西松建設は、高精度の「生産設計BIMシステム」を構築し、物流施設5プロジェクトの物件で適用している。同システムは、熟練技術者の暗黙知を形式知化し、BIMシステムに落とし込む点がポイントだ。設計と施工の連動性を強化し、精度の高い施工図作成や効率化を可能とする。さらに、着工前の早期段階で顧客要求の実現性や施工の成立性を見極めることで、着工後の調整や手戻りを削減する効果も期待できるという。
中でも、特に大きな効果は、施⼯検討項目の90%を設計段階へとフロントローディング(業務の前倒し)が可能になる点だ。また2030年には施工図を不要とする生産設計BIMの構築を目指す。今回は、西松建設のBIMやDX戦略、デジタル人材の養成や獲得について、同社建築事業本部 生産設計プロジェクト室長の濱岡正行氏、同本部 意匠設計部 BIM推進室課長の岩崎昭治氏、DX戦略室 DX企画部 DX企画課課長の小原澤義久氏が解説した。
熟練技術者から徹底ヒアリング。暗黙的ノウハウを活用
それぞれの解説者の部署については、2020年に設立した生産設計プロジェクト室は、BIMにより施工図をフロントローディングし、現場展開を図る役割を担う。BIM推進室は建築事業本部意匠設計部の中に置き、その下に設計と施工のチームを設置した。DX戦略室は建築・土木関係の境がなく、全社のDXを会社全体としてどう進めるかを検討する社長直轄の部署として設置。DXは建築BIM、土木CIMと大きくかかわるため、両部署と連携して動いている。

西松生産設計BIMシステムを実践適用した施設概要
西松建設は2023年8月に「精度の高い施工図をBIMから自動出力するシステム」を現場への適用開始をリリースした。2024年度にはすべての物流施設プロジェクトに加え、集合住宅など他の建築物にも適用、2027年までに設計BIMと連動した生産設計BIMを、生産設計・工事計画・施工領域までに適用。さらに2030年までには施工図を不要とする生産設計BIMの構築を目指し、より早くより安く成果物をユーザーに提供し企業価値を高めていく考えだ。
今回、西松建設は野心的なシステムを構築したが、ポイントは下記の4点にあると解説する。
- 熟練技術者の暗黙的ノウハウが判定式やロジックへと形式知化されたデータとして実装された設計と施⼯の連動性を強化したシステム
- 施⼯検討項目の90%を設計段階へフロントローディングして決定する業務プロセスに沿って、施工図レベルの情報を集約したBIM を活⽤し熟成することで、建築設計と同時に施⼯成⽴性を考慮した精度の⾼いBIMを早期に構築できる
- BIM上での設計・施⼯検討の情報連携や半自動図面化ツールによる、加筆修正を最少にした施⼯図の出図が可能になる
- 熟練技術者の暗黙知やノウハウを形式知化された、約900項目に及ぶチェックリストやBIMのアドインツールとして活用することで、経験値に依らない業務レベルの平準化や若手の技術⼒向上が可能となる
通常、施工図の検討はベテラン技術者が自らのノウハウをもとに図面にしていくが、担当者によってバラつきや経験の差が生じてしまう。そこでシステム構築にあたっては、ベテラン技術者が検討している内容を徹底してヒアリングし、チェックリストとしてまとめた。このリストに基づいてチェックをしていけば、ノウハウの7~8割は獲得できることになる。チェックリストの項目には、現場で確認すべき点とその時期を明記。これまで100%施工段階で実施してきた作業の90%を前倒しで実施できるフローを構築した。

従来の業務と変革後の業務の流れ
「今の現場では、一度私たちが着工時に図面を出した後、変更があれば現場で2D施工図を修正する体制としています。その変更情報を生産設計プロジェクト室に戻し、後追いでモデルを修正する体制に変更しました。最初の1~2物件では苦労しましたが、図面品質や新たな活用方法が見えてきているところです」(濱岡室長)と、今後の高い可能性を示唆した。
現在5プロジェクトで施工図のフロントローディングを展開中だが、「活用目的に応じて、まずは正しいモデルを作成していかなければなりません。一番ハードルが高いのは施工図のモデルで、まずはこの点に注力しました」(濱岡室長)という。
「施工図に付帯する図面、例えば根切図もロジックで組むと自動で出力できるようになります。次に、根切モデルを使うと、数量・土量を計算できます。また、根切モデルの情報をそのままデータをICT建機に流せば、墨出しをする必要がなく、根切りがすぐできるようになります。さらには正しい生産設計モデルとコストや工程などの情報が連携できるようになれば、施工計画で工程やコストシミュレーションという精緻な部分もできるようになっていくでしょう。さらにこれらのデータを活用すれば、施工管理や検査でも利用でき、精緻なモデルがあればロボット施工やプレハブ化にも適用可能で、将来はこの点でも一気通貫での導入を目指したいと考えています」(濱岡室長)と、今後の大きな方向性を示している。

施工図及び施工の情報を集約したBIMモデル(生産設計モデル)から、加筆修正を最少とする施工図を自動で入力
繰り返しになるが設計と施工をつなぐ施工図の検討では、ベテラン技術者の暗黙知に頼っていた。ゼネコンは設計・施工一体で受注しても、業務の実態上は両者が分離しており、着工してからはじめて図面を設計側から渡され、施工図を作成する作業に入る。その間、調整や顧客要求を具現化するため、施工開始ギリギリになってようやく施工図の承認が得られるのが実情だ。施工図は、建築物全体での顧客要求・品質・コスト・工期面での実現性担保において重要な図面であり、早期での施工検討の精度向上は⽣産性に直結する。しかし、設計図から施⼯図への非効率な転記、検討漏れや複数図面に同様の修正を図るといった手戻りや調整が多く、さまざまな課題があった。

一気通貫での展開イメージ
そこで生産設計BIMシステムを適用することで、これらの課題を解決する。着工までの猶予準備期間を確保が可能になると、資機材の発注にもゆとりが生まれる。精度の高い施工図をBIMから自動出力できるようになれば、生産性向上に大きく寄与することに期待される。
このようなプロジェクトは絵に描いた餅にならないよう、外勤と内勤が一体となって自分事として取組を進めていくことが重要です。
西松はゼネコンの中でもDXに前向きなイメージがあります。
業界を巻き込んだDX推進を期待しています。