1967年の会社設立以来、日建リース工業株式会社(関山正勝会長 ・金子弘社長)は建設用仮設機材レンタルを通して建設業界を支えてきた。他社を圧倒的に凌駕する大量で、多様な機材の保有と全国にわたる基地網の整備を重要戦略とし、現在では国内75か所の機材供給ヤードを持ち、国内最大規模の仮設機材総合レンタル企業へと成長した。
また、現在、主流となっている新世代クサビ緊結式足場では、同社の「ダーウィンシステム」が国内供給量では最大手となり、多くの現場で採用された。そんな時、日建リース工業の次の一手が2024年4月に公表された。BIM/CIMについては、これまで技術安全本部の技術システム部が担当していたが、「先端仮設BIMCIM本部」を新たに設置し、本部長には小川浩氏が就任した。当時、関山社長(現会長)は同本部を名付けた際、「先端」にこだわり、圧倒的トップを目指すことを小川本部長に指示したという。
今回、BIM/CIMへの取組みについて日建リース工業営業本部先端仮設BIMCIM本部本部長の小川浩氏に話を聞いた。
技術システム部から先端仮設BIMCIM本部へ昇格
――先端仮設BIMCIM本部では、どのような取組みを行っているんですか?
小川浩氏(以下、小川本部長) 先端仮設BIMCIM本部の名称となったのは2024年4月からです。それ以前は、技術安全本部技術システム部という部署でBIMを担当していました。私たちの本部は、当社のBIM/CIM推進だけでは無く、建設業界に根付かせることも目的としています。BIM/CIMは当社だけではなく、建設業界全体で推進しなければ普及しません。とくに施工分野での普及には、仮設分野での普及も外せません。それに合わせて社内的にシステム開発を行って、社内でのBIMモデルを作成するためのアプリをつくり、生産性向上につとめています。当本部の役割をまとめますと、BIM/CIMでの当社の宣伝と業界への普及推進、社内システムの開発・メンテナンスになります。
――BIM/CIM推進にあたり、トップの方から何かメッセージはありましたか。
小川本部長 2013年に、多くの建設会社の現場サイドに「仮設計画にBIMは必要か」とのアンケートを実施したところ、70%が「不要」との回答がありました。その際、仮設計画ではBIMは需要がないのかと思いましたが、翌年に関山社長(現会長)から呼ばれて、「これからはBIMを視野にシステム開発に取り組んでほしい」との示唆を受けました。
私も取引先との会話でBIMという言葉は知ってはいましたが、当時はまだ”施工BIM”という言葉がない時代で、足場リース業にBIMが広がっていくイメージは持っていませんでした。関山社長(現会長)は、ゼネコン各社とネットワークを持っていたので、当時からBIMの重要性をキャッチしていたんだろうと想像しています。
また、その頃、(一社)日本建設業連合会(宮本洋一会長)から『施工BIMのインパクト』が公表され、「施工では足場が必要だから、BIMも大きなニーズがある」と確信し、本気で取り組むようになりました。
そして、それからの10年間は少しずつ人数を増やしながら、細々と実施していましたが、2024年4月から先端仮設BIM/CIM本部に昇格しました。本部名の頭に”先端”が付いていますが、これは関山社長(現会長)のこだわりで、「やるからには、最先端のことを行って、BIMの世界で圧倒的トップを目指しなさい」という言葉もあり、名称も関山社長(現会長)が名づけました。
BIMでも圧倒的トップを目指す
――仮設業界最大手として、BIM/CIMの普及への思いも強いのでは?
小川本部長 本格的に本部としてスタートしたからには、同業他社には負けられません。今、同業他社も当社とほぼ同じような取組みを展開しているはずで、その取組みをどこがいち早く世に出すかが問われています。
ただし、BIM/CIMはアプリケーションを含めて最終的にはどこが実施しても同じことができるようになる世界です。建設業界全体に広めることで顧客の業務の生産性が向上し、仕事が楽になります。仮設での積算業務では数量拾いが一番ネックになりますが、BIM/CIMを推進することで効率化します。せっかく本部を立ち上げましたから、やれることはすべて行い、業界のスタンダードになれば、顧客や当社にとってもウィンウィンの関係になります。
――数量拾いのどの部分がネックになるのでしょうか。
小川本部長 2次元図面から数量拾いをすると、細かく行うと必ず間違えますし、10人いれば10通りの数量が出てくることも珍しくありません。今は残業制限がありますから、現場の方が数量拾いをすることも難しい。これは当社だけではなく、仮設業界全体の想いとしてあります。3Dであれば間違えることはありませんから、仮設業界ではBIM/CIMの導入が進展しています。

