IHIグループの株式会社IHIインフラ建設(東京都江東区、以下IIK)は,水門設備の維持管理や整備を最新のICT・IoT技術を用いて効率的に学び、実際の水門設備を配備した体験型の「防災・水門技術研修所」を東京都江戸川区に設立した。
河川機械設備をはじめとする水門業界では、整備後40年を経過する施設が約50%を占め、今後整備・更新の急増が想定されている。しかし一方、技術者・技能者も高齢化しており、担い手の確保・育成が急務である業界である。こうした背景もあり、技術者を早期に育成する必要に迫られている。
特徴的なことは研修では自社社員だけではなく、同業他社、協力会社、設備管理する方なども受け入れ、積極的に水門業界に貢献を図っていく姿勢を強めた点にある。
今回、IIKの取締役鉄構事業部長の佐藤則行氏、鉄構事業部鉄構管理部長の熊谷公雄氏が同研修所の意義などについて語った。
設備の老朽化、技術者の高齢化…課題の多い水門業界
――まず水門整備や維持管理の課題からお願いします。
佐藤則行氏(以下、佐藤取締役) 近年、頻発化・甚大化する豪雨による洪水災害などが多発しており、気象状況が大きく変わっています。通期での雨量自体は大きく増えておりませんが、雨量の振れ幅が大きくなり、亜熱帯地域に見られるような”スコール”化していることが大きな特徴です。
そのため、防災・減災、国土強靱化対策として適切で効果的な維持管理の必要性が増大しています。現在、国土交通省では「流域治水」として流域全体で治水対策を展開していますが、既存水門設備の老朽化は加速度的に進行しています。整備後40年を経過する施設が約50%を占め、しかも今後10~20年で整備・更新が必要な水門が一層増えると予想されており、今からしっかりと維持管理をしなければこれらの設備は機能しなくなってしまいます。
ですが、水門設備の維持管理や整備に必要な熟練技術者が高齢化しており、働き手も減少しています。ですから、技術者・技能者の育成は喫緊の課題で、これは水門業界全体で取り組んでいく姿勢が求められています。
――地方自治体の技術者不足も大きな課題です。
佐藤取締役 おっしゃる通り、水門を管理される地方自治体の技術者の不足も深刻です。もともと、建設業界全体で技術者は不足していますが、特にこの水門業界では官民ともに技術者が不足している状況にあります。
国土交通省資料でも、ゲート事業従事技術者数は現在40~50歳がピークとなっており、10年後には50~60歳がピークになる事が想定されると指摘されており、IIKの水門技術者の年齢層もこれに当てはまっている状況で、高齢化が進展しています。
水門に関わるすべての人材を受け入れる
――それでは今般、「防災・水門技術研修所」を設立した経緯と狙いについては。
佐藤取締役 繰り返しになりますが、近年、既存の水門設備の老朽化が進行しています。また、豪雪による洪水・災害などはその発生頻度が高まるとともに、被害も甚大化しています。そのため、防災・減災の機能の重要性が高まっています。
その一方で、水門設備の維持管理や設備を行う技術者の高齢化と減少が進んでいる中で、自然災害などに対して、水門の重要性は高く水門設備の機能をより確実に確保する効果的な維持管理が求められております。
さらに水門の点検や修繕作業は特有の潜水作業など危険を伴う作業も多く、作業の機械化や自動化を推進する必要にも迫られています。このような背景から、持続的に水門設備の整備、維持管理に必要な人材の確保や育成をする場をつくるため、「防災・水門技術研修所」を設立しました。
まずはIIKの社員からスタートしますが、我々だけで全国の水門の維持管理ができるわけではありません。今後、水門設備が長く確実に動作できるよう、同業他社様、協力会社様や設備管理者様、コンサルタント様など水門設備にかかわるすべての方が活用できる場として展開していき、ひいては水門設備の維持管理の業務に携わりたいという意欲のある業者様にも門戸を開いていくつもりです。
座学と体験双方で水門技術習得もレベルアップ
――研修所では、どのような技術・技能を学べるのでしょうか?
佐藤取締役 水門設備の点検・整備の実技、災害時・防災に応じた緊急点検手法の習得、最新のICT機器を取り入れ、高度で効率的な維持管理業務を習得できるほか、通常では起こらないこと・できないこと・手順上やってはいけないことの実機確認なども学ぶことができます。
このほか、点検時の不具合発生時の対応方法の訓練を実施し、座学による水門設備の点検の心得、点検方法、点検では絶対にやってはいけないことのリスト解説、座学で知ってほしいゲートの知識の習得など、研修内容は多岐にわたります。
水門設備には、それぞれに設置目的があり、設計も汎用品とまったく異なり、そのもの専用につくられています。ですから設備ごとに学ばなければならないことも多いのですが、実際に稼働中の設備ではできなくとも、施設内の実機で体験できる点は貴重だと考えています。こうした研修所は水門業界の中では初めての試みです。
――従来はどのような研修方法が一般的だったのでしょうか?
佐藤取締役 先輩の後に付いて、OJTで点検業務からスタートすることが多いですね。これでは、指導する側の影響が非常に大きくなるため、指導者によって育成のレベルに大きな差異が生まれてしまうこともあります。
進化する水門DX
――研修内で学べるICT・IoT技術はどのようなものですか?
熊谷部長 IIKが開発した水門の点検サポートシステムである「GBRAIN(ジーブレイン)」について代表的な機能が体験できます。「GBRAIN」は、計画から点検や報告まですべてタブレットで行うことができるシステムで、電子黒板、遠隔支援システム、設備位置情報、設備情報、点検レポート閲覧、報告書作成支援、類似事例一覧、AIによる点検支援など多くの業務が実施できるため、ベテランの知識や能力をタブレットに詰め込んだイメージです。360°カメラと併せて使用することで、水中の臨場を遠隔で行うことも可能となっています。
――水門業界でも遠隔検査や遠隔臨場が増えているのでしょうか。
熊谷部長 2021年でも工場での遠隔検査は20~30回ほどありました。現場には責任者を配置しなければなりませんが、大きく影響がない点については遠隔になっていくと考えています。もちろん大事なケースでは現場での臨場でなければならないとは思いますが、遠隔臨場を選択するケースも出てきています。
佐藤取締役 遠方からの往復で、さらに立ち合いの方が複数人になると、スケジュールを合わせることも大変です。お客様にとっても遠隔臨場は勝手が良いと思います。
――最後に、今後の水門市場についてどうお考えでしょうか。
佐藤取締役 水門の維持管理については、人が直接その場で管理する時代ではなくなっていくでしょう。一定の個所から遠隔で管理する時代になり、機械設備も一品生産でしたが、合理性を考えると標準的な機械としていく方向で技術開発が進むと感じています。
一方、水門の新設は、ほぼなくなりつつあります。ピーク時と比較すると1/4まで落ち込んでおり、市場としては縮小傾向です。ただし、IIKの親会社では水門を新設し、IIKが点検や部分的な修繕を行う、水門全般に関わる体制ですので、今後進展する「流域治水」についてもサポートできる会社でありたいと考えております。
人材採用・企業PR・販促等を強力サポート!
「施工の神様」に取材してほしい企業・個人の方は、
こちらからお気軽にお問い合わせください。