あなたを時間まで使う権利がある
ある程度、解体作業にメドがついたところで、「よし、ここで一息入れよう」と、私と若手の2人は作業の手を止め、現場近くの喫煙場所でタバコに火をつけた。時間は、朝の9時40分である。
そのとき、近くで私たちの作業を見ていたK監督が私に向かってこう言った。
「まだ、休憩時間ではない!」
すぐに作業に戻れと言わんばかりの剣幕だ。
「いいんだよ。今、一息入れているんだから……」と言う私に対して、K監督は「私には、あなたたちを時間まで使う権利がある」と言い返してきた。
次の瞬間、私の体は宙を舞っていた。「ふざけるな!」という怒鳴り声と同時に、跳び蹴りを彼の腹部にお見舞いしてやった。
倒れて苦しそうに転がり、うなるK監督に対して、「お前、この汗が目に入らないのか?」と私。私と若手2人の上着は、噴き出す汗でビショビショなのだ。
職長の職務の中で、作業員の健康管理はとても重要だ。作業員が無理をして仕事をし、熱中症にでもなったら、現場にも関係者にも大変な迷惑がかかるし、生命の危険もあるのだ。
今まで監督らしい仕事を何一つできないK監督を、いろいろと面倒見てきてやった私に対する、「私には、あなたたちを時間まで使う権利がある」という彼の一言は、私の心に怒りの火をつけた。苦しむ彼をしり目に、私はその足で事務所に向かい、S所長のところへ怒鳴り込んだ。
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建設現場で人を動かす力とは?
「所長、どういうことなんですか?」
私は経緯を説明し、現場所長としてしっかりと指導してほしい旨を訴えた。S所長は深々と頭を下げて「申し訳ない。今後、しっかりと指導します。勘弁してやってください」と、鳶の一職長である私にあやまった。
このS所長は、高卒で苦労の末、大型プロジェクトの現場所長まで成り上がった人物。やはり、できた所長は違う、まさに「実るほど、頭を垂れる稲穂かな」と思わせられた一瞬だった。
所長に頭を下げられた私は気分も晴れて、他のメンバーの作業状況を確認しに行き、さっきの出来事をみんなに伝えた。それを聞いたメンバーたちは一様に驚いた様子で、一瞬沈黙した後、口々にこう言った。
「現場監督に蹴りを入れるなんて、自殺行為だよ」
「明日には、現場をクビになるんじゃないの?」
みんなは今後のことを詮索し始めたが、私自身は何の心配もしていなかった。翌朝、朝礼会場で所長が私を探し出し、「昨日は迷惑をかけました。Kくんに謝りに行くように昨日、話しておきましたが、謝りに行ったでしょうか?」と聞いてきた。
「いいえ、まだ来ていません」
「そうですか、また、本人には言っておきます」と所長。その姿勢に「わざわざ、ありがとうございます」と言うしかない私でした。
人を動かす力とは、監督という権威や権力を振りかざすことではない。あるいは、血の通わぬ指示書で命令するものでもない。みんなの心を考え、具体的に細かい配慮ができる人。人一倍苦労してきた人。そんな人に、本当の人を動かす力は自然に備わるのだと思う。
みなさん、今日も現場で、血の通い合った、何でも話し合える職場環境づくりに、共に挑戦してまいりましょう!
※編集部注:当記事は決して暴力を推奨していません。「施工の神様」は現場の失敗とノウハウを共有するWebメディアです。編集部としては、この事例が皆様の糧になれば幸いと考えています。
権力を振りかざす世間知らずの勘違い野郎どもは本当に消えていただきたいです。