――このような課題を解決するために、「3Dデジタル溶接マスクシステム」を開発し、本格的に販売を開始されたのですね。
金平 徳之氏 ええ。とはいえ、溶接士の作業をそのまま写真撮影しただけでは共有できません。先ほど話した通り、大切なことは溶接者の視線にある映像をどのように共有するかです。そのためには、溶接によるまぶしい光を取り除いた上で、リアルタイムに皆が見られるようにしなければなりません。
開発した「3Dデジタル溶接マスクシステム」は、溶接士の視野目線の画像を取得し、画像合成技術により溶接のまぶしい光を取り除き、その映像を3次元化してリアルタイムで表示したり記録したりすることができます。従って、溶接中の溶接士目線の映像をリアルタイムに大人数で共有することが可能になるわけです。

3Dデジタル溶接マスクシステムの概要
また、この映像は溶接保護面内のHMD(ヘッドマウントディスプレイ)に奥行きある3D映像として表示することできるため、溶接士は従来の遮光ガラス越しで見る視野よりも広く、鮮明な画像を見ながら溶接することができます。
そのほか電圧・電流値などの各種情報も共有・録画・記録することができます。
開発を始めたときのキャッチフレーズが「見えないものを見えるようにしよう」というものでした。遮光ガラスで見えにくくなっている溶接の周囲の様子だけでなく、技能という暗黙知を”見える”ようにするための技術となっています。

「3Dデジタル溶接マスクシステム」の概要図
――「見えないものを見えるようにする」は、様々な分野で活用できる考えですね。
北川 悟氏 今回はたまたま溶接でしたが、この開発で溶接士の視野映像を可視化できたことで、工場での教育・技能のレベルアップ、教育機関での学習にも技術を転用できると考えています。
企業や教育機関への納入に期待
――訓練校に納入されたとのことですが、反響はいかがですか?
北川 悟氏 実際に使用いただいたときの写真がこちら(写真2)ですが、溶接指導者が自分で行った溶接を50インチのディスプレイを使って、これだけの大人数に対して一度に教えている様子です。多忙な先生にとっては、大人数で教えられることに加えて、機材そのものも簡単に設置できるため、高く評価いただきました。

録画での解説内容を食い入るように見る生徒たち(写真2)
訓練生からしても、恐らく普段見たことがない映像でしょう。暗黙知も見える化したことで、技能自体の魅力も伝えられるのではないかと期待しています。
――これからどのように拡販していかれるのでしょうか。
北川 悟氏 今回のような訓練校、工業高校や高専への導入のほかにも、企業の溶接工の育成、レベルアップへの活用にも期待しています。「3Dデジタル溶接マスクシステム」は溶接者の画像を取得するだけでなく、画像から溶接者の技量を評価する機能を付加しています。建築・土木業、造船業に加えて、建機メーカーなどでも溶接教育が行われていますが、こうした企業に対して溶接の技能教育だけでなく、溶接士の溶接状態の評価にも活用いただき、次の学習のフィードバックにもつなげていただければと考えています。
技術研究所の役割は未来見据えた価値づくりにある
――最後に、川田テクノロジーズ技術研究所の役割についてお話をうかがえますか。
金平 徳之氏 技術研究所の役割は大きく変化しています。川田テクノロジーズは川田グループの持ち株会社であり、技術研究所はどこの事業会社にも属していません。
各事業が求めている技術は各事業会社が担当しますが、技術研究所は少し遠い未来、10~20年後の先を見据え、特定の技術にこだわらない価値をつくりあげていく役割を担います。
――現在、研究している内容でお話しできるものがありましたら教えてください。
金平 徳之氏 今、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の仕事として、CO2をプラズマにより分解する技術開発を国立大学法人東海国立大学機構 岐阜大学と共同で進めています。
ほかにも、株式会社オリィ研究所(東京都・港区)と共同研究を進めています。これは、ロボットを使って、寝たきりになるなどして外出できない方の社会復帰を促すような技術開発です。川田グループでは、オリィ研究所が2022年にオープンした「分身ロボットカフェ DAWN ver.β」(東京都・中央区)にも協賛・技術協力しており、このカフェでコーヒーを淹れるロボットは川田グループが開発したものです。
社長の川田も「ロボティクス トランスフォーメーション(RX)」への強い意欲を持っており、将来的にはロボットを建設業界に活用することを視野に入れています。
人材採用・企業PR・販促等を強力サポート!
「施工の神様」に取材してほしい企業・個人の方は、
こちらからお気軽にお問い合わせください。