わずか11年でグループ年商が23倍の56億円となった、驚異的な成長を見せるサブコンが愛知県⼩牧市にある。
株式会社キョウエイ(愛知県⼩牧市)は、社長である河野誠⼆氏が父からの勘当を機に、若干18歳のときにデッキ⼯事の親方として独立し、1999年に法人化。以降はスタッド⼯事や鋼製型枠⼯事にチャレンジし、今では近接工種であるスタッド⼯事や鋼製型枠⼯事、⾦物板⾦、ワイヤーメッシュなど多岐にわたる工事を手掛けるサブコンとして事業を拡大中だ。
この成長を支えるのが、河野社長が大切にしている「共に⽀えあい、共に成⻑し、共に栄える」という企業理念。経常利益の20%を社員に還元するなど、徹底した”社員ファースト”による福利厚生制度の充実により、採用市場の厳しい専門工事業界において、人材の定着・採用に成功し、今や200人規模の施工体制を整備。グループ年商は56億円を誇るサブコンへと成長した。
「2040年までに、日本一の福利厚生を目指す」と語る河野社長の言葉から、目前に迫った「建設業界の2024年問題」の処方箋が見えてきた。
16歳で父から勘当され、3か月後に独立
――建設業界での起業の経緯を教えてください。
河野誠⼆社長(以下、河野社長) 中学生のときに集団無視を受けて、高校にもなじめず中退して当時の生活は荒れていました。建設会社を経営していた父は、昭和初期の典型的な頑固一徹の九州男子で、私の姿を見かねて「(地元の)大分から出て行け」と16歳で勘当されて、知人の紹介を頼りに17歳で名古屋の専門工事会社に勤めはじめたのが建設業界で働くことになったきっかけです。
その後は板金工事に半年間ほど携わっていたのですが、当時の日当は1万円で「安すぎる」と不満を持つようになって、「職長たちと仕事ぶりは変わらないんだから、1万3,000円もらってもいいだろう」と社長に直談判したんです。社長も「うちには5人の親方がいるから、全員に認めさせたら1万3,000円にする」と根負けしたので、ついていた親方から一度離れて、他の4人の親方のもとに応援に行ったんです。結果的に全員の親方に認めていただき無事1万3,000円に昇給したのですが、応援に行っている間に携わったデッキ工事が、すごく自分の肌に合ったんですよね。
それから、5人の親方による体制から11班に拡大することになったタイミングで、私は親方になりたいと手を挙げました。社長からは「まだ早すぎる、無理だろう」と一度は断られましたが、粘って直談判を繰り返したところ、「そこまで言うならやってみろ」と背中を押していただき、デッキ工事のノウハウを覚えてから3か月で親方になって、「共栄建⼯」という屋号で請負を開始しました。これが18歳のときですね。
とはいえ、技術的なおさまりなどは覚えていたのですが、道具の管理や打ち合わせはまったくできませんでした。当初は失敗の連続で、取引先からも怒鳴られる日々でした。皆さんの力を借りてなんとか現場は終わらせることはできましたが、社長からも「ほらみろ。3か月で親方がつとまるわけないだろ」なんて怒られましたね。
それでも、「今回いろいろな失敗をしたから、次からは同じ過ちを繰り返さない」と心機一転して、横浜の現場で経験を積み、1999年に愛知県小牧市で有限会社として法人化し、2003年に株式会社キョウエイに組織変更しました。
あらゆる専門工事を手掛ける”スーパーサブコン”へ
――今ではデッキ工事に加えて、スタッド⼯事・鋼製型枠⼯事・⾦物板⾦・ワイヤーメッシュなど、多岐にわたる専門工事業者として成長されましたね。
河野社長 当初はデッキ工事で独立しましたが、常にこの仕事があるわけではありません。名古屋はトヨタ自動車のお膝元ですが、工場建設により需要が一気に増えることもあれば、逆に減ることもあって、仕事の増減が激しい地域なんです。社員の生活を守るためには、やれることを増やしていかなければなりませんでした。
そんなとき、テレビ東京の「カンブリア宮殿」で静岡県の株式会社平成建設さんが取り上げられていた回を観ました。協力会社や下請けがいない中で、現場監督がバックホウに乗り、建具や大工の仕事をするなどの仕事をしながら多能工として働いていたんです。これなら工期が短縮できますし、工事に無駄がなく低コスト化も実現できるので、「これだ」と思ったんです。それからデッキ工事の隣接工事にも進出したことで工事量を減らさずに会社を運営することができましたし、デッキ工事しかできなかった時代は1棟の受注金額が1000万円に留まっていたのが、多能工化により3000~5000万円の仕事を受注できるようになりました。
少子高齢化のトレンドは続きますから、今後は新築ビルの建築工事は減少に転じていくでしょう。しかし、やれることを増やしていけば、人口減少下でも生き残っていくことは可能だと考えています。これからは鉄骨加工や鉄筋工、型枠工のほか、隣接業種会社をM &Aでグループ会社に入れて加工から工事までワンストップで展開できる”スーパーサブコン”へと成長していくつもりです。
