グループ2社が合流した背景
大和ハウス工業は、2020年に同社が建設する全ての商業施設や事業施設の設計業務でBIM化が完了。現在、施工や見積業務でもBIM化を進展、2021年7月からオンラインで建材を選定するクラウド管理システムを持つトラスとBIMの連携を開始している。今回、BIMの利活用を目指す上で、パソコンやHMDなどを使用してメタバース体験ができる、企業向けメタバースプラットフォーム「WHITEROOM」を展開する南国アールスタジオとBIMの連携を行い、2社のシステムを合流することで「D’s BIM ROOM」の開発に至った経緯がある。この経緯をもう少し詳しく見てみよう。
南国アールスタジオが展開する「WHITEROOM」は、ビジネス分野でのメタバース活用に着目したプラットフォーム。自宅、オフィス、工場などさまざまな場所にいる人々が「WHITEROOM」が作成した空間にアバターとして入り、コミュニケーションが可能になる。「ネットワーク環境さえあれば、アバターとして空間に参加でき、仮想オブジェクトなどを共有し、コミュニケーションを実現できる」(秦 勝敏社長)

企業向けメタバースプラットフォーム「WHITEROOM」の概略
「WHITEROOM」は2022年10月リリース以来、主に製造業や大学病院など先端的な取組みに採用されてきた。「デジタルデータを気軽にバーチャル空間に取り込める点と、どこからでも複数人で参加できること、さらに自分が参加している現場の状況を遠隔地のユーザーに伝えられることが容易な点が大きな特長といえる」(秦氏)
こうした「WHITEROOM」のメリットを大和ハウス工業が評価し、「D’s BIM ROOM」に合流することとなった。
トラスは、建材にフォーカスをあててサービスを展開しているIT企業で、主に建材選定管理システム「truss」を運営している。この「truss」はメーカー横断で検索できることと、建物を造るときにどの場所でどの材料を使用するかを関係者全員で共有しながら、管理するサービスとなっている。
同社は2023年4月に大和ハウスグループに参画。「truss」の機能とBIMモデルの連携について大和ハウス工業とともに開発し、その機能を土台にして「D’s BIM ROOM」への合流につながった」(久保田 修司社長)

クラウド建材管理システム「truss」
建設DXのメビウスループで建築の工業化を進化
「D’s BIM ROOM」の記者会見では、大和ハウス工業上席執行役員技術統括本部副本部長の河野宏氏が建設デジタル戦略について解説した。大和ハウス工業の歴史を紐解くと、ステップ毎に取り組みを拡張し、DXを実現した様子が分かる。建設DXの推進プロジェクトと組織の変遷では、まず2017年4月にBIM推進室(5名)を発足し、BIM構築を開始。翌年4月にBIM推進部(24名)に昇格、全社的にBIM展開を目指した。さらに、その翌年4月にデジタルコンストラクションPJ(51名)を設立し、デジタルコンストラクションをスタートしている。「コロナ禍前であったが、デジタルを通じて働き方改革にしっかり取り組むプロジェクトだった」(河野氏)
2020年4月には建設デジタル推進部(98名)を発足し、設計・施工・工場の省力化・無人化をミッションとした。2022年4月には建設DX推進部(2023年7月現在、263名)が発足し、デジタルコンストラクションからデジタルトランスフォーメーションを目指している。こうしたBIMの取り組みにより、「約4万件のBIMデータが蓄積されており、このデータをICT設計・施工で活用し循環していく時期に入った」と河野氏は語る。
建設DX推進部には「BIM」と「デジタルコンストラクション」という2つの大きな取り組みがある。建設プロセスでのデジタル戦略はBIMから始まり、BIMでつくられた建物情報は、設計から製造・施工・維持管理へと連携し、建物データベースやそのデータを共通で取り扱う共通データ環境を通じてデジタルコンストラクションプロジェクトへと連携する。

建設プロセスにおけるデジタル戦略のメビウスループ
デジタルコンストラクションでは予知・予測型遠隔管理や設計・施工のICT化、次世代建築へとつながっていく。そのデータはBIMに戻り、AIやビッグデータ解析などで維持・継続される。そのイメージ図として、建設プロセスにおけるデジタル戦略のメビウスループを描く。
「このメビウスループを何回も回すことで、創業以来培ってきた”建築の工業化”をさらに進化していく」と河野氏は力説した。
持続的成長モデル構築でビジネスモデル変革へ
DX戦略では、「守り」(生産性向上・業務効率化、自社でコントロールできる革新的なテーマ)と「攻め」(収益力向上、新規事業創出、顧客を中心とするステークホルダーを巻き込むテーマ)の両軸で進め、持続的成長のモデル構築のためにビジネスモデルを変革していく考えだ。

DX戦略は「守り」と「攻め」の両輪で展開
「当社は”建築の工業化”を目指しており、建設プロセスのデジタル戦略でのメビウスループを回していかなければならない。その中にメタバースという技術も組み込まれていく」(河野氏)
「いわゆる3K(きつい、危険、汚い)という言葉があるが、若い人財がやりがいを持って臨める要素としてメタバースがある。手書きで何回も書き直したり、打ち合わせのために現場を何往復もしたりする場面では、メタバースを活用することにより効率的に働くことができる。若い人財が建設業で働きたいと思える業種に転換していきたい。今、当社のBIM、DX領域については若手がけん引しており、現場を次々と変えている。上層部も理解し、全体の意識改革が進んでいる」(吉川氏)
今、建設業界は人手不足、働き方改革、女性活躍、人材の高齢化など課題は多岐にわたる。課題先進業界と言ってもよい。企業の持続成長モデルが問われている中、BIMやメタバースが果たす役割は、今後も強まっていくだろう。