数量拾いの課題により、仮設業界でBIM/CIMは進化した
WEB上でBIMモデルを閲覧し、数量拾いも実現
――今、具体的なサービスとしては、どのようなものがありますか。
小川本部長 点群スキャニング、仮設計画モデリング、仮設材Web発注システム、クラウド型施工管理ツールなどのメニューがあります。点群スキャニングは、たとえば建物が古すぎてCADのデータがない、またはプラントなどで図面と違う配管が設置されている場合など、現状を確認しないと仮設材を配置できないケースに、3Dスキャナーを用いて、現状の状況を撮影して、そのデータをもとに仮設材を配置していくものです。
次に、当社の仮設材を用いて、現場に合わせた仮設材の計画を行うのが仮設計画モデリングです。また、日建BIM/CIM施工管理ツールの「Nikken コネクト」はWEB上でBIMモデルを閲覧し、そこで数量拾いを実現できます。BIMでの閲覧にはハイスペックなパソコンや専用のオペレーターが必要になりますが、「Nikken コネクト」であれば低コストでBIMを導入できます。さらには施工管理も色で見える化し、たとえば発注済みは青、納品済みは緑、解体済みは赤で今どこまで進捗しているか、色別で把握します。また、ビュー保存機能により、数量の拾い出し部分や注意すべき危険箇所をサムネイル保存すると、素早く表示でき、現場での朝礼などにも活用できます。これらのBIM/CIMモデルはクラウド上に保存して一元管理しており、工事関係者などで共有しています。

「Nikken コネクト」はクラウド型サーバーで一元管理

「Nikken コネクト」での識別把握
今まで、どこにどれだけの仮設材が必要になるかは2次元図面からの手拾いで、いかに素早く拾うかがポイントでした。「Nikken コネクト」ではWebでの活用ですので、とりあえず現場を囲えば数量を算出できるだけでも大きな進歩で、算出した数量をもとに仮設材Web発注システム「日建ダイレクト」との連携も可能で、ネットショッピングのように仮設材を発注することができ、現場と当社の仕事の生産性はかなり上がりました。

仮設材Web発注システム「日建ダイレクト」との連携
――ちなみに3Dモデルはどちらで作成されていますか。
小川本部長 全国に40名弱のBIMメンバーがおり、ベトナムやミャンマーにも3Dモデルを作成するメンバーがいます。日本のメンバーは現場との調整役を担うことが多いですね。海外のメンバーがモデルのたたき台を作成し、日本のメンバーはそのたたき台を修正しつつ、現場と打ち合わせをし、もし修正があれば、日本と海外のメンバーが協力して直します。
――現場からは2次元図面の要望もあるのでは?
小川本部長 今の段階では図面は絶対に必要です。現場サイドは図面の要望も高く、労働基準監督署へも図面提出が求められています。もし、提出類すべてがBIM/CIMモデルの提出が認められれば、BIM/CIMはもっと普及し、現場サイドでも図面からBIMモデル納品へと切り替わるでしょうが、現段階の制度では難しいですね。ただ、一度、BIMを体験した現場監督は、次の現場でもBIMでの対応を求められます。
国産BIMシステムの普及に期待する声も
――日本におけるBIMへの展開はこれからですね。
小川本部長 福井コンピュータアーキテクト株式会社(坪田信社長)の国産のBIM建築設計支援システム「GLOOBE(グローブ)」に期待しています。
肌感覚ですが、いろんな場所で「GLOOBE」について話を聞くようになってきています。もしこちらが普及すれば現場サイドで仮設計画を作成できる環境が整ってくるのではないでしょうか。あるいは当社が仮設計画を作成しても修正を現場サイドで実施できるようになるかもしれません。「GLOOBE」の中に次世代足場「ダーウィン」をはじめ、他社の手すり先行足場はほぼ入っています。
BIMシステムでの国内シェアでは圧倒的にオートデスク社のRevitが多く、グラフィソフト社のArchiCADが続きますが、ここ最近は「GLOOBE」の存在感が増しています。当社での仮設計画モデリング作成サービスは、RevitとArchiCADで請けていますが、これから「GLOOBE」をサービスの中に導入する事も検討しています。
――今のお話と関わりますが、BIM/CIM人材の養成については。
小川本部長 今はまだ、案件が多すぎて回らないような状況ではありません。本部署はBIM/CIMの支援を担当し、BIM/CIMのモデリング作成は全国の技術部門が行いますので部署が異なります。技術社員は仮設計画をある程度覚えてくると次のステップとしてBIM/CIMへの意欲が増してきます。2次元図面や3次元図面の作成はCADの操作が異なるだけですから、ソフトの使い方を考えるとBIMソフトの動作はほぼ慣れの世界です。BIM取り組みの初期にBIM/CIMメンバーを集めて研修を実施した時は相当に力を入れてやりましたが、、今は実案件をこなしながら覚えてもらっています。
――ベトナムのBIM人材のスキルはいかがですか?
小川本部長 技術力は素晴らしいです。ただ、実際に当社の次世代足場NDシステムをはじめとした仮設材や、日本の建設現場を見たことがないので、それを体験できればもっと良い仮設計画ができるのかなと思います。日本人の平均年齢は約50歳、ベトナム人の平均年齢は約33歳で、頭の回転も早く、同じ図面の作成競争をすれば、圧倒的にベトナム人が早く完成させます。