――社員を集めるために、キョウエイではどのように取り組んでいますか。
河野社長 建設業が現場仕事である以上、働き方改革やICT施工が進んで多少緩和されたとしても、本質的に3Kであることは変わらないでしょう。しかし、災害の多い日本において、建設業界は最も大きな責任を担っている業界です。そんな大切な仕事なのに、給料に反映されていないことが問題なんです。
そもそも、きつい仕事であれば、給料が高いのは当たり前の話です。バブルのときに多くの人材が建設業界に集まったのは、賃金が良かったからです。技能者が離れたのは、バブルが崩壊し、給与が大幅に下落していく中で、コンビニで働いて得られる給与と差がなくなったからです。人を集めるためには、仕事に見合った給与を支払うことと、福利厚生をしっかりしていかなければなりません。
なので、キョウエイでは「社員ファーストの組織づくり」を心がけています。キョウエイという社名には、「共に支えあい、共に成長し、共に栄える」という企業理念が込められてます。私自身、中学1年のときに集団無視を受け、弱いものいじめにもあいました。その後は父に勘当され、17歳で地元を出ました。それでも、たくさんの方に温かい声をかけていただき、毎日の仕事が楽しくなりました。仕事を好きになると、みんなに認められたい、信頼してもらいたいという想いも強くなり、だからこそ今日まで頑張ってこれました。これが私の仕事に対する原点であり、「社員ファースト」を目指す理由です。
「2:3:5」の黄金比率で、利益の2割を社員に還元
――具体的には、どのような”社員ファースト”の取組みをしているのでしょうか?
河野社長 給与については、同業他社よりも平均年収で10~20%ほど高いと思います。2022年は技能者の給与を月5万円上げ、最近の物価上昇のトレンドも受けて、今年7月からは技能者以外の社員の給与を最大10%引き上げました。2025年には初任給の引き上げを予定しています。
2024年4月から建設業界でも働き方改革関連法が適用されることは前々から分かっていたことですから、会社として率先して待遇改善に取り組む姿勢を社員たちに示すためには、来年から賃金を上げるのではなく、今のうちから給与を引き上げていくことが大事だと考えています。
また、隣接業種を増やして得た利益の2割を社員に還元しています。つまり、5000万の利益なら1000万、1億の利益ならば2000万、5億の利益なら1億円です。当社では8月の決算後の10月末に決算説明会と経営計画発表会を開催し、全社員へ貸借対照表や損益計算書も公開して、経常利益の2割を社員に還元し、3割は税金支払いにあて、残りの5割は内部留保に回します。会社が儲けすぎてもダメ、社員に払いすぎてもダメで、この「2:3:5」の比率を当社では「黄金のバランス」としています。
利益を何に使うのかについては、社員全員で決めていきます。たとえば今期は出張手当の支給額アップの要望が強かったので、これまでの1,500円から3,000円に引き上げました。過去には、社員からの提案で、接待ゴルフの練習用にオフィス内にシミュレーションゴルフ施設も設置しましたね。会社として、どのようにお金を使っていくのかを社員全員と共有し、考えていくことが大事です。
もちろん、「利益がでなかったらできないよ」とは伝えています。ただ、仕事がキツくても、その分給料がよく、働く環境もいいという会社が理想です。
――2024年4月に向けては、他にどのような取組みを進めていますか?
河野社長 また、法規制によって4週8休になると、稼働日は約15%減少しますし、会社としても売上が約15%減少するので、各ゼネコンに対して請負金額の15%アップを要請しています。
また、これまで技能者は日給月給制でしたが、これを月給制に改めます。年間休日は126日に設定し、減少する稼働日分は休日手当の3~4割程度を月給に充てることを検討しています。社員にもヒアリングしたところ、おおむねこの運用で賛同を得られているところです。
また、稼働日が減れば、日々の業務量も増えます。なので、工務管理や営業の仕事を細分化し、業務を棚卸ししました。業務の難易度に応じて10段階に分け、新入社員や総務部でも対応できるものであれば、部門の垣根を越えて助け合える仕組みを整備しています。例えば、総務部にはデッキ工事に関する書類の作成や工務の日程調整などを行ってもらっています。最終的には、全社員が夜7時までに必ず帰宅できるような社内体制の構築を目指していきます。
完全無礼講でZ世代のホンネを聞き、離職防止へ
――社員の声を聴く機会はどのように作っているんですか?
