日本建築仕上学会女性ネットワークの会(熊野康子主査)は、今年で設立10周年を迎え、さまざまなイベントを用意している。創立時は安倍内閣が女性の管理職を全体の2割にするという提言など、女性活躍の推進がスタートした時期。設立後は、1年ごとに講演会、展示会、見学会、本の出版、学会誌の連載、高校生の塗装体験など、多彩な分野に挑戦し、活動の幅を広げた。
創立5周年後から、大阪地区や名古屋地区、北海道地区で活躍する運営委員が誕生し、最初は首都圏中心であった活動を全国に広めていった。今年はどのようなイベントを展開し、どのように女性社員の地位向上について注力していくかについて、女性ネットワークの会の熊野康子主査に話を聞いた。
10年間で”女性活躍”への意識も変革
――今年で女性ネットワークの会は設立10年目を迎えますが、振り返っていかがですか?
熊野さん あっという間の10年でしたね。2013年に準備委員会を発足し、今年で設立10周年を迎えることになったわけですが、この2013年は安倍内閣(当時)から「2020年に女性管理職を全体の3割にする」との提言があり、女性活躍推進が本格的にスタートした年でもありました。
設立当時、私が日本建築仕上学会の内部に「女性を主体とする会をつくりたい」と相談したところ、これから現場で活躍する女性技能者も増え、ゼネコン各社も女性現場監督の採用の動きもあり、現場で働く職人さんも女性が増えていきました。
この10年間で、少しずつ女性活躍への意識も良い方向に変わってきました。現場でも週休2日の定着をはじめようと、前向きな対応が進みつつあります。多くの会社では、私が子育てしていた30年くらい前は、女性は出産したら退職というルートも多かったのです。今では育児がひと段落すると現場に戻られる方も増えています。女性ネットワークの会のアンケートによると、実は都心部だけでなく地方でもそのような傾向が表れています。
一方、体力勝負で現場を回し続けることには限界があります。このままでは女性だけではなく、若い男性も疲弊しますので、現場のDX化をより推進し、在宅勤務でも現場が動かせるようになってほしいですし、技能者に対しても残業なしで定時に現場から下りられるシステムとしていくことが望ましい。私どもでも現場DXの講演会などを実施していますが、今後、DXが進展すれば、現在は現場で行っている書類作成業務も在宅で可能になることが望ましいと思います。
女性活躍推進なども含めて変わったことも多いのですが、まだまだ改善の余地があるというのがこの10年の総括です。

「活動パネル展 9年間の活動記録、そしてこれからの女性活躍推進のために」
徐々に女性所長も誕生し、地位向上も進む
――昨年、女性活躍推進法が改正されましたが、影響はありましたか?
熊野さん この動きは間違いなく追い風になっています。この10年間の活動においても、当初は女性に”活躍してもらう”のではなく、女性が”働けさえすればいい”という企業側の受け止め方もありました。産休や育児休暇などの制度面を整えはしても、復帰後も活躍できるような体制づくりが十分ではなかったように思います。しかし、女性活躍推進法の改正も含め、だいぶ変わりつつあります。
私たちが2015年から実施している建設業界で働く女性へのアンケートでは当初、回答者の属性は未婚女性が80%以上を占めていましたが、最新のアンケートでは60%となっており、お子さんがいる方も15%を占めています。
――この10年で女性の地位も向上したように思えるのですが。
熊野さん 女性の現場所長も、徐々にではありますが誕生しています。昔は、女性が現場所長を任されると、新聞発表するほどの大事だったのですが、今では数多くの女性所長が活躍しています。また、海外工事を担当される方も増えており、男女の区別なく活躍される場が増えていることは良い傾向だと思います。
ただし、アンケートを見てみますと、地方の作業所ではいまだに女性がお茶汲みや事務をしている現場もあるそうで、都市圏と地方での意識の差は課題であると考えています。
6月22日には都内で記念講演会
――今年の動きとしては、どのようなことをお考えでしょうか。
熊野さん 今年実施した「第5回建設分野で働く女性へのアンケート」を集大成として取りまとめています。女性ネットワークの会では2015年から隔年で、現場で働く女性へのアンケート調査を実施しており、今回で5回目となります。単年で女性活躍に関するアンケート調査を実施されているところは多いですが、同アンケートでは同様の設問で長年調査しているため、全体の傾向を分析する上で大変貴重なデータだと考えています。このアンケート結果を踏まえて電子書籍を6月下旬に執筆する予定です。
ほかにも、10周年行事として、すでに東京と北海道で現場見学会を開催し、6月8~9日に大阪で開催された「理想のすまいと建築フェア」にも参加しました。同フェアでは創立10周年を記念し、フェムテック(Femtech)とDXに関するセミナー、大手塗料会社における女性活躍推進、次世代への建築業への伝承などをテーマとした4つのセミナーとDIY体験(カフェトレーを創ろう)を開催しました。最終日の午後には、人気テレビ番組「大改造!!劇的ビフォーアフター」の匠として活躍し、現在はアーキスタジオ川口一級建築士事務所の主宰をつとめる川口とし子さん(日本建築仕上学会元副会長)を講師に迎え「現在のすまいは古いマンションをリフォームしてすむのが正解」という演題で、マンションのリフォーム事例などについてセミナーを実施しました。このセミナーはほぼ満席となりました。