新世代緊結式足場「ダーウィン」は、手すり先行工法に対応し、より快適で安全な作業環境を構築する。「GLOOBE」にも組み込まれた
――業界のスタンダードを目指していく方針はありますか?
小川本部長 当社がBIM/CIMで先陣を切り、同業他社も追従してきました。本来であれば、仮設業界が集まり、BIM/CIMの属性などについて話し合い、統一したガイドラインを発表すれば、ゼネコンにとってメリットが大きい。しかし、現実には当社や同業他社も含めて、既に各社が完成度の高いBIM/CIMの構築に至りました。それぞれのBIM/CIMの普及が進んでいると認識しており、今から統一させることは難しいですね。
その中で、(一社)仮設工業会(豊澤康男会長)に設置している「仮設工事におけるDX時代のレジリエンス能力向上対策に関する検討委員会」(委員長・建山和由立命館大学教授)は2023年7月に第1回委員会を開催し、正式に発足しました。目的は、仮設工事を含めた建設工事の労働生産性と労働安全衛生の両面にわたる向上を「人」に着目した観点から検討することです。
委員会は、3つの分科会を設置し、①ヒヤリハットをBIMにどのように取り込むか②そのヒヤリハットをいかにバーチャルで体験できるか③BIMに安全情報を盛り込む(仮設足場の危険な場所に情報を仕込み、クリックすると関連法令が表示される。また、使用方法が表示される)を検討します。仮設工業会が旗振りをし、仮設業界からは当社以外にも数社が参加し、統一見解を出す予定で、私も委員のうちの一人です。
――最後に今後の方向性を教えてください。
小川本部長 繰り返しになりますが、基本的には現場にBIMを浸透させていくことにあります。現場では圧倒的に2次元図面が使われていますが、BIMを使ってもらって、まずは3次元の世界に慣れてほしいですね。そのためには、当社からゼネコンに対して技術を提案営業していくつもりです。今は、図面についてはベトナムとミャンマーの人材が相当な戦力になっていますので、国内人材がこの両国と同じ仕事をするのは好ましくない。そこで国内人材はもっとお金を生み出す技術提案が肝要で、もっとビジュアル的にインパクトのあるモデリングを作成し、説明していくことが重要です。
これからの社員のイメージは、営業と技術の融合です。当社は営業スタッフになる新入社員は、1~2年間は必ず技術部門へ配属になります。技術で図面作成を一通り覚えて営業部門へと配属します。ただし、BIM/CIMを教える前に営業スタッフになるので、仮設計画の1部分は習得できますが、3次元のスキル習得まで至っておりませんから、営業スタッフの3次元について顧客に説明できるスキルが必要となってきます。たとえば、先ほど説明した、WEB上で数量が拾える「Nikken コネクト」を説明できる能力が求められますから、3次元データを扱えるスキルが重要です。先端仮設BIMCIM本部のメンバーで、営業スタッフに対して勉強会で説明し、これからも続けていきます。
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