河野社長 2023年9月から、3か月に一度、新入社員が講師になって幹部社員が話を聞く場を設ける「逆メンター制度」を始めました。通常のメンター制度は、先輩が後輩を指導しますが、逆メンター制度ではZ世代の新入社員が幹部社員に対して働きやすい職場環境について話してもらって、逆に私たち幹部社員が学んでいく場としています。
この制度を始めたのは「この言葉を言われるのが嫌いです」「もっと厳しく指導されたほうが伸びるタイプです」「もっと褒めてください」など、Z世代の考え方、ホンネを聞きたかったからです。
最近では、「もっとキャリアアップしたいけど、この環境では成長できないので辞めます」と退職する若手が増えているとのニュースも見かけますが、これは若者をまるで腫れ物にさわるかのように指導をした結果、彼らが本当は何を考えているのかを会社側が正確に把握できていないことが理由だと考えています。この場では”完全無礼講”がルールで、心を開いて話してもらう雰囲気作りにつとめています。
また、半年に1回、社長と担当役員との3者面談や、上席と個別に行う1on1ミーティングを通して、個人ビジョンの達成を会社と共に目指していきます。社員それぞれにライフプランシートを作成してもらい、1年後、5年後、10年後にどうなりたいのか、家庭ではどうありたいのか、会社ではどうありたいのか、給料はどのくらい欲しいのか、自己啓発、挑戦したいことはないかなど、一人ひとりの志向を把握し、その目標を会社として全力で応援していきます。
例えば、出世を目指す社員には管理職コースを提案したり、給料よりも休みを重視していたり、重い役職や責任を負わずにゆとりをもって働きたい社員には別のプランを提案していきます。
社員の独立を全力サポートし、施工体制をスピード拡大
――キョウエイでは、積極的に独立も支援していますね。
河野社長 「自分の能力を活かし、独立したい」と考えている社員も一定数います。なので、「独⽴⽀援・キャリアアップ制度」を導入し、独立も全力でサポートしています。
職長を経験した社員には、「管理職」「独立」の2つのコースを提示して、将来なりたい自分像と丁寧にすりあわせていきます。管理職コースを進めば、年収1000万円も目指せますし、退職金も保障されます。一方で、独立すればそれ以上に稼げる可能性もありますが、その分リスクも大きくなりますし、人も集めなければなりません。独立したのに一人親方のままで「社員のままでいればよかった」と後悔してほしくないので、必ず独立のメリット・デメリットを伝えています。
その上で、独立を希望する社員に対しては独立までのルートを共に話し合い、請負ができる環境を整えます。ですので、独立といってもほぼ当社の専属となり、仕事は当社から安定供給するので、自ら仕事を受注する必要がなく、営業面のハードルも下がります。
現在では8名の技能者が独立し、そのうち7社が法人化しました。法人化し、約50名の技能者を抱えています。もちろん、残っていただければ幹部社員となって会社を支えてくれていたかもしれません。でも、一方で給与体系が合わずに退職していたかもしれません。自分の会社ができれば、自社の社員ができるので、より責任感を持って頑張れますし、何より当社との繋がりも続きます。
建設業界全体では協力業者の確保が難しくなっていますが、個人を応援することが結果、会社の成長にもつながっていくんです。だからこそ、一人ひとりに多様なキャリアパスを提示し、それを達成するために必要な利益はどれくらいになるのかを計画立てて、社員に共有することが大事だと考えています。
2040年までに”日本で一番、福利厚生のいい会社”へ
――しっかりと福利厚生を整えれば、応募者にもしっかり伝わるんですね。
河野社長 建設業界の中でも、とくに専門工事会社の採用市況が厳しいと言われていますが、この3年間で約20名の採用ができています。新卒についても今期は2名、来期は大卒2名、高卒2名の採用予定で、徐々に福利厚生や待遇が学生間にも広がっていると感じています。
現在、グループ含めて社員は約50名で、このほかにも先ほどお話した当社から独立した社員が作った法人メンバーが約50名、彼らとは別の協力会社も100名抱えており、施工力としては200名規模に達する専門工事会社となりました。
今後は、2040年までに何か一つでも”日本一、福利厚生がいい会社”を目指して、社員と共に成長していきます。
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