川口とし子さん(左)が 「理想の住まいと建築フェア」で講演、右は熊野さん

川口とし子さんのセミナーは人気で満席。
そして、6月22日には、「10年の歩み、そして次世代の仕上技術に向けて」をテーマに、「10周年記念講演会」を東京都・台東区の東京都美術館講堂で開催します。今回は、次世代を担う、今活躍中の女性技術者3名が講演します。プログラムは次の通りです。
<プログラム>
総合司会:奥田章子さん(大林組)
(1)開会挨拶 女性ネットワークの会 主査 熊野康子さん(フジタ)
(2)講演1 関西ペイント株式会社 汎用塗料事業本部 建設第2技術部 太田伶美さん
(3)講演2 大日本塗料株式会社 開発部 技術開発第一グループ チームリーダー(課長) 鎌田由佳さん
(4)講演3 シーカ・ジャパン株式会社 TSルーフィング 織田麗さん
(5)パネルディスカッション 司会:熊野康子さん(前掲)、副司会 : 諸橋由里奈さん(マサル) テーマ:「第5回建設業で働く女性へのアンケート」結果報告
(6)10周年セレモニー
(7)閉会挨拶 日本建築仕上学会 副会長 永井香織教授
また、中学生、高校生、大学生、社会人を対象とした「みらいを創る建物」のアイデア提案コンペも開催中です。テーマは「10年後、20年後、30年後の老人福祉施設」と「10年後、20年後、30年後の仮設トイレ」です。審査委員長は、先ほど紹介した川口とし子さんがつとめます。
日本建築仕上学会では以前、設計コンペを実施したことがありますが、数年ぶりに女性ネットワークの会が主催して執り行うことになりました。個人だけでなく、グループでの応募も可能ですが、メンバーの中に女性が1名入っていることが応募条件となります。大賞は各部門に一人ずつ、次点には「未来賞」を創設し、各部門に一人ずつ表彰し、大賞にはクオカード5000円分や記念品5000円分を各部門別にお送りします。
とくに、中学生や高校生はこうしたコンペを通じて建築に関心を寄せてほしいです。応募の締め切りは9月10日とまだ先なので、ぜひ奮って応募いただければと思います。
この設計コンペは、建築への関心を中学生や高校生から関心を寄せてもらうことも狙いの一つです。大阪市の桃山学院高校では、塗装教室をこれまで4回実施しています。このような事を通じて、いつか建築を職業にしたいと希望する生徒が出てきてくれたら嬉しいですね。

桃山学院高等学校で塗装教室を4回開催(写真は第4回目のようす)
――最後に、これからの女性ネットワークの会について一言お願いします。
熊野さん この10年間、いろんな地区での活動も増え、お声がけもいただき、みなさんに支えていただいたことは本当にありがたく思っています。女性が中心になって自ら企画する機会は今でもそう多くはありませんし、企画力や行動力も磨かれます。これからも女性ネットワークの会での活動を、自社に持ち帰っていただき、生かしてもらいたいと思います。
これからも、女性ネットワークの会のHPに逐次、新たな告知もしていますので是非チェックをお願いします。
女性ネットワークの会HP:https://finex-womens-nw.jimdofree.com/
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