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独自の知見を活かし、高知の海岸と河川の未来をつなぐ渡邊国広氏の挑戦

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公開日:2025.06.20
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デジタル技術の活用 衛星データとDXの可能性

海岸事業におけるデジタル技術の活用も、渡邊氏の関心事だ。特に人工衛星を活用したモニタリングに注目する。「従来は年に1回の現地測量が精一杯だったが、衛星データを使えば高頻度で海岸の変化を把握できる。台風による急激な侵食も追跡可能だ」と語る。内閣府が進める小型衛星コンステレーション計画により、10分おきの観測が可能になれば、砂浜の動態や土砂の流れを詳細に分析できる。

「衛星データは、オープンで無料のものが増えた。台風後の海岸変化をリアルタイムで把握できれば、事業計画の精度が上がる」と渡邊氏は期待を寄せる。例えば、台風による砂浜の消失や土砂の堆積を迅速に検知し、補修や土砂供給の優先順位を決められる。こうしたデータ駆動型のアプローチは、限られた予算と人員での効率化にもつながる。

ただし、デジタルトランスフォーメーション(DX)はまだ道半ばだ。「3D測量やドローンは導入が進んでいるが、業務全体を変革するレベルには達していない」と渡邊氏は課題を挙げる。事務所内の業務効率化も遅れており、「限られた人員で多くの仕事を回すため、デジタルデータの活用をさらに進めたい」と語る。特に、土砂の動きを可視化する技術は未成熟だ。「濁水に含まれる土砂の量や流出タイミングを正確に予測できれば、事業の効果を最大化できるが、まだ研究段階」と認める。

地域と一体となった、人が楽しめる海岸づくり

渡邊氏が最も力を入れるのは、地域と一体となった海岸づくりだ。「防災だけでなく、海岸を人が楽しめる場所にしたい。海水浴客が減り、人が海から遠ざかっている今、環境改善や観光振興を通じて地域を元気にしたい」と語る。砂浜の回復は、防災効果だけでなく、ビーチの魅力向上にもつながる。事務所は、県や市町村と連携し、砂浜の管理や清掃活動を住民参加型で進める計画を検討中だ。

高知県日高村の放水路など、自然環境を活用したグリーンインフラの事例も参考になる。「砂浜や湿地は、自然の防護機能を発揮するだけでなく、地域のアイデンティティを高める。防災と利用のトレードオフをどうバランスさせるかがカギ」と渡邊氏は言う。住民参加型の清掃活動や植生管理を通じて、地域が主体的に海岸に関わる仕組みづくりを目指す。

生物多様性の保全も重要なテーマだ。渡邊氏は、渡り鳥や昆虫が生息できる環境整備を検討中。「砂浜や河川敷を整備することで、生態系の多様性を守り、地域の魅力を高めたい」と語る。例えば、仁淀川の河川敷では、住民ボランティアによる草刈りや植生管理を通じて、生物多様性を高める取り組みが始まっている。「こうした活動は、地域住民の意識を高め、海岸や河川への愛着を育む」と渡邊氏は期待を寄せる。

働き方改革と組織の挑戦

事務所の運営にも課題は多い。渡邊氏は、職員の残業削減や柔軟な働き方の実現をミッションに掲げる。「子育てや育休のニーズが増え、多様な勤務制約を持つ職員が活躍できる環境を整えたい」と語る。特に、男性の育休取得期間が長くなる傾向にある中、従来の働き方を見直す必要がある。「具体的な施策は模索中だが、柔軟な勤務体系を導入し、誰もが気持ちよく働ける職場を目指す」と渡邊氏は意気込む。

また、ICT施工や3D測量を活用した業務効率化も推進中だが、「業者側は進んでいるが、事務所内の取り組みは遅れている。省力化に向けた工夫が必要」と課題を認識する。熱中症対策として、現場のモニタリング装置設置や作業時間の調整も進めているが、「夏の暑さは年々厳しくなる。安全確保と効率化の両立が求められる」と語る。

人材育成も課題だ。事務所の職員は河川管理が中心で、海岸事業に特化したスペシャリストは全国でも数名程度。「海岸事業は国際的な枠組みでの取り組みも多く、専門性を活かせる魅力的な分野。後進の育成にも力を入れたい」と渡邊氏は展望を語る。事務所では、若手職員向けに海岸管理の研修を強化し、専門知識の継承を進めている。

海岸は海を通じて世界とつながっている

渡邊氏は、海岸事業の魅力をこう語る。「河川は地域で閉じた仕事が多いが、海岸は海を通じて世界とつながっている。国際学会や津波対策のグローバルな枠組みに関われるのは刺激的だ」。高知の海岸は、南海トラフ地震のリスクを抱えつつ、観光や生態系保全のポテンシャルも秘める。渡邊氏は、国際的な視野を持ちながら、地域に根ざした事業を進めることにやりがいを感じている。

「海岸事業は、防災だけでなく、地域の文化や経済にも影響を与える。たとえば、砂浜の回復は観光客を呼び戻し、地元の飲食店や宿泊施設に活気をもたらす。こうした多面的なインパクトが、海岸事業の魅力だ」と渡邊氏は語る。また、国際的なネットワークを通じて、海外の先進事例を学び、高知に適したカタチで導入することも視野に入れる。「オランダやオーストラリアの海岸管理は参考になる。彼らのグリーンインフラの手法を、高知の風土に合わせてカスタマイズしたい」と展望を述べる。

気候変動や地域課題と向き合いながら、高知の海岸を次世代へ

高知の海岸と河川は、気候変動や地域の課題と向き合いながら、持続可能な未来を模索している。渡邊氏の研究者としてのバックグラウンドと現場での経験は、グリーンインフラ、デジタル技術、地域共生といった新しいアプローチを可能にする。砂浜の回復、流域治水、住民参加型の海岸づくり――これらの取り組みは、高知を、そして日本のインフラをより強く、魅力的なものにするだろう。

渡邊氏のリーダーシップのもと、高知の海岸は新たな価値を生み出しつつある。防災機能を強化しつつ、地域が誇れる海岸を次世代に引き継ぐ――その挑戦は、高知の風土と人々の暮らしに深く根ざしている。砂浜の波音とともに、高知の未来が静かに、しかし力強く築かれている。

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この記事を書いた人

四国の犬
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基本的には従順ですが、たまに噛みつきます。
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