地方整備局や東京都に対しては、情報提供の実施と体験講座や見学会などを増やす要請がありました。
「i-Construction」とは本来、建設現場の生産性向上に向けて、測量・ 設計から施工、管理に至る全プロセスにおいて、情報化することを前提とした新基準を指しますが、現場によっては、わざわざICT建機を使用しなくても済む場合もあります。部分的に情報化を行なえば生産性が向上するケースもあるため、全プロセスの情報化を行う場合、逆に生産性が下がるケースも存在するとの声も上がりました。今後は、近隣他県と共同で「ICT土工体験講座」を行うなどの案も浮上したため、今後は情報交換を密にする必要があります。
5月11日には東京都で初となる「ICT土工体験講座(東京都ブロック)」を、荒川下流河川事務所が発注する「H28扇二丁目河岸再生工事」の現場で行います。講師は同現場を受注したナカノフドー建設の監理技術者の今村東洋治氏に担当していただきます。多くの技術者や各地方公共団体の参加を希望しておりますし、「施工の神様」も是非、取材してください。
実施内容については、ICT建設機械による施工技術のほか、3次元データ処理技術、起工測量から実施段階順に講義をそれぞれ予定しています。
独自の取り組みとして、現場技術者自らがTwitterで情報発信
施工:広報活動の施策については、どのようなものがありますか?
小池:広報活動としましては、2017年2月3日に「H27日の出地区護岸改築工事」現場で、「多様化する女性の働き方、もっと女性が活躍する建設業を目指して」をテーマに、「i-Constructionの紹介と快適な環境づくりへの取り組み」についての現場見学会を開催しました。
中原建設が開催者となり、日本大学女子学生15名の方々などが参加する中、座学や実体験、現場見学会などを行ったほか、建設業における快適な環境づくりへの取り組みとして、「女性専用休憩所」「女性専用トイレ」についても紹介しました。
「参加された方々の中から高品質な社会資本を整備する建設業の担い手が1人でも増えることを願っています」と中原建設は総括されていました。
また、関東地方整備局のホームページには「技術者スピリッツ」というコーナーを設け、世界に一つだけの工事に携わる技術者に光を当てて紹介しています。もちろん、荒川下流河川事務所の現場を指揮する現場技術者も紹介しています。
このほか、2016年12月17日には、堀切菖蒲水門耐震対策工事現場見学会を開催しました。地元で行われている掘切大凧揚げ大会当日にあわせて開きましたので、お子さん方も現場を見学しました。この工事を受注し、現場の案内をした新井組からは、「少しでも建設業界に興味を持ち未来の建設技術者となってくれたらいいなと思います」との感想がありました。
荒川下流河川事務所の独自の取り組みとしては、荒川下流河川事務所の公式Twitterで「技術者のつぶやき」コーナーを設け、技術者から現場の生の声を配信しています。
施工:ありがとうございました。今後も荒川下流河川事務所の発信に注目していきます。
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